『壁を乗り越えた2人の創業者~エクイティファイナンス実践講座プレイベント~』座談会パートのレポートをお届けします。
日本初「株式型クラウドファンディング」事業を立ち上げた、株式会社日本クラウドキャピタル代表取締役CEO 柴原祐喜氏、「あらゆるモノをIoT化する電池」を商品化して大きな話題をさらったノバルス株式会社代表取締役 岡部顕宏氏に、起業の経緯や資金調達の苦労、今後の目標などを語っていただきました。
ゲスト:柴原 祐喜氏 株式会社日本クラウドキャピタル 代表取締役CEO/岡部 顕宏氏 ノバルス株式会社 代表取締役
モデレーター:木立 宜弘氏(Startup Hub Tokyoコンシェルジュ)
木立:モデレーターを務めます、木立です。よろしくお願いします。改めまして、柴原さん、岡部さん、ご講演ありがとうございました。お二人の創業の想いや創業の経緯、私自身楽しくお聞きしました。お二人とも解決しようとしている課題がとても大きいですね。柴原さんは、話し方はクールなのに、日本のスタートアップの資金調達の常識を変えたい、変えなきゃ、という熱量を強く感じました。岡部さんは、すごく優しそうな趣きの中に、創業時から未来の社会を見据えて、ものづくりで日本のIoTを牽引しようと思いが溢れていました。
最初にぶち当たった壁
木立:ここからは、質問を交えながらお二人のお話を堀り下げていきたいと思います。まず、今日のテーマが「壁を越えた2人の経営者」なのでお聞きしないと。創業以来どんな壁にぶち当たって、どのように感じて、どう乗り越えたか。その辺を伺えますか。
柴原:まだ壁を越えたっていう実感は、実はなくてですね。
木立:そうおっしゃるのでは、と思っていました。
柴原:まだまだやらなければならないことがたくさんあります。ただ、これまででというのであれば、やはり「株式型クラウドファンディング」を扱うための金融商品取引業の登録を受ける、という壁が最初の壁でした。新しい法律の登録を、それも一番手で取る。これがどれだけハードルが高いか全く知らなくて、無知って怖いなと今でも思います……。
木立:知らないのに走り出した?
柴原:はい。監督官庁である金融庁の関東財務局に概要書を提出し、業務の登録を申請するのですが、当時は金商法も何も分からず、条文を読み解きながら、当局とは何千という質問項目のやりとりをして、ペーパーも天井に届くぐらい作成しました。さらに、組織の体制を先に作らなくてはいけなくて、金融の知識を有する者を一定人数、配置しておかなければ業務の登録が受けられない。また、登録がないと当然、ビジネスをスタートできない中、ただただ固定費でお金がどんどん飛んでいく状態です。業務をいつ開始できるか分からない状態で、何も始まらないまま会社が終わるのではという恐怖と隣り合わせでした。何とか登録が取れサービスをローンチできたのは、一つの壁を越えたことかなと思います。
木立:準備を始めてから登録が取れるまで、どのくらいかかりましたか?
柴原:1年3カ月~4カ月くらいかかりました。
木立:どのぐらいの期間で取れると見込んでいましたか?
柴原:当初は半年ぐらいで取れると思っていたのですが、甘かったですね。
木立:相当、資金的にも厳しかったと思いますが、その辺は次の質問に回しましょう。さて、岡部さんは、いかがでしたか。
岡部:私も、ひとつ小さな壁を越えるとまたさらに大きな壁、という状況が常に続いていますが、最初の壁は「本当に売れるか」だったと思います。当社のIoT乾電池は、自分としては、事前のユーザーインタビュー等で徹底的にマーケットリサーチをしたつもりでした。アンケートでは「いくらだったら買います」とか、「これいいですね」という意見をたくさんもらっていて、それでも本当に一般の人たちがお金を払って買ってくれるのだろうか、というのはまた別問題だとも思っていました。結果的に、クラウドファンディングで1,000人弱の方から買っていただいたけたのですが、そこが最初の乗り越えた壁だったと思います。もちろん、クラウドファンディングだけで終わってしまう事例もたくさんありますし、その先には実際に店頭で売れるか、という壁もあったのですが、私の場合はクラウドファンディングで結果が出たおかげで、メディアに露出していただき、店頭販売ができました。
木立:振り返って第三者的にみると、すごくスムーズに販売まで立ち上がったように感じます。
岡部:先ほどの講演のスライドでは数枚で説明しましたが、実は1冊の本が書けるぐらい緻密に設計をしていました。プレスリリースを出すタイミングは何曜日の何時が良いのだろうかも考えましたし、クラウドファンディングのノウハウを持っている人たちの所に行って聞きまくるとか、できることは何でもタスク化してやっていきました。やっぱり後がなかったので、考えられるあらゆる手段は試した、というのが裏側の真実です。
資金ショートの不安
木立:そのように緻密な計画を立てたのであれば、資金計画も相当入念にというか、慎重に立てられたのだろうという気がしますが、実際はどうでしたか。
岡部:いや、資金面はひやひやしながらでした。助成金も取りながら、なんとか凌いできたという感じです。モノづくりってお金がかかりますし、VCからの出資は、一般発売にこぎつけたタイミングぐらいでしたので、そこに至るまでのモノを作る時点では、会社の残高なのか家庭の残高なのかっていうくらいまで資金が減って、ひやひやするときもありました。
木立:端的にお聞きすると、お二人とも資金ショートの不安は強くありましたか?
