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お金やモノだけでなく仲間も得られる「超共感ブランディング」で、応援されるビジネスを

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どんなに素晴らしい商品・サービスでも、最初は無名からのスタートです。

だからこそ商品の魅力やオリジナリティを分析し、他社と差別化していくブランディングが肝心ですが、そもそもどうやってブランディングすればいいのでしょうか?

当時無名だった猪原有紀子氏は、ブランディングの力だけで自ら開発したおやつ「無添加こどもグミぃ~。」を販売当日に完売させました。その成功の裏にはきちんとした戦略があったのです。

今回は猪原さんを講師に迎え、ブランディングを成功させる7つのポイントを伝授してもらいました。

自身の成功体験を元にした講義は集客ノウハウやブランド戦略のヒントが満載!その様子をレポートします。

 

講師

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猪原 有紀⼦⽒(くつろぎたいのも⼭々。代表)

株式会社セプテーニで10年間、WEBマーケティングに従事。地⽅移住をきっかけに農業で起業。地域課題のアップサイクル事業を次々と⽴ち上げる。⺟と⼦どもが実質的に⼀緒にいられる「7年6ヶ⽉」のために、SNSで共感を⽣み出しながらストーリーのあるプロダクトを開発している。プライベートでは7歳、6歳、3歳の三兄弟の⺟。

超共感ブランディングで無名の商品を初日完売に

そもそも猪原氏が起業したきっかけは、子育てに悩んだ経験からです。

育児でお母さん達が直面する悩みのひとつに「子どもにお菓子を与えないこと」というものがあります。

添加物や味の濃いお菓子は小さい子の健康によくないという理由からですが、欲しがってダダをこねる子どもを前に途方に暮れてしまう経験は、親たちの“子育てあるある”になっています。

これを経験した猪原氏は“子どもが食べても安心なグミを自分で作ればいいんだ”と考えて起業。

やがて大阪市立大学と4年がかりで共同開発した『無添加こどもグミぃ~。』は、無名の商品にもかかわらず、なんと販売当日に完売となりました。

その後も1年で定期会員500名を達成するなど順調です。なぜ、そんなことができたのでしょうか?

猪原氏「私がやったことは『超共感ブランディング』です。これはお客様の共感を生み出し続けることで、値段がつかない、他社がまねできない“見えない価値”を人々の中に存在させる営みのことです。

お金もモノも仲間も技術も顧客もいない人が、超共感を生み出し続けることで、「お金」「モノ」「仲間」「顧客」をゲットできるし、応援される人になると自然とがんばれるし、生き方もよりポジティブになると思います。」

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ここで猪原氏は参加者に「あなたはどんな事業をしたいですか?もしくはしていますか?」という質問を投げかけ、チャットで書き込んでもらいました。

猪原氏「実はこの定義づけこそ超共感ブランディングの基本。今、みなさんが書き込んでくれたことに共感した人が、みなさんを応援してくれるのです。お客様や仲間にもなってくれるのです。それでは、どうしたら人を共感させることができると思いますか?」

猪原氏は、超共感ブランディングには7つのポイントがあると言います。

1つ目は『原体験はあるのか?』ということです。なぜ、それをやりたいのか?なぜ、あなたがやるのか?を明確にすることがとても大切と強調し自分の原体験を例に紹介しました。

猪原氏「2016年、2歳の長男と生まれたばかりの次男をかかえ、産後うつになりました。また、長男はグミが大好きで、添加物の入ったお菓子をあげたくないのにダダをこねられると仕方なくあげてしまう自分に罪悪感を覚え、子育てにストレスを抱えていました。

でも、起業のきっかけになったのは、まさに、その子育ての悩みだったのです。和歌山へ移住した後、農家が柿を廃棄する光景を見て“そうだ!捨てられる柿を利用して自分で無添加のグミを作ればいい”と思い立ったのです。」

起業はしたものの、無名でお金も製造経験もない猪原氏がしたことは、いろんな人へのプレゼン。すると、知り合いの、知り合いの、知り合いぐらいの方に大阪市立大学で乾燥工学を研究している方がみつかって『おもしろいから、一緒に共同開発しましょう』となったそうです。

