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未経験からライターを目指すには? 100冊以上の本を手がけたブックライターに聞く

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TOKYO創業ステーション Startup Hub Tokyo丸の内にて、人気イベントのひとつである「パラレルキャリア×起業トーク」の第10回が10月6日に開催されました。今回は、「未経験からライターを目指す」をテーマに、ブックライターの上阪徹さんをお招きして、パラレルキャリア研究所代表の慶野英里名さんとの対談形式の講演を配信しました。「ブックライター」という注目の職業や、「未経験から書く仕事をしたい」方に向けたアドバイスについて、興味深いお話を聞くことができました。

登壇者の紹介

「パラレルキャリア×起業トーク」のホストパネリストを務める慶野さんは、出版社の正社員と、フリーランスの二足のわらじを履くパラレルキャリアの実践者です。
慶野さんは、出版社に入社したものの志望していた編集部以外に配属されたことをきっかけに、社外で文筆業を目指そうと決意。プロボノとして、NPOの代表を著者に立てて電子書籍を編集・出版したところ、Amazonカテゴリランキング1位をとり、「自分のキャリアは自分でつくれる」と気付いたそうです。「もっと世の中にパラレルキャリアを広めたい」という思いから、2018年にパラレルキャリア研究所を設立、パラレルキャリアに関する講演・執筆などを行っています。電子書籍を手がけていた時期に、「上阪徹のブックライター塾」に1期生として参加されました。

ゲストパネリストの上阪さんは、現在は売れっ子のブックライター・著者として活躍していらっしゃいますが、実はもともとは文筆業志望ではなかったそうです。商学部を卒業後、最初はアパレルメーカーに就職し、その後2年目にリクルートのグループ会社に転職。コピーライターとして求人広告の制作の仕事をされていました。その後、転職した会社が倒産してしまい、“仕方なく”フリーランスライターになって、気付けば27年目を迎えたとのこと。
現在、雑誌やサイトなどで記事を書く「ライター」、インタビューをする「インタビュアー」、著者の代わりに本を書く「ブックライター」、本を執筆する「著者」、講演会の「講演者」など5つの顔があります。
これまでに3,000人を超える取材者にインタビューを実施。ブックライターとして毎月1冊の本を執筆し、累計では100冊以上を担当。著者としてこれまで47冊を出版されています。

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ブックライターとは何か?

「ライター」と聞くと、雑誌やWEBメディアの記事を書く仕事を連想する方が多いかもしれません。上阪さんは、著者の代わりにインタビュー取材をして書籍をつくる「ブックライター」という働き方を実践されています。

上阪氏「ブックライターは、世の中に発するメッセージがある方に代わって、インタビューした内容を本にまとめる仕事です。実はこの仕事は随分前からあって、以前は“ゴーストライター”と呼ばれていました。しかし、書くスキルを著者の本づくりに活かしているだけで、勝手に創作しているわけではありません。堂々と胸を張るべき仕事をゴーストライターなどと呼ぶのは失礼じゃないかと思い、同じ思いを持つ編集者と一緒にゴーストライターを“ブックライター”と命名しました。」

“ゴーストライター”は完全な黒子になりがちで、ライターが実績として表に名前を出しにくい存在でした。近年は上阪さんが提唱する“ブックライター”という職業の認知度も上がってきて、巻末に名前が載ったり、自分の仕事としてSNSでシェアしたりと、オフィシャルな存在になってきています。そんなブックライターはいかに1冊の本を書き上げるのでしょうか?

上阪氏「本を書く際は、まずご本人の言葉を10時間くらいインタビューして、専門業者さんに文字起こしをしてもらいます。A4で300枚ほどですね。取材した話をそのまま書くのではなく、ブックライターが再編集や再構成をします。タイトルをつけたり、章立てしたりして1冊の本に仕立てるんです。文字数は合計10万文字ほど。最初は文字数にビビリましたが、“2,000文字のコラムを50個書いたら1冊になる”と考えたらできるな、と思いました。」

慶野氏「ブックライターには、書く力と構成する力も大事そうですが、聞く力も大事そうですね。」

上阪氏「私は書くことよりも、聞くことの方が大事だと思っています。聞くことができなかったら、本の素材が手に入りませんから書けない。」

慶野氏「確かに! 勝手なことを書けないですよね。ライターと聞くと、書く仕事だとイメージする人が多いと思いますが、書く以外のことも大事なんですね。」

上阪氏「ブックライティングの場合は、創作できませんから、聞く力が大事なんです。だから、本を書くスキルを教えているブックライター塾でも、書くことを学ぶのは最終回です。「どう」書くか、以上に「何を」書くかの方が大事だからです。どんなに文章が上手くても、大した内容でない中でこねくり回したところで読者にとっては面白いものにはならない。逆に、文章は荒削りだけど、きちんと役に立つ話だったら面白いでしょう。」

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“仕方なく”フリーランスライターになった意外な過去

「書く」がメインの仕事だと思いきや、「聞く」もとても重要だと語る上阪さん。上阪さんは、どんなキャリアをたどって、「書く」「聞く」スキルを身につけ、ブックライターになったのでしょうか?

