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スタートアップがグローバル市場で成功する秘訣を聞く! 多様性を活かした組織づくりとカルチャー

 スタートアップがグローバル市場で成功するために多様性を活かした組織づくりとカルチャーについて話す中谷真紀子氏

急成長中のスタートアップが多様な人材を最大限に活かし、グローバル市場で成功するためには、他社との差別化につながる独自のカルチャー構築がカギを握ります。

今回は、People Tree合同会社のCo-Founder&COOである中谷真紀子氏を講師に迎え、グローバル市場で活躍できる組織作りと人材マネジメントの極意についてお話しいただきました。

特に海外進出を視野に入れている方、スタートアップの成長をさらに加速させたい方必見のセミナーの様子をレポートします。

 

登壇者紹介

People Tree合同会社 Co-Founder&COO 中谷真紀子氏

中谷 真紀子氏
People Trees合同会社 Co-Founder&COO)

一橋大学卒業後、リクルートにて採用・人材開発・組織開発に携わる。2014年に江崎グリコに転じ、経営企画・人事の立場で同領域及びD&I、CSR推進を担当。2019年にリクルートHDに戻り、役員直下プロジェクトにてエンゲージメント向上を起点としたEmployee Experienceデザインを担当。その後、参天製薬のタレントマネジメント責任者として従事。2019年6月、People Trees合同会社を共同創業。主にエンゲージメント向上・DE&I推進等の組織開発領域やISO30414取得支援、人材育成などのテーマで企業及び自治体の支援を行いながら、自社のチーム作りを推進。

・ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー

仲間を集めるカルチャーの重要性

今回のイベントは、中谷氏によるセミナーとワークショップ形式の交流会という2部構成で行われました。

前半のセミナーでは、中谷氏の経験や知見を中心に、スタートアップにおけるカルチャーの重要性やタレントマネジメントの極意をお話しいただきました。

 スタートアップがグローバル市場で成功するために多様性を活かした組織づくりとカルチャーについて話す中谷真紀子氏

2019年に副業で共同創業という形でPeople Tree合同会社を立ち上げた中谷氏は、コロナ禍で副業が社会に浸透する流れに合わせて、3年かけて独立の準備を進めていったといいます。

中谷氏「新卒で入ったリクルートでは8年ほど組織開発や人事に携わりました。その当時は起業をまったく考えていませんでした。結婚による転居をきっかけに製造業の人事部に転職。経営者と二人三脚で取り組む業務が増え、細かい作業も自分ですべて担当する中で、経営がよりリアルに感じられるようになっていきました」

中谷氏が経営する現在の会社は、52人のメンバーのうち正社員は数名。他のメンバーは本業を別に持っている方が大半であり、副業や兼業という形でプロジェクト単位で協働しながら事業を運営していると言います。

中谷氏「今のメンバーは、過去に一緒に働いたことがある人や大学の同級生などを中心に徐々に広げていきました。今回のテーマでもある自社のカルチャーを強めていくことによって、カルチャーベースで自分たちに合った人が仲間になってくれています」

現在手掛けている人事コンサルティング事業でも、組織の中で新しい事業を作るときやビジネスを始めるときなど、さまざまな場面でカルチャーの重要性を感じているという中谷氏。自身の経験から、創業者の生き様や創業の動機、経緯などが自然に会社のカルチャーになっていくという不思議さも感じているといいます。

 スタートアップがグローバル市場で成功するために多様性を活かした組織づくりとカルチャーについて話す中谷真紀子氏

ここではさらに中谷氏の会社のバリューである「Ownership」「Fun」「Frontier」の3点を例に出しながら、それぞれの背景にある想いや出来事を詳しく紹介してくださいました。

中谷氏「今、皆さんが大事にされているものやこれまでの人生で引っかかったこと、エネルギーが湧く源になったものが、今後事業を生み出していく中でカルチャーにつながっていくのではないかと思います。特にスタートアップとして事業を始めると、環境の変化で変わるものがたくさんあるはずです。だからこそ、変わらないコアになるものを何に定めるのかがとても大切なのです」

