“特化型”言語モデルを独自開発。生成AIで世界の経済を予測する!「失望期もあった日本のAIブーム。AIビジネスの新たなムーブメントを起こしたい」
公認会計士からITベンチャーの世界に挑んだ起業家が放ったのは、独自開発の経済特化型言語モデルを搭載した、世界初のAIによる経済予測ツール。その裏には、AI(※1)の可能性への確信と周到な戦略があった。
※1 AI:Artificial Intelligence。人工知能。人間の知能を模倣するコンピューターシステムやプログラムのこと。
関 洋二郎氏(株式会社xenodata lab. 代表取締役社長)
1984年生まれ。慶応義塾大学商学部在学中に公認会計士2次試験に合格。在学中に監査法人で実務を経験、卒業後の2010年に同3次試験に合格。株式会社ユーザベースを経て2016年、株式会社 xenodata lab.を創業。(撮影:蔦野裕)
「もともと監査法人で監査をすることになるとはまったく思っていませんでした」
と振り返る関さん。
関氏「在学中に経済系の知識をつける山を見つけたくて会計士試験にチャレンジすることに決めました。ただ、受験勉強のだいぶ後半で会計士試験合格者は監査法人というところに行くということを知り、知ったころには就活市場が閉まっており、監査法人に行くしかない状態でした(笑)」
卒業後、3次試験に受かり会計士の資格を取得。
会計事務所を経て経済系プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」を手がけるユーザベースに入社。
関氏「SPEEDAの事業開発担当を務め、社内MVPも頂き、起業するよりこのまま…とも思わないでもなかったんですが、そんなときにあるAIベンチャーの記事にものすごい衝撃を受けました。アメリカの、ある経済系スタートアップが名だたる金融機関から直接出資を受けてユニコーンになり大成長を遂げそうだというニュースを見たんですが、それがAIを使った経済系のサービスだったんです。これだと思いました。これからの経済はAIを絡めて予測していく世界になる、と。これまで、ブルームバーグやSPEEDAなどが経済データを集めてプラットフォーム化し便利に使うということをやってきましたが、次の時代はAIが膨大なデータをまとめ、そこから示唆を出していく段階に進むと思いました。この事業なら興味関心が尽きることなくやれるんじゃないかと起業に踏み切りました。事業を行う中でいろいろな事業アイデアを持つようになりましたけど、どれも小粒な事業アイデアで、今一つ踏み切るまではいきませんでした。世の中を大きく変えるインパクトのある事業ができると思えたのはその時が初めてでした」
そして挑んだMUFGのアクセラレータープログラムで見事グランプリを獲得。
出資も決まり、三菱東京UFJ銀行(※当時の名称)が初めて出資したベンチャーとして日経の一面も飾ることに。好調なスタートを切ったが誤算もあったという。
関氏「社会への広がりが想定より10年遅かったんです。日本でも2018~2019年ぐらいにディープラーニングが注目されAIバブルが来たんですが、そのときに我々も含めAIベンダーたちは結局、世の中に刺さるプロダクトを作ることができなかった。市場の期待と技術にずれがあったこともあると思います。私の分析では、その結果2020年以降、ChatGPTが出るまでの3年ほど失望期が生まれてしまった。今、LLM(※2)のインパクトがまた社会を動かしています。真のイノベーションはディープラーニングというより、それをさらにサービスまで昇華したChatGPTなどのLLMだったのでしょう。そういう意味では、ここから本当に始まると言えるのかもしれません」
※2 LLM:Large Language Models=大規模言語モデル。膨大なデータとディープラーニング(※3)を用いて構築されており、従来の自然言語モデルよりもデータ量、計算量、パラメータ量が格段に向上している。主なLLMとして「Gemini」(Google)、「ChatGPT」(OpenAI)、「Claude」(Anthropic)など。
※3 ディープラーニング:ニューラルネットワークを用いた機械学習の一種。
経済に特化したLLM『SPECKTLAM(スペクトラム)』もいち早く独自開発。
