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株式会社JEM代表取締役社長 近藤らく さん

「都会と生産地の“遠距離恋愛”をサポートしたい」若手女性起業家の挑戦

起業家の本棚では、注目の起業家が語る「その時、私を支えた1冊」をご紹介します。 今回は、日本各地の厳選食材などを販売するECサイト『FOODoor』を運営し、地方の生産者を応援する事業を手がける女性起業家・近藤らくさんです。

近藤らく さん(株式会社JEM代表取締役社長 )
 

近藤らく さん(株式会社JEM代表取締役社長)

1984年4月19日生まれ。東京都中央区出身。共立女子中学・高校・大学(国際文化学部)卒。大学在学中4年生の5月に、現在のJEM副社長である淺沼ゆうかと起業。当時、地方の仕事も増え、それをきっかけに産地を回るようになり、多くの生産者や製造者が流通の自由化の壁に苦しむ状況を知る。そういった生産者たちを応援するべく、2008年に一般社団法人JEMとして活動開始。まったくの未経験から売買参加権を取得し、卸業界にも参入。2010年には株式会社JEMを設立。2020年4月、B to C向けECサイト「FOODoor」オープン。

 

日本各地の厳選食材などを販売するECサイト『FOODoor』を運営し、地方の生産者を応援する事業を手がける女性起業家・近藤らくさん。彼女が起業を決意したのは大学生4年。卒業後、企業への就職ではなく事業を起こすことを在学時から決めたという。

近藤氏「私が起業を考えるようになったのは、大学3年の終わりごろでした。もともと、固定観念にとらわれない人生を歩みたいと思っていて、将来は人とは違うことに挑戦したいという気持ちが強かったんです。そのころ、よく読んでいたというか眺めていたのがシュールレアリスムの画家ルネ・マグリットの画集でした。大学を卒業して就職するという選択にしばられるのではなく起業という道を選ぼうとしていた私にとって、固定観念を逸脱した超現実なマグリットの表現はとても刺激になり、大きな感銘を受けていました。マグリットの作品は今でも好きで、よく画集を眺めています。」

 

創業当時の事業は、主にイベントの企画・業務、電子書籍の作成。あるとき地方をめぐる仕事を請け負った近藤さんは、流通にしばられる地方の畜産農家たちの苦悩を知る。

近藤氏「日本各地をいろいろめぐり、多くの産地で畜産や農業の生産者さんが流通の自由を持たない現状に苦慮していることを知りました。流通ルートが限定されているために、せっかく作った農産物を流通に乗せることができなかったりして、結果的に食品ロスの問題にもつながっていることを知り、半ばボランティアのような形で代理販売を始めたのが、現在の事業の発端となっています。」

 

一般社団法人を経て、2010年に飲食店向けの青果物を中心とした卸・流通・食材開発を行う株式会社JEMを創業。

近藤氏「そのころに出会ったのが三枝匡氏の『V字回復の経営』。コンサルタントとして多くの企業の改革に携わってきた三枝氏が、実際に行われた組織変革を題材に、企業再生を描いたベストセラーです。小説仕立てではありますが実話が元になっているので、“企業病”に陥った企業の姿をリアルに感じ、大きな衝撃を受けました。読んだ当時、私たちはまだ創業期でしたが、1つの会社を起こし育てていこうとするならこういうことも考えておかなければならないんだと、改めて覚悟することになった1冊です。題材となっているのはいずれも大手企業なので、創業して5年10年ではなかなか経験できないことばかりですが、だからこそ、スタート地点にいる段階でマイナスへの下落を疑似体験することができて興味深かったです。この本を読んだことで、自分たちが会社を続けていく先にどんなことが起こりうるのか、先を見すえて経営と向き合う覚悟をすることができたと思います。特に組織作りについて早くから意識して取り組むことができたのは大きなメリットになっています。」

 

もともと、ビジネス本の類をあまり読んでこなかったという近藤さん。 

近藤氏「指南本や啓発本のようなものは、あまり多くは読まないですね。自分の経営哲学を築くにあたって、他人の考えを取り込むのではなく自分なりに見つけていきたいという気持ちもあって。一方で、自分が共感する経営理念を持つ方や、尊敬する方から勧められた本は、積極的に読むようにしています。この本も、ある先輩起業家から勧めていただいた本でした。若い起業家だからこそ、先を見据えて本気で経営に取り組みなさいと教えていただきました。」

