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起業に失敗はつきもの。やりたいことをやらなかった後悔こそ、恐れてほしい。

夢やお金、スキルを活かすために起業したいけれど、果たして自分に起業できるだろうか、できたとしても生活していけるだろうか、と悩んでいませんか。

そもそも、夢を叶えたり、スキルを活かしたりする方法は起業以外でもあるはず。では、起業する意義とは何でしょうか?

そこで、10社以上の創業経験がある株式会社福水戸家の磯部一郎氏を講師に迎え、「起業が必要かを判断するヒント」、さらには「起業家として生きる覚悟と精神」について語ってもらいました。

磯部氏は26歳で起業家としての人生をスタート。37歳で大病を患いますが、闘病中も4つの事業を立ち上げました。困難な状況下でも起業に挑戦し続けた磯部氏が、その経験から辿り着いた起業する本質とは?

きっと起業を迷っている人のヒントとなるはずです。

講師

磯部 一郎氏(株式会社福水戸 代表取締役社長)

芸者の置屋の息子として、日本橋人形町に生まれる。大学卒業後、プログラマーとしてIT企業に入社。26歳で共同起業し、大手企業向けの業務システム開発事業を開始。37歳のときに悪性リンパ腫を発病し、上場企業に株式譲渡する。立ち上げに関わった法人数は15社にのぼり、現在はスモールビジネス向けの戦略コンサルティング事業に専念。事業開始から3年間で100社1,000案件を達成。ゼロイチ起業から売上高10億円までのスケールアップ経験がある。企業・事業の買収・合併・譲渡や持株会社や合弁会社の設立など、多岐にわたる経験をしている。

夢はどうやって見つければいい?

『起業や経営に関して、世間一般に言われていることと違うかもしれませんが、僕が思っていることをそのまま伝える1時間にしたいと思います』という挨拶でスタートしました。

磯部氏「僕は1億円以下のスモールビジネスばかり立ち上げています。成功者とは思っていないし、フォロワー数もそんなにいないのでインフルエンサーでもありませんが、起業して20年近くを倒産せずに生き延びています。
今日は、皆さんからの事前質問に答えながら、起業のきっかけや適性、マインドについて話していきたいと思います。」

事前質問で特に多かったのが、“起業で実現したい夢はどうやって見つけるのですか?”というものでした。

この質問に磯部氏は「僕は夢を追って起業したことが一度もありません。だから、質問の答えは夢と起業は関係ないとなります。じゃあ、何を基準にして起業するのでしょうか。」

これまで15社の立ち上げに関わった磯部氏が反省点も含めて「起業で大事にしたい基準」を挙げてくれました。

①事業性②社会性③収益性④想い⑤哲学の5つです。

 

【大事にしたい基準】

  • 事業性:事業がどれだけ継続して成長するか 
  • 社会性:社会にどれだけ貢献できるか
  • 収益性:儲かるかどうか
  • 想い :熱をもてるか。ポリシーをもてるか
  • 哲学 :うんちくを築けるか

 

磯部氏「夢の実現なら起業でなくても、情報発信やクラウドファンディングなど、方法は無限大にあると思います。とにかく具体的に誰かに伝えていくと、形になりやすいのではないでしょうか。

そもそも、起業は失敗するケースもあるので、夢と起業は分けて考えたほうがいいかもしれません。」

 

さて、“夢が見つからない”という相談を、磯部氏はよくされるそうです。

磯部氏「夢が見つからない人は、大人になって『これはできない』と勝手に決めつけているのではないでしょうか。子どもの頃、歌手になりたいと思っていたとして、その時はなれると信じていませんでしたか?
でも大人になるにつれて、なれないと自分で天井を作ってしまったから好奇心も失くして夢が見つからなくなってしまった……。そういう人は、まず楽しいことを探すといいと思います。」

起業するきっかけに正解はある?

事前質問では、磯部氏自身の起業のきっかけについて質問する人も多くいました。

磯部氏「起業のきっかけは、自分で考えたビジネスの仕組みを会社の上層部に否定されたからです。なんとか説得しようとしたのですが、頭の固い上層部を説得することは無理だとあきらめて、自分でやることにしたのです。」


それでは、以下のどのパターンで起業するのが1番いいのでしょうか。

① 顧客から頼られたことで起業
② 条件(儲かりそう・楽そう)で起業
③ 人にお金を出して起業
④ やりたいことをやるために起業


磯部氏「①は他人軸。ビジネスはお客さんが喜んで成立するので、このパターンは良いと思います。それに対して④は自分軸です。これでもいいと思いますが、僕は、①の他人軸でスタートした後、④の自分軸に寄せていくというのがやりやすいと思います。