上阪氏「新卒時はアパレルメーカーにいました。もともと広告代理店に就職したかったものの採用されず、でも夢を捨てらなかったのでリクルートに転職をしました。それで、憧れのコピーライターになったんです。私が考えていたコピーライターは、20文字くらいのかっこいいフレーズを考える仕事でしたが、人材採用の広告ではそうはいかない。もともと書くのは苦手で、150文字とか200文字を書くのに1日かかったことも。「書くことが好きじゃないし、コピーライターの才能もない」と思って、5年でリクルートを辞めてベンチャーに転職しました。すると、そのベンチャーが3ヶ月で倒産してしまったんです。」

慶野氏「3ヶ月って短いですよね。その後どうされたんですか?」

上阪「何もかもを失ってしまい、お金も底を突き、リクルートの先輩からアルバイトを紹介してもらって、時給850円で働いていた時期もありました。前いたリクルートの違うフロアにある編集部で、編集長のアシスタントのアシスタントで、アンケートの袋詰めなどをしていました。当時、28歳でした。」

「書く仕事」に挫折して、転職したもののいきなり失職した上阪さん。プライドはズタズタだったそうですが、雑用のようなアシスタントの仕事も一生懸命やったことが功を奏します。数か月のアルバイトを経てフリーランスとして独立した時に、アシスタント時代の編集長に仕事ぶりを認められ、ライターの仕事を依頼されたそうです。もともとは、広告の仕事をフリーランスで行うつもりが、ライターのキャリアが拓けていったのです。

人とのご縁で次の仕事が舞い込む

慶野氏「意外にも、なりゆきでフリーランスライターになられたんですね。」

上阪氏「はい。その後も今に至るまで、実は自分で「これがやりたい」と思ったことは一度もないんです。周りから、「これできるんじゃない?」「あれやってみない?」ってお声がかかって。かつて仕事をしたリクルート時代の人や、その後の仕事で知り合った方がいろんなチャンスをくださった。最初にブックライティングをした仕事も、マネー誌をきっかけに始まった広告の仕事で、外資系クライアントの担当者が銀行に転職をして、「頭取の本を書きませんか」と依頼を受けたのがきっかけなんですよ。」

その後も、人づてにさまざまなご縁が舞い込み、100冊を超える書籍に携わる現在へと繋がっていったそうです。フリーランスから法人化をしたときの税理士さんの紹介でブックライターの仕事を紹介されたこともあるなど、意外なご縁から新しい仕事が生まれることも珍しくないそうです。

慶野氏「なりゆきに乗っかり、そこでしっかり成果を残すことで、次の仕事に結びついているんですね。」

上阪氏「誰とどこでどう繋がるか、予測不可能です。ご縁はあらゆるところにあるんですよ。インタビューに同席していた方が、実は講演依頼会社の人で、新しいサイトを作成したいので記事執筆をお願いしたいと依頼がきたり。そんなことばかりです。」

「書きたい」気持ちは、必要?

意外にも、上阪さんが「書く仕事」をするためにキャリア戦略を練ってきた訳ではないことが見えてきました。ライターや著者に憧れる人は多いですが、書く仕事にこだわることによる「落とし穴」もあるそうです。

上阪氏「書きたい人、書くのが好きな人が注意した方がいいことがあります。それは「書きたいもの」は「編集者が求めているもの」とは限らないということです。ライターというのは、あくまで発注者である編集者が求めているものに応えるのが仕事。「書きたい」という自分視点だけで考えていると、それに応えられない。もし「書きたい」ことにこだわりたいなら、作家になるべきでしょうね。」

書きたい気持ちの強さが、ライターとしての成功に直結する訳ではないようです。それでは逆に、「書きたい」という気持ちがそこまで強くなくても、ライターになれるものなのでしょうか?

