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商品やサービスのお値段、どうやって決めていますか?

イベントレポート プライシング

値段のつけ方に自信がない……。いくらで売ればいいか分からない……。
そんなお悩みを持つ起業家さん、多いのではないでしょうか?
「起業後の成長や経営まで考えると、プライシングはビジネスアイデアと同じくらい大切です。」
そう語るのは、大手企業やスタートアップの新規事業開発に携わり、戦略的プライシングの重要性を説くアライブスピット株式会社の篠原氏。
今回のイベントレポートは、値付けのプロフェッショナルによる「より良い価格の決め方」についてお届けします!
講師・篠原氏のお話から、「価値」を安売りせずに「価格」を決めるヒントを見つけていきましょう。

7/28開催 “起業前に”知らないと損する「プライシング」の話〜「価値」を安売りせずに「価格」を決めるヒント

篠原 翔氏(アライブスピット株式会社 代表取締役/Chief Value Officer)

篠原 翔氏(アライブスピット株式会社 代表取締役/Chief Value Officer)

大学卒業後、欧州最大のIT企業に2005年新卒で入社。法人営業・インサイドセールス組織立ち上げを経て、ITの「機能」ではなく、経営層に「価値」を訴求する専門チームに新卒初・20代初で参画、世界最年少(当時25才)でプリンシパルへ昇格。MBA進学、在学中の複数社起業の後、監査法人のM&A部門を経て、グローバルのコンサルティングファームで戦略的プライシングソリューションの日本市場開発をJapan Leadとして統括。「価値を高めるプライシング」の研究を続け、ベンチャーキャピタル勤務等を経て、個人や企業が自身の価値を最大限に発揮し、より輝くための支援をするアライブスピット社を設立。「価値」“Value”を重視した改革やプロジェクト推進を得意とし、企業規模・業種・業界・業務をまたがる前例のない領域における新規事業開発、先端テクノロジーやデータ活用の視点を含む経営改革に多く従事している。保有資格は米国ワシントン州公認会計士、IFRS検定、簿記1級、1級色彩コーディネーター、テキーラソムリエ、ケースメソッドインストラクター、TOEIC 965ほか。慶應義塾大学大学院経営管理研究科、Oxford Blockchain Strategy Programme 修了。

 

「価値」と「価格」の関係について

なぜ価格が重要なのか?

冒頭のリアルタイムアンケートでは、「価格が重要である」と答えた参加者が100%だった一方、「十分考えられている」と答えた参加者は20%程度。重要なのに十分考えられていない、そんな価格について、まずはその変化が利益改善にどれくらいインパクトがあるのか見ていきましょう。

篠原氏「表には売上高の構成要素(単価・数量)コストの構成要素(変動費・固定費)が書かれています。様々な分析結果が公開されていますが、ここでは細かい数値や各要素の定義ではなく、それぞれがどれくらい利益に影響するのか、まずは大きな“感覚”をつかんでもらえたら結構です。例えばこの表では、単価が1%上がると、利益は6%改善する。同様に数量が1%上がると、利益は2%程度改善、固定費では1%程度利益が改善するという調査結果となっています。単価改善は数量の3倍弱、固定費の5倍を超える利益へのインパクトがある。細かな数字は気にしなくて良いですが、まずは価格のインパクトが“非常に大きい”という感覚をつかんでください。」

ここからちょっと算数!価格改善の影響の試算例を紹介

イメージがより具体的にわくよう、損益計算書を抜粋。下記では「変動費率60%、営業利益10%」の会社の数値例を紹介しています。

~損益計算書で価格のインパクトをチェック~(上記画像参照)
売上高:単価①が10、数量②が10。売上高は10×10=100
変動費:単価③が6、数量が10。変動費は6×10=60
固定費④は30とすると、営業利益は10。

それでは、次に「価格改善の影響の簡易試算例」をみていきます。

Case① 販売単価を10%上げられた場合
販売単価が10%に上がるので、売上高の単価は10→11に変わり、売上は単価11×数量10=110に。他の値は変動しない為、「売上高110-変動費60-固定費30=営業利益20」となり、営業利益は10→20に上がり、営業利益は「100%改善」 になる。

Case② 販売数量を10%上げられた場合
販売数量が10%に上がるので、売上高の数量は10→11に変わり、売上は単価10×数量11=110に。売上数量が上がると、変動費の数量も10→11に変わる為、変動費は6×11=66に変化。よって「売上高110-変動費66-固定費30=営業利益14」となり、営業利益は10→14に上がり、営業利益は 「40%改善」になる。