動き出した商品開発。しかし添加物をいっさい入れずにフルーツをグミのような食感にすることはとても難しく、何万通りの実験をして2年後の2020年にようやく販売にこぎつけました。

猪原氏「今、お話したことが私の原体験です。私はこの体験をInstagramやYouTube、Twitterなどでめいっぱいバラまきました。すると無名な私の、無名な商品は“このお母さん、私と同じこと思っている”と、どこかのお母さんの心に刺さったのです。」

その結果、広告をいっさい打たないにも関わらず『無添加こどもグミぃ~。』は、販売当日に5時間で150セットを完売することができたのです。

猪原氏「原体験を語ると、私も同じ体験をした!という人から強い共感を得ることができます。そういった人は応援してくれるし、会いに来てくれて、そのまま仲間になってくれる人もいます。

だからみなさんも、まず“そのビジネスを、なぜやりたいと思ったのか”を振り返ってみてください。そして、原体験を語れるようになることが大切です。」

人は人から物を買う。圧倒的自己開示が道を開く

猪原氏「みなさんは商品を売る時、スペックを売りの最初にしていませんか?たとえば私の無添加グミのスペックは【無添加です/廃棄果物だけで作りました/国産です/SDGsの取り組みです】などです。

カフェを開業している方なら【ビーガン対応/駅から5分】などカフェの魅力を1番最初に言いたくなりますよね?でも、これだと店は潰れます。なぜなら、同じような競合他社がいくらでもいるからです。」

2割のコアファンが売上の8割を生み出しているというパレードの法則がありますが、この2割はスペックで選んでいるのではなくその商品が良くて選んでいるため、同じようなスペックの商品があっても乗り換えられにくいのです。

猪原氏「コアファンを作るには自己開示が大切。私もInstagramやYouTubeで自分の人生で起こったことを開示したところ、なぜその商品を作ったのかという背景に共感してくれる人がたくさん増えました。

コアファンは、ストーリーに共感してモノを買います。でも、みなさんの中には、自分の人生を伝えたところで何の価値もないのでは?と思っていないでしょうか。こういう人生で、こんな体験をしたからこの商品があるのだと共感してくれる人が必ず現れます。」

ここで猪原氏は以下の「原体験をあぶり出す魔法の質問6つ」を投げかけました。

■今までの人生で…

  • 1番辛かったことは?
  • 1番悔しかったことは?
  • 1番みじめだったことは?
  • 1番嬉し泣きしたことは?
  • 1番怒りを覚えた時は?
  • 自分の1番変えたいところは?

猪原氏「この6つの質問は大切なのでぜひ考えてみてください。ここまで聞いて、自分を大公開するなんてできないと思っていませんか? 実は私も1年かかったので気持ちはわかります。

でも、このままでは、どこの誰かも知らない人間のグミが売れるわけありません。それに自分と同じように悩んでいるお母さんを助けられると確信していたので決心がつきました。自分を発信することで仕事の幅も広がり、得たもののほうが多いです。」

心にぶっ刺さる商品か?

猪原氏は「商品を作る前も作った後も、人間の「不」からスタートしないと売れません。」と断言します。

つまり、不満、不安、不条理、不経済的、悲しいとか心配だという不の感情からスタートすることが重要なのだとか。

猪原氏「皆さんの商品・サービスにどんなにウリの要素があっても、最初にPRしては売れません。じゃあどうすればいいか? ぶっ刺しにいけばいいんです。」

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『無添加こどもグミぃ~。』の場合、①子どもに添加物が入ったお菓子は与えたくありませんよね ➡ ②でもお菓子をくれ、くれ!とねだられると“静かにして”と口止めするように与えてしまい罪悪感を覚えていませんか?となって、やっと『無添加こどもグミぃ~。』だったら原材料は廃棄フルーツだけ、とウリを訴求していくわけです。」

これが、廃棄フルーツもったいないな ➡ 何か有効活用できないかな ➡ SDGsにもなるし無添加のドライフルーツを作って売ってみよう。の順番だったら売れなかったと猪原氏。

「スタートは誰の【不】をぶっ刺しにいくかが先決で、それ以外は後で大丈夫です!」と笑顔で語っていました。

お客様が受け入れやすい形態に調整したか?