 

産地と消費者を結ぶ流通を新たに作る過程で、大きな壁を感じることも多々あったという。

近藤氏「仲卸業界には女性が少ないということもあってか、最初はなかなか相手にしてもらえませんでした。それでも少しずつ実績を重ね、株式会社にしてからは赤字を出すことなく続けていくことができていました。ところが第7期のとき、とんでもない大赤字を出してしまったんです。お世話になっていた仲卸さんが廃業してしまい、事業移管をしてそこのセンターごと事業を引き受けたのですが、それまで一切やったことのない仲卸業務や仕分け、配送管理などを突然しなくてはならなくなり、結局、そこまで貯めてきた利益をほぼ飛ばしてしまうくらいの赤字になってしまったんです。そのときは、人生で初めて自分の判断を疑いました。私たちは卸しを本業としたかったではなく、物流を改革することで産地を応援し社会に役立つ会社を作ろうとしていたのに卸しとしてスタートしたのは間違いでは…と、すごく考えました。普段はどんなに落ち込んでも寝て起きたらリセットされるという回復の早いタイプなのですが、あのときは本当に悩みました。」

 

一度は、撤退も考えたという近藤さん。しかし…。

近藤氏「10月に大赤字を出した翌月以降、すぐに黒字転換することができたんです。資金を注入したとか、特別なことをしたわけではないんです。ただ、そのとき読んでいたのが『ザ・シークレット』という本。ある取引先の社長さんから“君は普段、この本に書いてある引き寄せの法則を上手く使っているのに、なんでこの状況でそれを生かさないんだ”と言われ、興味が出て読んでみたんです。内容的には、宇宙というなんでもありのカタログから自分次第でなんでも取り出せるという、引き寄せの法則を中心にしたお話なのですが。その本を読んだことで気持ちがニュートラルに戻って、現状と向き合うことができました。妙に悲観して余計な融資に頼ったりしていたらさらにまずい状況に陥っていた可能性もあったなと。冷静に、これまできちんとやってきたことを生かしていこうと思えたのがよかったのかもしれません。」

 

現在では、食の流通と開発や発掘、それにともなう各地方自治体の食に関する受託事業でいろんなイベントやフェア、商談会や勉強会、サンプリングなどの請負、ショッピングサイトのマルシェなどto C向けとto B向け事業を展開。

近藤氏「現在、新型コロナウイルスの影響を受けたことでWEBを活用するサービスに力を入れるべきだと思い、生産者の方々が気軽にファンコミュニティーとつながることができるB to C向けのWEBサービスの開発を進めています。簡単なホームページを作りたいと思っても自力でできる生産者さんは多くありません。それに、ECサイトを作るにしても、個人情報の管理について学んでいなければ、知らないうちに法律を犯してしまうことだってあります。このサービスをスタートすることによって、IT構築の面だけでなく、ビジネス面で必要なこともアドバイスできるものにしたいと思っています。もはや“食とIT”は切り離せないもの。それでも日本では、まだまだその面で大きな課題を抱えています。生産者をサポートしながら、そういった課題と向き合い、日本を活性化させていきたいんです。」

 

そのためにも産地と消費者をつなげるハブになりたい、と近藤さん。

近藤氏「今、読んでいるのが『P&Gウェイ:世界最大の消費財メーカーP&Gのブランディングの軌跡』という本です。世界的な企業のマーケティングやブランディングを担当している人たちの中に、P&G出身の方がとても多いのだそうです。P&Gの歴史を振り返りながら、トップブランドを次々と生み出してきた“P&Gウェイ”に触れることができる1冊となっています。私たちも今まさにマーケティング、ブランディングを学んでいる最中です。目指すのは、生産者と消費者を丁寧につないでいくハブとなること。都会と生産地の“遠距離恋愛”をサポートする会社になれたらと思っています。これはこの13年変わらず言い続けている言葉です。」