関氏「実はこれはChatGPT以前から作っていたものです。うちの優秀なエンジニアが“こういうの作ったんですけど”って開発してから私に言ってきまして(笑)。それが2022年の夏ごろ。今までの自然言語処理プラス機械学習とかいうレベルじゃない、これは世の中を変える技術革新になると思いました。その半年後ChatGPTにより、とんでもない勢いで世界がLLMに覆われていき、完全に予想を超えました。そして、すぐにパワーゲームになり、独自LLMで価値を出すことの状況は一変しました。そこで戦い方を慎重に見極め、まずは短期的なビジョンとして、会話型にはしないこと、汎用的にはせず経済に特化した言語モデルにすることを決めました。会話型にしない理由は、このサービスの特性として会話型にする必要がほとんどないから。また会話型にすると、そのための膨大な学習が必要になるので結局、資金力の戦いになってしまう。経済に特化したのも、一点突破じゃないと生き残りは難しいだろうと思ったからです。作詞もできます、画像も生成できますという汎用的なモデルを作るには膨大なコストがかかる。私たちのコンテンツのカギはあくまで“経済のAI予測”。 その精度と、予測の解釈性の向上にLLMの能力を使う方向にして差別化を図ろうと考えました」
特に生成AI(※4)関連は今後、隆盛期を極めていくと語る。そんな先駆者から、AIビジネスで起業を意識している人にアドバイスを。
関氏「AIビジネスは大きく2つの道があると思います。一つは独自のAIを作って技術力で世の中を変革していくタイプ。もう一つがChatGPTなどの世の中の優れたAIを使い、自分のアイデアをビジネスにするタイプ。当然ですけれども、前者のハードルは非常に高いです。通常のWeb開発に必要な要素に加えて、研究開発や機会学習基盤の開発と、必要なイノベーションの回数が倍以上になります。これはスタートアップではクリティカルで、私自身、想像の何倍も大変でした。出来上がっても、戦い方を工夫しなければChatGPTなどの巨人を相手にしないといけない。独自開発をするなら、技術と同様に資金調達が重要となり、根気が必要です。ただ、その分うまくいけば参入障壁が高い独自サービスで、自分たちだけが変えられる、理想的な世界の景色を見ることができることを信じています」
※4 生成AI:ジェネレーティブAI。ディープラーニングの応用技術であり既存のデータや情報を基に新しいコンテンツ(画像、テキスト、音声、コードなど)を自動生成する技術の総称。
関洋二郎さんの起業家年表&「その時の1冊」
【2007年】 慶応義塾大学商学部在学中に公認会計士2次試験に合格。あらた監査法人に入所し実務経験を積む
【2008年】慶應義塾大学商学部を卒業
【2010年】公認会計士3次試験合格
【2012年】株式会社ユーザベース入社。SPEEDA事業開発責任者を務める
【2013年】同社員の全員投票で選出されるMVPを受賞
【2016年】xenodata lab.起業。同年、「MUFGフィンテックアクセラレータ」でグランプリを受賞。
【2017年】7月、三菱東京UFJ銀行、帝国データバンク他2社と資本提携。MUFG初のベンチャー出資が話題に
【2023年】「JFIA2023」スタートアップ賞受賞
『ザ・プロフェッショナル』
(大前研一 著/ダイヤモンド社)
大学在学中に公認会計士2次試験に合格し、実務を経験しながら進路としては会計事務所に行こうと思っていたころに読んだ本。いわゆるマッキンゼースタイルを紹介しながら“プロフェッショナル”となる心得を説いているのですが、その中で、これからのビジネスは「英語」「財務」「IT」だ、とあって。自分がIT監査システムの部門がある事務所に行ったのは大前さんの影響です。当時は自分がITベンチャーを立ち上げることになるとは思っていませんでしたが(笑)。
『7つの習慣 人格主義の回復』
(スティーブン・R.コヴィー 著/キングベアー出版)
何度も読み返している、自分の中でも大切な本です。最初に読んだのは、アメリカに留学中で、原書で読んでみたんですけど全然頭に入ってこず、帰国後に日本語訳版を読みまして。起業家や経営者には人格形成こそが重要だという長期的な視点での指南本になっていて、けっこう影響を受けています。自分にとって自己啓発系の本はこの1冊あればと思えるくらいバイブル的な本になっています。
IT×財務の新たな可能性を拓く!独自開発のAIで経済予測
経済予測AIと、独自開発した経済分析専門の言語モデル「SPECKTLAM(スペクトラム)」を組み合わせた「xenoBrain」を展開。「説明可能なAI」(※5)により予測根拠の分析を可能にした世界初の経済予測プラットフォームとして注目を集め、導入企業は150社を超える(2024年9月現在)。
※5 説明可能なAI:AIの振る舞いをあらゆる観点から理解し、信頼できるようにすることを目的とする技術の総称。出力結果に至った経緯や判断の根拠を説明できるAIを指す。
株式会社 xenodata lab.
【URL】https://www.xenodata-lab.com/
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