柴原:そうですね。登録が延びた瞬間にいきなり資金ショートの恐怖は味わいました。当然、登録が取れないと関連するビジネスも一切できないので、ただただお金が流れて行き、資金ショートが見えてくるというのは、すごく怖かったです。登録が取れた後も、事業を拡大していく上で、ちょっとアクセルの踏み方を間違ってしまうと資金ショートが起こり得るような状況が何回かあり、常に運営していく中で恐怖を持ちながらやっていますね。
岡部:資金ショートの不安は、先ほどのクラウドファンディングを始めるとき、大型の資金調達の前のときなど、何回かありました。生々しいお話しだと、ある金融機関からの借入れの話が進んでいたのに、最後の最後で「やっぱりできません」と言われたことが実際にあり、本当に青ざめましたね。
木立:夜に眠れないということはありましたか?
柴原:割とその辺は精神的に強かったのかもしれません。はじめは何もないところから始め、かつ独身なので身一つなので何とかできるという考えです。
岡部:他人からは、ストレス耐性があるように見られるようですが、自分ではあまりないと思っていますし、眠れない夜もあります。逆にそれを乗り越えなければ続けられないと思います。ある人から言われたのは、起業家の半分は、ストレス耐性があるかないかで決まるよね、って。まあ、越えられない壁はないと思って、日々生きているようなところはあります。
木立:資金ショートのピンチはありながらも、それも乗り越えて、お二人それぞれに大きな資金調達を遂げられたわけですが、資金調達成功の要因や、逆に資金調達での後悔があればお聞かせください。
柴原:先ほどの資金ショートの恐怖と裏表で、資金調達は我々にとっては至極重要なものです。最初のシード資金は自己資金でスタートしました。そこからシード資金がショートするとなったときに、エンジェル投資家様に支えていただきました。当時はまだ業務の登録を受けておらず、ビジネスはスタートしていなかったのですが、自分がつくりたい世界や、解決した後に起こり得る世界をしっかりと説明し、何もない状態で自分を信じて投資をしてくださったエンジェル投資家がいらっしゃいました。その方がいたから、資金ショートも乗り越えられましたし、その後もいろいろサポートをしていただき、叱咤激励を受けながらも応援していただき、今私はここに座っているのかなと思っています。その後、少しトラックレコードが出てきた段階になると、VCやCVCからの調達というステージに入っていくのですが、断ってくるVCも多くいた中、明日会社がつぶれるのではないかという恐怖を味わいながら、何とか資金調達をして生き延びることができました。
投資家との縁
木立:柴原さんは、シード期にエンジェル投資家の方から出資を受けていますが、どのように知り合ったのですか?
柴原:知人から紹介を受けてお会いして、株主として入ってくださったという経緯があります。そこに関しては、本当に自分から何かというよりは、運がよかったのだと思います。ただ、運も調達のために動き続けていく中で発生しますので、会社がどんなにつらくても、どんな状況でも、やはり諦めずに動き続けないと調達できなくなってしまう。苦しい状況だからこそ思考を止めずに、ありとあらゆる手を打って調達に動くのが必要だというのは、今だからこそ強く言えますね。
木立:岡部さんにはエンジェルのようなポジションの方はいらっしゃいましたか?