4つめはチューニングする期間が最も重要ということです。

猪原氏「私も半年間チューニングしました。まずInstagramでアンバサダーを100人募集したところ700人の応募があり、700人分のリストが手に入りました。そこから100人をピックアップしてサンプルを送り意見を聞きました。一人ひとりメッセージのやりとりをして、子どもが食べた感想などを聞き取り調査したところ、貴重な意見を頂けました。」

またチューニングには、販売前にコアとなってくれるようなお客様を巻き込むという目的もあるそうです。

行列は1番効果の高い広告

5つめのポイントはバンドワゴン効果とスノッブ効果です。これは有名な行動心理学の1つで、バンドワゴン効果は「売れているから自分も欲しい」というもの。

そしてスノップ効果はその逆で「みんなとは違うものが欲しい」というものです。つまり「売れ筋商品」×「限定〇個」をうまく組み合わせる。“みんなが選んでいるけど手にいれにくい”を戦略的に作ることが大切なのです。

売れている、選ばれているということに希少性をかけあわせると、人はすごく欲しくなるという心理が働くようです。

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猪原氏「観光農園も同じブランディングでやっています。グループの中に子どもがいないと入れないし、住所は非公開で、予約してくれた人だけに住所を送るなど限定感を出しています。そして原体験とセットだからこそ刺さります。

私には都会で子連れのお出かけはしんどいという経験がありました。授乳スペースもない、おむつ変えスペースもないという問題も。

でも田舎に移住したら生き物だらけですべてが遊び場で、子どもたちの好奇心は爆発!近所のブルーベリー畑ですごい勢いでパクパク食べているのを見て観光農園を作ろうと決心しました。

このストーリーをClubhouse (音声配信を中心とし、フォローしている人の配信を聞いたり、会話を傍聴できるアメリカ発のSNSの一つ)で発信し続けていたら“私も同じ”と共感が膨らみ、無名の私でもクラウドファンディングを成功させることができたのです。」

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うまくいかない事こそ全部ネタ

新しいことに挑戦したら問題しかおきないと言う猪原氏ですが、その最たる例が認定新規就農者の書類審査に落ちたことだそうです。

年配者の審査員が多いせいかIT農業が理解されなかったのが原因。ネット集客と訴えてもこんな田舎に人は来ないと書類審査で落ちてしまいました。農林水産省に電話して直訴し、猪原氏自身でプレゼンをして認定をもらったそうです。

猪原氏「こういうピンチこそ後々ネタになるので詳しく記載しておいてください。うまくいかなかったことや悲しかったことは全部コンテンツにできるのが事業です。私もキャリアの断絶や産後うつ、育児ストレスがなかったら農業はやっていなかったと思います。」

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人、モノ、カネが引き寄せられるプレゼンブック

最後に紹介したのはプレゼンブックです。

なんとダンボールでプレゼンブックを作り、これをママ友や、町内会、役場、産業観光課、協力農家など100人ぐらいに見せてプレゼンしたそうです。

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ダンボールに写真を貼って作ったインパクト抜群のプレゼン資料

 

猪原氏「これをやれば町のためになります!とプレゼンした結果、800坪の耕作地を貸してくれた地主さんもいます。後はインターネット上に自分を存在させるのが大事。もしインターネット検索をして自分が出てこなかったらネットで商売はできないと思います。」

また「チャンスの神様はしつこい人が大好き」と話し、自分がなぜしつこく諦めなかったのかという理由について「人生の最後を常に意識しているから」と話しました。

そして最後のワークとして「あなたが死ぬ時に後悔しそうなことは何?」と、「あなたが死ぬ時どんな状態だったら1ミリの悔いもなく幸せな人生だったといえますか?」という質問を投げかけました。

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猪原氏自身は「自分の子どもが、ママの子どもで本当によかったと心から思ってくれる状態」、そして「子どもにとっていい社会を作るためにできることは全部やったと思える状態」と回答しました。

そして「みなさん、お互いに最期で後悔しない人生を!」と笑顔で締めくくりました。

 

構成・文/馬渕智子

 

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