Case③ 変動費を10%下げられた場合
売上に比例して増減する原材料費などのコストである変動費は60→54に変わり、「売上高100-変動費54-固定費30=営業利益16」となる。営業利益は10→16に上がり、営業利益は 「60%改善」に。

Case④ 固定費を10%下げられた場合
売上に関わらず一定の賃料などのコストである固定費は30→27に変わり、「売上高100-変動費60-固定費27=営業利益13」となる。営業利益は10→13に上がり、営業利益は 「30%改善」になります。

上記4つのケースから、各値の変動による「利益への影響度」が見えてきます。

あるある!よくあるこんなケースもチェック ✅

例えば、 「売上を増やす為に値引きしました!その結果、売上も販売数も利用者数も増えました!」とします。こう聞くと一見良さそうですが…。先程と同じ損益計算書の例で具体的に見ていきましょう。

例:10%の値引き結果、20%売上数量がアップ!しかし営業利益は……
10%値引きした結果、数量が10→12に上がり、「売上数量が20%アップ」したとします。売上高は108(単価9×数量12=108)となり、8%アップ!
しかし、変動費の数量も10→12に増えるので、変動費は72(単価6×数量12=72)に変わります。固定費は変わらない為、「売上高108-変動費72-固定費30=営業利益6」となり、営業利益は10→6の 40%ダウンに……。

続いて 「値上げ」のケースを考えていきましょう。

例:10%値上げの結果、20%売上数量がダウン……
売上高の単価を10%増やし、売上高の数量が8に下がったとします。売上高は88(単価11×数量8=88)に下がりますが、変動費も48(単価6×変動費数量8=48)に下がる。結果「売上高88-変動費48-固定費30=営業利益10」になり、営業利益は値上げ前の10のまま。 売上高は落ちてもコストが減ったことで営業利益は変わらない、値上げして仮に売上高が減っても、売上数量が一定以上(この例では20%以上)減らなければ、むしろ営業利益は増えると読み解けます。

ここで冒頭の質問に戻ります。なぜ価格が重要なのか?

篠原氏「ひとつは“経営へのインパクトが大きいから”。また、数量やコストなどの “他の指標より検討・対策が十分でないから”。さらに加えるとすると、(実際にその価格で売れるかどうかは別としても) “価格は自分で決められるから”と思います。みなさん、価格について十分に考えられていますか?数量やコスト以上に考えられていますでしょうか?これをきっかけに改めて考えていきましょう。」

「価値」と「価格」がどのような関係だと売れそうか?

「価格は重要」、そして、価格を決めるためには「価値」と「価格」の関係を捉えることが大切というお話へ。「価値」と「価格」の関係、例えば、価値の方が価格より低い場合、売れそうでしょうか?逆に、価値が価格よりも高い場合は、売れそうでしょうか?

篠原氏「結論から言うと、どちらのケースでも売れるかもしれないし、売れないかもしれない。ただ、最低限求められる「価値」と「価格」の関係として、 通常は価格より価値の方が高くないと買わないというのが一般的であり、その関係を満たしているかが大前提になります。みなさん、自分の商品・サービスの「価値」がぼんやりしたまま、「価格」を上げたり下げたり迷っていませんか?自社のコストをもとに価格を決める、競合の価格をもとに価格を決める。そんな会社さんも多いですが、”価値”の視点が抜けていないか。「価格」より高い「価値」を提案できているか。「価値」を考えるヒントとしては、 あなたのお客さんは何に対してお金を払いたくなるか?これを掘り下げていくと「価値」、そして、そこから「価格」を考えるヒントがたくさん出てきます。」

「戦略的」プライシングとは?

「戦略的」プライシングを “長期的・全体的な視点にもとづく能動的な価格づけ”と定義した篠原氏。それではなぜより良い価格を決めるために戦略的プライシングが必要なのか?その必要性は、「戦略的でない場合はどうか」という逆のケースから考えることで見えてきます。

篠原氏「先ほど定義した3つの要素を逆から考えると、短期的、部分的、受動的になりますが、この視点でプライシングした場合、利益最大化はできそうでしょうか?利益は出せても、利益の最大化はおそらく難しいのではないでしょうか。戦略的プライシングはなぜ必要か?それは利益最大化に向けて不可欠だからです。」

あるある!よくあるこんなケースもチェック ✅

例えば、「値引きした商品の売上・利益がアップしました!」というケース。利益も上がっているのであれば一見良さそうですが、先程の「長期的・全体的・能動的」の視点でとらえた場合、全体の売上・利益への影響はどうなっているか?他の商品・サービスの売上・利益への影響など、全体を俯瞰したときに、どこかマイナスになっている部分があるとすれば、必ずしも良いケースとはいえません。

「戦略的」プライシングの推進ポイント

「戦略的」プライシングはどう考えればいいのか?