岡部:そういう方のご縁はなかったです。というよりも、会社員をやっていたのでVCなどの業界を全く知りませんでした。資金調達とか投資家についてもっと知識があれば、VCやエンジェル投資家の方がいるコミュニティに積極的に行くという活動もできただろうな、今思えばやっておけばよかったな、と思っています。
木立:それでも岡部さんは、早い段階で大手のVCに出資を受けていて、順調だったように見えます。そのVCとはどういった経緯で出会ったのですか?
岡部:ある人から、試作品があるのだったらキャピタリストの方が集まるイベントでピッチに出てみたら?と声を掛けていただき、ピッチをしたのがきっかけでした。他にもそういうシードステージのピッチイベントはあるでしょうし、これから資金調達をされようとする方はどんどん出てみたらいいと思います。
木立:岡部さんも柴原さんも、VCに対しては何を強くアピールし、何が響いたと思いますか?
岡部:自分の原体験です。自分がどんなことをやりたいのか、どんな世の中を目指しているのか、それにどれだけ本気なのか、ということが問われていたように思います。今でこそ「コネクティッド・バッテリー」という単語にしていますけども、当時はそんなシンプルなサービスとかモノではなく、「概念」に近かったです。あとは、チームについてもよく聞かれました。もう一つ心掛けていたのは、質問に対するレスポンスのスピードでしょうか。とにかく打つというか、来たボールをすぐ返すことをやっていました。
柴原:VCが投資を検討する際に経営者を見るというのは事実なので、いかに自分がこの事業に対してコミットしているか、その姿勢を見せていくことは重要だと思います。
事業計画
木立:投資家に事業計画を見せて、そのとおりに行きましたか?
柴原:予実はブレます。
木立:どのくらいブレました?
柴原:ダウンサイドで35%ぐらいですね。
木立:マイナス65%ですか?
柴原:そうです。思いきりずれます。VCに対する一つのテクニックとして、自分たちが描く世界を大きく見せるというのは必要だと思います。そこに対して根拠を求められるのも事実ですが、VCもその事業計画書どおりにいくとは思っていないはずです。VCは作り手側のストレッチも見込んで株価を評価しますので、ストレッチをした事業計画で出しておいた方がいいと思います。一方で経営者としては事業計画上の「バッドシナリオ」よりもさらに悪いリスクに備えるのも非常に重要で、それを予測しながら早めに手を打たなくてはいけません。資金調達の場合は、特に悪い状態になってからではどこも見向きもしてくれなくなりますので、あらかじめいい状態のうちに調達していくのも必要だと思いますね。
木立:でも、貴社の「FUNDINNO」に載る株式型クラウドファンディングの投資案件は、堅い事業計画を組んでいるものが多いのではないですか?
柴原:「FUNDINNO」は公募増資の形態になるので、一般の投資家に対してはやはり大きい数字を見せるというよりも、堅実な数字を見せるべきだと考えています。そこが私募という範囲のVCなどの出資の状況と違うのかなと思います。
木立:確かに、VCはプロですから、自分でこの事業の将来性を考えろ、と。こちらが出した事業計画を鵜呑みにするVCはプロじゃない、ということですよね。
柴原:おっしゃるとおりです。当然、VCは目利きができるという前提があります。また、VCに対しては、ロジカルに説明したほうがいい場合と、パッションといいますか、自分がつくりたい世界をしっかり語ったほうがいい場合と、担当者によって違う場合もあります。担当者をよく見て、使い分けることも必要です。
木立:岡部さんはどうだったでしょう?事業計画と実際の乖離はありましたか?
岡部:当社のコネクティッド・バッテリーが全く前例のないものだったので、将来の計画がとても難しく、そういう意味でギャップはいろいろありました。けれども、その中の一つ一つの要素には、確度を高められる部分もあります。予測が当たっていた部分と、実際にそうではなかった部分それぞれを分析して、単純に当たった、外しただけでは終わらないように取り組むように心がけています。まあ、まだまだですけど。
木立:岡部さんの事業はプロダクトがありますので、積み上げて、何個売ればいくら儲かるという絵は短期的には描きやすいですが、それを中期的・長期的に見せるのはすごく難しい気がします。投資家への見せかたはどう考えていましたか?
岡部:今後、Mabeeのようなコネクティッド・バッテリーが、今の電池や通信モジュールに代わり様々なものに搭載されていきます、と定性的にしか語ることができない未来の部分と、一方で、顧客にこういう課題があって、その課題に対して我々はこのソリューションを提供します、そのためのアプリケーション群としてこういうものがあります、という手前の部分。この手前の部分はかなり解像度を高めるようにしました。かつ、資金調達のラウンドが進んでいくと、解像度を高めるだけではなく、実際にこれだけのto Bのパートナーが注文書ベースでコミットしていますとか、資本も出しますと言えるようにする。創業してから時間が経てば経つほど、より確度の高い状態にしていく必要があり、それらを一つずつ積み重ねながら進んでいます。
木立:現実の部分と夢の部分のバランスを考えて、描いているということでしょうか?