上阪氏「むしろ書くことを仕事にしていない人の中にも、ライターに向いてる人がいると思っています。例えば、特定の業界に詳しいとか、特定の領域に詳しい人。業界に精通しているというのは、大きな強みになりますね。」

慶野氏「今ライターになりたいと思ってて異業種にいる方は、異業種であることが夢の妨げになってると思ってるかもしれません。」

上阪氏「逆ですよ。他のライターが持ってないものを持っているんですから。専門分野を武器にして、その業界の業界誌に書いたり、その業界の社長さんの本をブックライターとして書く、なんてことにもつながるかもしれない。」

慶野氏「書くのが得意なライターさんは、たくさんいますもんね。書けることを前提に、自分が何ができるかというタグをつけていくのが大事そうですね。」

上阪氏「ライターという肩書き以外に、別ジャンルで何が得意かのタグがあれば、発注側としても仕事をお願いしやすいでしょう。ライターは本当にたくさんいて、依頼する方は誰に依頼すればベストなのかを、常に考えている。むしろ、文章力以上に得意分野を磨いた方がいいかもしれません。」

ライターは「相手視点」が肝心

上阪さんのお話を伺っていると、いつも発注者から求められることを意識している姿勢が垣間見えます。

慶野氏「上阪さんは、書きたいから書くのではなく、一貫して“ビジネスマン”なんですね。」

上阪氏「編集者の赤字を嫌がる書き手もいるみたいですね。でも、私はまったく興味がない。それこそ自分の個人的なこだわりをごり押しして、本が売れなかったときに責任を取れませんし。一番読者を知っているはずの編集者としっかり打ち合わせをして、期待に応えるものをいかにつくるかが大切です。編集者に異を唱えるのは、読者のためにならないと思ったときだけですね。」

慶野氏「編集者のニーズを汲み取って読者のためにいい情報を届けるという、自分視点ではなくて相手視点のスタンスを徹底されてきたんですね。」

上阪氏「一番大事なことは、読者の役に立つことです。」

慶野氏「未経験からライターになりたい方は、まだ具体的な読者を想定して書いた経験が少ないと思うんです。このメディアのこういう読者に届けるとしたら……、と仮定して訓練してみるといいかもしれませんね。」

上阪氏「そうですね。読み手を意識して書いてみるといいですね。たとえば、電気自動車について書くとしても、70代向けと20代向けだと最適な文章は違うはずです。」

慶野氏「編集者との打ち合わせ以外に、読者を知るためにしていることはありますか?」

上阪氏「書店にはよく行きますね。書店の本棚には、書店に来る読者が何を求めているのかが端的に現れます。どの本が前に出ているか?何が売れているか? などを観察することで、“相場観”を養えます。」

慶野氏「たしかに、書店にはネット通販ではわからない情報が溢れています。」

上阪氏「本を出す仕事をするなら、研究材料として書店には通った方がいいですね。雑誌売り場も好きです。雑誌はターゲットが明確なメディアなので、それぞれの業界のトップトレンドがわかるんですよ。自分の守備範囲以外のテーマでも、何が流行っているか把握できます。」

慶野氏「書店での観察なら、まだライターになっていない方でもすぐに実践できますね。」

「どんな読者が何を求めているのか」に常にアンテナを張っておくことが、いざライターとして執筆をするときに読者のためになる記事を書く大きなヒントになりそうです。

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書く仕事をはじめたい方へのエール

その後も、「ブックライター塾を経て、未経験から売れっ子のライター・著者になった方の実例」、「仕事につながるプロフィール」、「ライターと編集者のコミュニケーション」、「納期を厳守するための進行の工夫」……などなど、ライター志望者が知りたいノウハウを伝授していただきました。実は、既にプロのライターとして活躍している参加者の方も多かったのですが、アンケートでも「勉強になった」という声が多く寄せられました。

イベントの最後には、上阪さんと慶野さんから、ご参加の方へのエールも送られました。

上阪氏「人の可能性は青天井。自分で勝手に天井をつくっちゃう方が多いんです。自分で想像できるのは小さな未来。そもそもこの先何が待っているかわからないし、それを楽しみに待ったほうがいいと思っています。そういう人はポジティブマインドが顔に出ますね。」

慶野氏「今日は小さなテクニックどうこうより、仕事や人生における大切な教訓を学べた気がします。チャンスかどうかわからないものでも、頼まれたことは何かのご縁と思いやってみたいですね。」

今回のイベントは、「書く仕事がしたい」と考えている方にとって、ブックライターという注目の働き方を知り、フリーランスライターのキャリアのつくり方を知ることができる機会になりました。

そして、「目の前の仕事に一生懸命取り組み、そこから生まれるご縁を楽しむことで、新しいチャンスがやってくる」という仕事哲学は、起業・開業を目指す方なら職種を問わず実践したい姿勢だと思います。

 

構成・文/高橋一彰
書評ライター。2020年8月からSNSやメディア等でビジネス書などを中心に、さまざまなジャンルの本を毎日紹介している。https://ichi-kazsun.medy.jp/

 

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