会社として大事なものを表現するうえで、わかりやすい考え方の一例として「インテグラル理論」も紹介していただきました。

インテグラル理論:「文化」の重要性

中谷氏「事業の戦略や組織の構造など、図の右側にある部分は表現もしやすく、いろいろな人とのコミュニケーションも取りやすい分野です。一方、左側にある文化や価値観、歴史といった分野は、きちんと言語化していくことで他社との差別化要因になり、誰にも真似できない要素になっていくものです」

中谷氏いわく、「集団でスタートアップを作るには、仕組みはもちろん大切だが、いかに皆で共有できる真似のできない文化を作れるのかが土台となる」とのこと。企業としての求心力になる核を明確にするためにも、唯一無二のカルチャーの創出が欠かせないのです。

企業の競争力を高めるしなやかな多様性

求心力の明確化に続いて重要になる、多様性についても解説してくださいました。

近年海外でトレンドになりつつあるのが、DEI&Bという考え方です。以下の図のように、DEI&Bは「Diversity」「Equity」「Inclusion」「Belonging」から構成されます。

DEI&B:「Diversity」「Equity」「Inclusion」「Belonging」

この中で「Belonging」が表す「自分の居場所があると思える安心感」は求心力に関する分野であり、「カルチャーや自分自身の軸に起因して形成される部分」だと中谷氏は言います。

中谷氏「核がしっかりできていれば、スタートアップとして事業やフェーズが次々に変化する中でもどんどん進化していくことができるのではないでしょうか。その進化の中で必要になってくるのが、多様な人材の考え方を受け入れる土壌やマインドがあるかというInclusionやDiversity、公平・公正さを大切にできるのかといったEquityなのです。これらの視点を持つことが、最終的には企業の競争力を高めていくことにつながっていきます」

ここでは、Equity(公平)と似た概念として、Equality(平等)との違いも詳しく解説してくださいました。

 スタートアップがグローバル市場で成功するために多様性を活かした組織づくりとカルチャーについて話す中谷真紀子氏

日本はこれまで「平等」という概念が強く、全員に同じように機会を与えるというケースが一般的とされてきました。しかし現代では、それぞれ事情や希望が異なることを考慮し、その人に会ったサポートをすること、つまり「公平」が大切だという考えが広まってきています。中谷氏自身も、人事の世界における考え方が「全員平等」から「個の尊重」にシフトしているのを感じているというお話がありました。

さらにDEI&Bの現在地として、中谷氏が訪問したサンフランシスコの人材マネジメントの事例も紹介されました。

日本では女性の採用率などに数値目標を掲げるケースが多くみられますが、海外では「お客さまが多様なのだから、スタッフが多様であるのは経営手段として当たり前」というスタンスが一般的となっているそうです。

 スタートアップがグローバル市場で成功するために多様性を活かした組織づくりとカルチャーについて話す中谷真紀子氏

中谷氏「ダイバーシティという言葉すら使っていないことに衝撃を受けました。サンフランシスコでは、人種や宗教の多様性が高いという環境もあり、『社内に多様性がないことでビジネスニーズに気づけないことが一番のリスクだ』という考えが一般的となっているそうです。性別や人種、キャリア、宗教、年齢など、さまざまな背景を持つスタッフがいることをビジネスとして活かして成長していく、しっかり市場に価値を提供できる会社であるべき、という話を聞けたのが大変良かったです」

市場に合わせた形でよりしなやかにビジネスを提供する側が、変化しながらビジネスを伸ばしていくサンフランシスコの企業の姿勢は、女性の管理職の増加など部分的に変えていこうとする日本とは対照的であり、とても印象に残りました。

中谷氏は、「『求心力』がカルチャーだとすると、多様性は『遠心力』に当たるもの」だと話します。スタートアップはしなやかな変化が求められるからこそ、多様性を大切にできる土壌づくりが重要になっていくのです。