篠原氏「戦略的プライシングを考えるうえで大事な大きな視点は、個々の顧客視点での「価値」と「価格」の関係の深堀り。そして、将来的な環境変化の想定。この2つです。それぞれのお客さん視点で深掘りし、将来のことも考えながらプライシングしていく。まずはこの感覚をザックリとつかんでください。」

続いて篠原氏は、戦略的プライシング推進に向けて押えるべきポイントを具体的に5つ挙げてくれました。ここではその中から「特に重要!」とおっしゃっていた2つをご紹介します。

ポイント1 同じモノ・サービスを提供しても「感じる価値」は顧客によって違う

篠原氏「同じ商品・サービスでも、超いいねと感じるお客さんがいる一方、あまりよくないねと感じるお客さんもいます。顧客によって感じる価値はバラついています。これ、当たり前のように感じるかもしれませんが、意外と自社の顧客が感じる価値がどのようにバラついているか、それにあわせたプライシングを具体的に考えられている会社さんは少ないです。価値を安売りしない価格を考えるヒントとして、1番価値を感じてもらえる顧客は誰か?なぜか?をしっかり考え、さらにどんな顧客がどんなものに最も価値を感じるか?どの程度の価値を感じるか?を考えていきましょう。よくある失敗例としては、どうやっても価値を感じない顧客に頑張って営業してしまうということ。意外とやってしまっていませんか?感じる価値がバラついているなか、自社はどの顧客をターゲットにするのかをしっかり考えていくと、安売りしない価格を考えるヒントが見つかります。」

ポイント2 同じモノ・サービスを提供しても「支払意思額(支払ってもよいと思う金額)」は顧客によって違う

篠原氏「仮に顧客の感じている価値は同じでも、支払意思額はバラついています。1番お金を払ってもいいと感じる顧客は誰か?さらに、いくらまで払ってくれそうか?なぜか?ぜひこれを深掘りして考えてみてください。そして、感じる価値と同様に、支払意思額の観点からも、どの顧客をターゲットにするのか、したいのか、ぜひ考えてみてください。」

あるある!よくあるこんなケースもチェック ✅

「うちの価格は1つだけです!」

篠原氏「こういったケースもよくありますね」

篠原氏「例えば、現在の価格が青色の点線だとします(上記画像参照)。この価格だと顧客A~Cは購入してくれたが顧客D~Eには売れなかった。売れなかった顧客DとE のケースは売上が獲得できず問題として発見しやすいのですが、実は顧客AとBにはもっと高く売ることができたので、利益を逸失しています。感じる価値や支払意思額が様々な中で、単一・固定的な価格設定で売上や利益を失っている、しかも、それに気づいていないというのはよくある失敗ケース。価値や支払意思額に合わせて価格設定ができているか?本当に取りこぼしはないか?この視点からもよく考えていくと、安売りしない価格のヒントが見つかるのではないでしょうか。」

以上、今回は起業準備中や起業初期の方で、プライシングについて初めて学ぶ方を対象にした篠原氏によるプライシングのお話からの抜粋でした。
「ぜひ多様な価値や価値観を大切に、社会をより良くする事業を創っていって欲しい」と、起業家のみなさまに向けた期待や応援メッセージもいただき、イベント後のアンケートでは「聞きたい話を聞くことができた」「思っていた以上に良かった」の声が9割超でした。
みなさま、「価値」を安売りせずに「価格」を決めるヒント、見つかりましたでしょうか?

最後に篠原氏が好きなフレーズとして引用していたフレーズをご紹介します。

“Value First, then Price(まず価値、それから価格)”
“Price Touches Everything, Everything Touches Price.”(価格はすべてに通じる、すべては価格に通じる)”

重要なのに、十分考えられていない。そして、考えていくと実は広く奥深いプライシング。
みなさまの事業の「価値」と「価格」を改めて考えていただくきっかけになればと思います!

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