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起業成功の近道! アイデア発想術からビジネスモデルのヒントまで

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アメリカのアントレプレナーシップ教育(起業教育)の名門として知られるバブソン大学が起業に興味のある人を対象に『6カ月以内にビジネスチャンスは訪れると思うか?』というアンケートを行ったところ、アメリカ70%、欧州や中国は約3~40%に対して日本は8%にとどまった……。

早稲田大学商学学術院教授の井上達彦さんは「アイディアの発想法を学んだことがない日本人には当然の結果」と言います。

そんな井上先生が3回にわたって解説するオンラインセミナーが「3日でやさしくわかるビジネスモデル」です。

今回は11/11に行われた第1回目の「倫理を超える事業創造サイクル」をレポート。パネルを多用し、クイズや事例満載でわかりやすく講義してくれました。

講師

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井上 達彦氏 (早稲田大学 商学学術院教授)

1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授、早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て、2008年より現職。2003年経営情報学会論文賞受賞。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センターインキュベーション推進室長などを歴任。専門はビジネスモデルと事業創造。

◆主要著書

ゼロからつくるビジネスモデル』東洋経済新報社、2019年
マンガでやさしくわかるビジネスモデル』日本能率協会マネジメントセンター、2021年
模倣の経営学-偉大なる会社はマネから生まれる』日経BP社、2012年(2021年復刊)

ビジネスチャンスを見つけられない日本人

井上先生は「マンガでやさしくわかるビジネスモデル」や「ゼロからつくるビジネスモデル」など多くの著書を出版されています。

著書ではビジネスモデルの豊富な事例を紹介し、わかりやすく解説しています。今回はその概略を伝えるもので、詳細を学びたい方は著書もご一読されると良いと思います。


まず「欧米に比べ日本人はビジネスチャンスがないといいますが、なぜでしょうか?」という質問からスタート。


井上先生「それは日本人がアイディアがないからチャンスがないと思っているからです。本当は逆で、アイデアがあればチャンスは生まれるものなのです。
ただし、日本人は小中高で“アイデア発想法”を学んだことがないため仕方がないかもしれません。」と説明。


実は、アイディア発想法は技術で、誰でも後天的に習得できるものです。

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井上先生の著書「マンガでやさしくわかるビジネスモデル」

ビジネスモデルをつくるメリットとは?

ところで、なぜビジネスモデルをつくることが必要なのでしょう?

ビジネスモデルとは「どのように価値を創造し顧客に届け、自らも収益として獲得するかを論理的に記述したもの」です。

井上先生は以下4つのメリットがあると言います。

(1)儲けの仕組みを分析・評価・設計できるようになる

ビジネスモデルの基本が分かれば、儲かっている会社が、なぜ儲かっているかを分析できます。さらに自分でもビジネスモデルを設計できるようになります。

(2)アイディアをカタチにして必要な資源を集められる

設計できるということは、文字や形にできる、つまりビジネスモデルとして説明できます。すると、協力を得られ資金も集まり、良いビジネスが始められます。

(3)スポットの軸足が定まり判断基準が明確になる

うまくいかなくても、ビジネスモデルがはっきりしていれば軸足が定まっているので漂流しません。

(4)事業の承継や売却が容易になる

仕組みができていれば他人にもできるので、売却の値段が上がります。属人化の仕事は不安定で子供にも引き継げません。

「論理」「思考」「具体」「抽象」の思考を回そう!

ここで井上先生が「ビジネスモデルづくりはサイエンスとアート、どちらの発想が大切だと思うか?」と問いかけました。


井上先生「いろんな意見がありますよね。そこで偉人の発想法を調べてみました。
サイエンス代表はノーベル賞受賞者の湯川秀樹さんと山中伸弥さん。彼らは応用・転用・模倣が得意です。
一方アート代表の岡本太郎さんや村上隆さんは逆転の発想。今ある価値を逆にすることで新しさを追求した方です。」と説明します。


それでは企業家はどうでしょう?

小倉昌男さん(宅急便)や似鳥昭雄さん(ニトリ)は応用、転用、模倣が得意だし、森川亮さん(LINE)と坂本孝さん(俺のイタリアン)などは、逆転の発想でイノベーションを起こしました。

なるほど、企業家にもサイエンス派(論理)とアート派(直感)がいるのです。

ここで1枚の図が示されました。サイエンス(分析)とアート(発想)に、さらにデザイン(試作)、エンジニアリング(検証)を加えたものです。

横軸は論理と思考の対比。上下軸は抽象と具体の対比です。

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井上先生「発想法のコツは、この『論理』『思考』の世界と『抽象』『具体』の世界を回すことです。たとえば今ならコロナ禍のビジネスについて考えるとします。
具体の世界ではリスクマネジメントとか煩雑な手続きに強くなろうと考えるのでしょうか。
でも抽象的な思考の人は、人類のパンデミックの歴史を洗い出したりするかもしれない。転じて当時のライフスタイルや、その後どんな風に経済が発展していったかなどを考え……。そこから新しいビジネスチャンスを思いつくかもしれません。
これが論理と思考の反復運動、具体と抽象の往復運動による発想法です。」


この発想法について論じている2名の権威ある方も紹介してくれました。経営学者の楠木建氏と哲学者の野矢茂樹氏です。


井上先生「楠木先生は、多くの経営者と対談している有名な経済学者ですが『デキルなと感じた人は思考において具体と抽象の振れ幅が大きい』と語っています。
一方、野矢先生は『飛躍は論理の敵』とおっしゃり、えっ飛躍しちゃいけないの? と驚きました。