中谷氏の会社も、世代や価値観、ITリテラシーなどさまざまな違いを持った仲間が集まり、それぞれの持つ知識やネットワークを持ち寄ることで助け合うことができているといいます。異なる背景を持つ人を仲間にしていくことで幅広いリソースにリーチできるようになるのは、多様性のメリットの一つだと言えるでしょう。

最後に中谷氏は「カルチャーをベースとして、全体を求心力で寄せていく部分と、多様性によってしなやかに広げていく部分を作っていくのが良い」として、カルチャーの重要性に関する話題をまとめました。

強みを活かす人材マネジメント

続いて、人を惹きつける人材マネジメントについても、ご自身の経験を踏まえて詳しく解説していただきました。

ここでは、会社の持つカルチャーやパーパス(自社の存在意義)を対従業員にフォーカスして言語化・視覚化するEVP(エンプロイー・バリュー・プロポジション:従業員提供価値)を中心に進められました。

EVPを言語化すると、自社に来ることで受け取れる価値を従業員に明確に示すことができ、相互にしっかりとした関係性が築けるというメリットがあります。

EVP(エンプロイー・バリュー・プロポジション:従業員提供価値)とは

こちらの図ではまず、「個人にとって何が良いのか」という切り口から以下の要素を考えていきます。

■どんな人と働けるのか

■どんなキャリア形成ができるのか

■どんな風土文化があるのか

■どんな職場環境なのか

■得られる金銭的・非金銭的報酬は何か

 

中谷氏「ここで働くと何が得られるのかをトータルで考えていく中で、従業員が得られる価値を言語化していくと、企業の経営自体もぶれなくなっていきます。会社が社会に対して何ができるのかという部分にもつながっているので、しっかりと言語化しながら考えることが大切です」

中谷氏は、クライアントをサポートする中で、「自分にとって当たり前になっていることほど自身では気づけない傾向がある」と感じているとのこと。まずは自分の中の当たり前に気づきひとつずつ言語化していくことが、従業員とより良い関係性を築く第一歩になるのです。

さらに中谷氏は、「会社を作るときに何を武器にするのか」という観点から考える方法も紹介してくださいました。

従業員が会社に示すエンゲージメントには、図のような4つの要素があるといいます。

エンゲージメントに影響する4つの要素

それぞれの要素は独立しているように見えますが、少なからず相互に関係しています。それぞれの関係性も踏まえながら、「自分の会社は何が強みになるのかという視点を持ち、どの魅力を強調していくのかを考えることが大切だ」と中谷氏はまとめました。

最後に中谷氏は、人材マネジメントに関するサンフランシスコでの知見も共有してくださいました。

採用を行う場合には、必要とする仕事にふさわしい人の条件を言語化していくのが一般的です。しかし最近では、採用を仕事単位で考えるだけではなく、「どんなスキルが自社には必要なのか」という視点でさらにブレイクダウンして捉える企業が増えてきているそうです。

スキル中心の視点で採用を考えると、必要な人材に対する解像度が上がり、より良い採用が出来るだけでなく、社内の人材を移動させて育成するなど、従業員がより長期にわたって会社に貢献することも可能になります。

また、性別や年齢などに対するバイアスが生まれにくいといったメリットもあるそうです。多様性を受け入れる風土づくりの一環としても、採用をスキル単位で考えることは大きなメリットを生むと言えるでしょう。

その後、参加者の皆さんからの質問に一つずつ回答し、前半のセミナーは終了しました。

 

イベントの後半では、自分の会社やベンチマークしている企業について実際にEVP(エンプロイー・バリュー・プロポジション:従業員提供価値)のワークシートを埋め、参加者同士で共有するワークショップが行われました。

イベント後半で行われた参加者同士のワークショップの様子

最後に中谷氏より、「今回のワークで扱った従業員提供価値は、どんどん共有していくことが大切です。従業員が価値を体験できるように、評価制度に取り入れるなど会社に合った形で体現していくことで、最終的にフィットする方を引き寄せて、事業成長にもつながっていきます。ぜひ今回のイベントが、どこかで皆さんの後押しになれば嬉しいです」とのエールをいただき、イベントは終了しました。

 

構成・文/やまぐちきよみ

 

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