近藤らくさんの起業家年表&「その時の1 冊」

【2006年2月】 現JEM副社長・淺沼氏と出会い起業を考えるようになる

【2006年5月】 イベント企画/業務請負・電子書籍(当時はまだiモードなので小説のみ)の企画運営会社を設立

ルネ・マグリット』(著者:マルセル・パケ タッシェン・ジャパン)

「昔からマグリットが好きで、大学の卒論テーマもマグリットでした。当時から他者とは違うことをしようという思いを抱いていた私にとって、現実を逸脱し超現実の世界を見つづけていたマグリットは、固定観念にとらわれないこと教えてくれた存在。卒業後、存在。在学中に起業することを決めたとき背中を押してくれた画集です。」

【2008年10月】 一般社団法人でJEM(Japan Eat Management)を運営開始。秋田県の支援からスタート

【2010年11月】 株式会社JEM設立を設立。飲食店向けの青果物を中心とした卸・流通・食材開発をスタート

V字回復の経営-2年で会社を変えられますか』(著者:三枝匡 日本経済新聞出版)

「著者の三枝氏が立て直してきたいくつかの起業を組み合わせた、ある意味、ノンフィクションの記録書のような一冊です。この本を読んだとき私たちは創業期だったのですが、会社を経営することの本当の意義を垣間見ることができ、会社を本気で拡大し続けるならここまでの覚悟がなければいけないのだと改めて自覚させてくれた本です。創業期にこの本を読んだことで、真剣に経営を続け、拡大し続けようと心に決めるきっかけとなりました。」

【2015年9月】 委託先の仲卸の経営が傾き、事業移管をしてそこの冷蔵庫センターを2週間で引き受け運営スタート。それが要因となり2016年9月、経営を始めてから初の赤字(しかも大赤字)を経験するが、翌月には黒字復帰

ザ・シークレット』(著者:ロンダ・バーン KADOKAWA)

「第7期のとき、お世話になっていた仲卸さんが廃業してしまい、そこのセンターごと事業移管をしたのですが、それが原因で大赤字を出してしまったんです。人生で初めて自分の判断を疑い、撤退も考えていた時期に読んだ本です。この本に書かれている“引き寄せの法則”をこれまでの私なら上手く使っているのに…と言われたのがきっかけで読んでみたんです。内容はよくある啓発的なものなのですが、おかげで気持ちをニュートラルに戻して、冷静に事態を受け止めることができた。結果的に翌月から黒字に戻すことができました。」

【2020年4月】 新型コロナウイルス感染症が飲食業界に与えている影響を鑑み、2021年8月からスタートする予定だったB to C業界への参入を早める。生産者とともに企画・開発した厳選商品を販売するB to C向けECサイト「FOODoor」を設立。B to C参入を機に他者のマーケティング・ブランディングもプロジェクトとして請け負う

P&Gウェイ:世界最大の消費財メーカーP&Gのブランディングの軌跡』(著者:デーヴィス・ダイアー他 東洋経済新報社)

「実は最近まであまりビジネス本などは読んでこなかったのですが、尊敬している方から紹介される本は積極的に読むようになりました。これは、別会社で設立したO2Oマーケティングチームの仲間から教えてもらった本。日本でも有名なP&Gが今日の世界的企業となるまでの歴史を通して、トップブランドを次々と生み出した背景が描かれています。私たちも今まさにマーケティング・ブランディングを取り入れているため教科書としてマストな1冊です。」

生産者支援にもつながる“究極のマルシェ”『FOODoor』

市場には出回ることのない、希少価値が高い食品が集うB to C向けECサイト。『FOODoor』のネーミングは、食料(FOOD)、風土、扉(DOOR)という3つのワードから。「生産者との遠距離恋愛」をコンセプトに、産地支援・地方創生をふまえ、生産者とともに選び、作り上げた商品を提案する。掲載されている商品は「生産者と共に試行錯誤して作り上げた商品であること」「他店舗では購入できないプレミア商品であること」「他人に紹介したくなる商品であること」を基準に厳選されたものばかり。野菜、魚介、肉などの生鮮品や冷凍品に加え、ご当地ならではの加工品、ギフト向け商品などの他、「コロナ支援限定掲載商品」など時節に合わせたラインアップも。

ECサイト「FOODoor」
【URL】Foodoor.jp

株式会社JEM
【URL】https://www.jem-111.com/

取材:TOKYO HEADLINE