論理といえば演繹法の有名な手法で3段論法があります。
『ソクラテスは人間である』>『人間は必ず死ぬ』>『よってソクラテスは必ず死ぬ』という疑いようのない結論が導かれます。だから野矢先生は飛躍の入る余地はないと言うわけです。

ただ、ここで気づいてもらいたいのは、我々は100%論理的になれないということです。
ソクラテスの話は前提が変わらないから結論が変わりませんが、ビジネスの世界では前提が変わります。客のニーズは今日と明日では違うし、戦略も今の勝ちパターンが10年後も通じるかは分からないのです。」と言います。


だからこそ、具体と抽象の往復運動、論理と思考の反復運動が大切になってきます。

サイエンスの世界やアートの発想も知っておいたほうがいいし、デザインという形にすることも大事だし、エンジニアリングで現実に検証することも必要になるのです。

ビジネスモデルづくりは小さく、速く、かしこく

そのためには試作や検証で確かめることが必要です。失敗してもいいんです。失敗を学びの機会と捉えようというのが、近年注目されている『リーンスタートアップ』というマネジメント手法です。

そのコツは小さく、早く、かしこく回すこと。最小限の実装で、できるだけ安く、早く検証して反応を確かめ、次のステージに行けるかどうか見るという手法です」

ここで、デザインコンサルタント平田智彦(hyphenate株式会社代表)さんの以下の事例が紹介されました。

『10年前のこと。ある大手スポーツメーカーのデザインスタジオお披露目会が開催されることになり平田さんも誘われました。平田さんは3時間ほど空いた時間があったため、いくつかのイラストを準備して持っていくことにしました。先方には「ちょっと提案したいことがあるので時間を少し下さい」と伝えたそうです。

時代は少子高齢化。一人っ子の孫に祖父母と両親で6ポケットと言われた時代です。以下のイラストで平田さんが提案した商品とは何だと思いますか?』

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井上先生「この質問の答えはランドセルです。まだスポーツメーカーのランドセルなどなかった時代の提案です。
注目してほしいのはイラストに商品が描かれていないこと。商品があると具体的なデザインに関心がいってしまうため、あえて描かなかったのです。

ちなみにイラストは素材集を利用しわずか3時間で完成。ランドセルと聞いた瞬間、クライアントからはどよめきが上がったそうです。
すぐに会議が開かれ、うちの素材で軽く作るのはどうだろう? 青色のランドセルは? など発想が広がり、プロジェクトが立ち上がりました。

分析・発想・試作で3時間。検証は会議室の1時間足らずでコンセプトの筋の良さが確かめられたリーンスタートアップの好事例と言えるでしょう。

このようにホワイトスペースを残した仮説検証は、ここまで大胆にやれるかは別として試す価値はあると思います」

事業計画かビジネスモデルか

井上先生「ここで従来通りの『事業計画』と、『ビジネスモデル』を比べてみましょう。昔は実行を重視するあまり仕様を完璧に固め、石橋をたたいて渡っていたので失敗はありえないこととネガティブに捉えられていました。
一方、ビジネスモデルは新しいものにチャレンジする手法で仮説を重視します」

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井上先生が示した表を比べてみると違いは一目瞭然です。
従来のやり方はファクトが変わらないような改善型の商品提案向きで、起業など新しい挑戦には、仮説検証しながら修正していくビジネスモデルの手法が向いていると言えます。

道具を知ることの大切さ

突然ですが、油絵、水墨画、日本画は美の表現方法が違うため、使う道具も当然違います。同じようにビジネスモデルづくりにも適した道具があり選び方が重要。

以下は3つのアプローチ方法と、そのアプローチに適した道具を系統で分類した図です。分析法やフレームワークなど、生まれた背景や目的も違えば世界観も違うので、系統や手順を知った上で適切な道具を選ぶことがビジネスモデルづくりの第一歩だと井上先生は言います。

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『1.戦略分析アプローチ』の分析にはSWOT(スウォット)分析を使うのが一般的です。

これは自社製品の強みや弱みといった内部環境と、自社製品に好・悪影響を与える外部環境を洗い出し現状を分析していくものです。古典的ですが自社の可能性や見逃していた強みに気づくことができます。

同業他社や業界を見るアプローチのため、データやファクトが大事で数字、グラフが多いのも特徴です。


井上先生「さて、今一番弱いのは新市場です。新市場を開拓するには飛躍した発想が必要で、戦略分析アプローチはあまり向いていません。
そこで、1回目の最後に新市場を開拓した事例を紹介します。それは1964年の東京オリンピックで生まれた新しいビジネスです。
当時はまだ見ぬ新市場、セキュリティビジネスのセコムです。犯罪も起こりにくく検挙率も高かったため、安全と水はタダと言われていた時代でニーズはほとんどありませんでした。

しかし一部の困っている人は確実にいて、そんなリードユーザーにインタビューし観察する顧客洞察アプローチをしました。
そして共感から始まり、言葉やストーリーで走りながらエビデンス(証拠)やファクトを集めて確かな市場に育ったのです」と熱く語ってくれました。


以上、イベントレポートをお届けしました。

構成・文/馬渕智子

 

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