岡部:はい。どこまで描き切れているか分からないですけどね。
次の挑戦
木立:事業を伸ばすために、今後も資金調達を何回か行っていくことになるのかもしれませんが、その辺も含めて、次の挑戦は何と考えていますか?
柴原:損益的には、変動費、当社でいう広告費とシステム開発費をカットすると黒字が出せる状態になってきていますが、さらにマーケットを拡大するために、広告費はかけていきたいです。加えて、スタートアップ側の成長支援にお金を使っていきたいと考えています。事業者が使う事業計画書の作成ツールや、資本政策の作成ツールです。我々は、日本全体のスタートアップへの出資額が高まってほしいと考えていますので、「FUNDINNO」で資金調達してもらえなくても構わない。資金調達をするときには事業計画、資本政策はセットで必要になりますので、それらがしっかりと作れるようなクラウドサービスの開発を進めています。また、クラウド会計ソフト等と連携して、経営者が経営状態を把握し、株主や金融機関にすぐに説明できるような予実管理ツールも提供していきたい。あともう一つ、未上場株のセカンダリーマーケットを作りたいと考えており、ブロックチェーンを使って株主管理する、という仕組みの研究をしています。
次の資金調達をするかしないかはまだ正直悩んでいますが、資金調達をする場合資金使途としては、広告費とシステム開発費を考えていますね。
木立:要は、将来の成長のために赤字を掘るっていうことですよね。
柴原:はい。スタートアップの成長支援は、我々が一番やりたいことなのでここに一番お金を使っていますが、なぜ投資を回収しないのかとプレッシャーを受けるときはあります。それでも、スタートアップを応援すること=ビジョンを達成することこそが大きな世界を創り結果として大きなリターンが見込まれると考えています。また、挑戦している人=スタートアップ企業を応援するのが大好きなメンバーが集まっています。我々の唯一の資産はそうした「想いをもっている人」なのでそうした仲間の想いをまとめビジョンを曲げずに世界を構築していくことが世界を変えて世界を創ることになると確信しています。そうした想いを当社の株主様も信じてくださっています。
木立:それを最終的に許容してくれる株主も素晴らしいですね。良い株主を見つけられたのだろうなと思います。岡部さんはいかがでしょうか?
岡部:今まさに調達の最中でして、今回のラウンド、また次のラウンドと、それぞれ、マイルストーンを区切っています。今回のラウンドは事業会社とのコラボレーションを中心に進めていて、デジタルフォーメーション化を加速させるために当社の技術を使いたいという様々な業種業態の企業と、資本面も組みながら事例をつくっていこう、という取り組みです。次の資金調達ラウンドは、それを元に、さらに日本全国、もしくは世界に飛びだしていくことを目指しています。
木立:最後にお二人から、これから起業しようとしている人、これからエクイティファイナンスをしようとしている人にメッセージや激励の言葉をいただけますでしょうか。
岡部:今から4〜5年前の私は、まさに起業しようかどうしようか悩んでいる状態でした。結論から言うと、是非一歩踏み込んでいただきたいと思います。うまくいくかいかないかは、いろんなケースで分からない部分がありますが、その一線を越えた体感や経験値があるかないかで、人生の価値観は大きく違ってきます。一度しかない人生、違う価値観で人生を歩めると思いますので、やるならば是非チャレンジしてほしいと思います。
柴原:起業で得られた達成感という点は、私も同感です。チームで何か物事を成し遂げるときの気持ちよさは是非、体験していただきたいです。ただ一方で、投下した時間で達成感を味わえる時間は、1%以下です。残りの99%は、仲間と達成感を味わうために辛いことを乗越えることや努力の時間となります。
そこに対して心がもつかどうかはしっかりと考えながら起業していただきたいです。物事から逃げたり途中で諦めたりすると、どうしても信用を失ってしまう。周りの信用があるからこと世界を創ることができます。最も重要なのはやり遂げること。必ず諦めずにやり遂げるんだ、という気持ちを持って起業していただければと思います。
木立:お二人とも、今日は本当にありがとうございました!
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