また、事業は長く続けるものなので、絶対にピンチの時があります。その時、②の条件で選んでいると踏ん張れません。これは経験からの意見です。


③は皆さんがどれぐらいお金をもっているかによりますが、数百万円で優秀な人を見つけるのは到底無理な話。前に相談にきた方で、自分は2億持っている。これで超優秀なサービスをしたいし、超一流な人達をつかまえたい、と言っていましたが投資の世界では全然足りません。」


どんな人が起業に向いているか判断するのは難しいですが、明らかに向いていない人はいるそうです。

 

【起業に向いていない人】

  • 教えてもらわないとできない
  • 誰かに決めてもらいたい
  • 自分で考えない依存的な人
  • 失敗を極端に嫌う
  • とにかく不安で仕方ない(不安症の人) 


さらに、直したほうがいい口癖についてもアドバイスしました。

磯部氏「『〇〇さんだからできる 』と言い訳を探したり、『私なんか……』と自分を下げる人は、『〇〇だけど〇〇します』といった言い切る形をおすすめします。相手に与える印象が違ってきますから。

また、『お金がないから』は禁句。投資ができない人、程度の低い人とビジネスの世界では見られがちです。お金がなくてもやりたい人はこういうフレーズは使いません。今はないけど、いついつまでに用意すればよい ですか?という言い方になるものです。」

経営者が気をつけるべき“思考の病”とは?

磯部氏「起業後の注意点についても説明します。経営者が陥りやすい思考を病に例えて 作成してみました。株式会社福水戸のHP に掲載していますので、興味のある方はぜひご覧ください。」


●営業障害:やることがないのに、パソコンを開き、何かしているふりをしている状態。

磯部氏「けっこうあります。研究職や企画職出身の人は気をつけたほうがいい。外に出ず、人に会わず、パワーポイントの資料ばかり作っている状態だと1年ぐらいで倒産する傾向があります。」

 

●借入鬱:現金の巡りが悪いのに銀行から借入をしない状態。

磯部氏「借金はよくないという教育を親から受けてきたせいか、借入は悪いことだと思っている人が多いです。僕は、できるだけ借りたほうがいいと思っています。資金が足りなくなって、やっと重い腰を上げても時すでに遅し……。現金が用立てられなくて倒産してしまうケースが後を絶ちません。」

 

●配偶者恐怖症:起業する時に配偶者に月収を約束してしまう。

磯部氏「これをやる と、毎月結果を出さなくてはいけないので投資ができなくなり、経営者としては致命的です。」

 

●足軽病:人の上に立てない病。経営者のマインドがもてない。人がついてこない病。

磯部氏「フリーランスの人に多いと思うのですが、会社は潰れないかわりに成長もしません。若いうちはいいと思うのですが、50代位になって仕事が滞り始めると、どうしたらいいかと相談してくるケースが多いです。」

 

●夢遊病:とにかくふらふらと外出してしまう病。目的のあいまいな情報交換とか出張とかを繰り返します。

磯部氏「これも多いので気をつけてください。起業直後が特に多く、神社にお参りしたり、禊や滝行し たり、高額ビジネススクールのはしごをする人も。冗談じゃなくてけっこういます。」

●マッチング熱:ビジネスモデルが確立できずマッチングだけでやりすごそうとする病。

磯部氏「何か一緒にやりたいんだけど……が口ぐせで、営業出身者に多いようです。自分軸が強すぎて失敗するケースです。」

 

●情報発信不全:周囲の目が気になってうまく情報発信できない病。

磯部氏「これも非常に多いです。会社の厳しいセキュリティ規制の中でSNSをやってきたため、いざ独立してエッジを立ててやっていこうとしても、批判されるのが怖くなってしまうようです。独立するなら99%情報発信しなくては難しいです。」

起業家が学ぶべき概念とは?

次に起業時に知っておいたほうが良い概念についても説明。

「今から説明することは“無形商材も有形商材も、結局サービス”という話です。これは、 すごく重要だと思います。」と磯部氏。

●無形商材について

例えば税理士の場合、決算代行が いくら です、という感覚ではダメです。
磯部氏「お客さんが起業して、決算があって……というようにお客さんが体験する順番に寄り添うことが大切です。たとえば“創業支援サービス”など、体験をデザインしていくような考え方が、今は主流です。」

 

●有形商材について

磯部氏「有形商材も一緒で、たとえばブランドのバッグ。バッグをただ販売するのではなく、銀座で待ち合わせして、キラキラのブランド・ショップでバッグを買って、食事をして帰る……という一連の体験が喜ばれるわけです。安売り店で買ったブランド品をプレゼントしても女性は喜びません。モノから体験に変わってきているのです。」


さらに「今、サービスを作る時“こんなことあったらいいな、できたらいいな”という発想に価値はありません。」と断言。この発想は昭和の考え方で、“こんなことあったらいいな”は、結局、誰の課題も解決しないと、今は考えられているそうです。
それよりも、重要視されるのは、お客さん・ユーザーの課題発見で、それを解決する新たなサービスをデザインすること、そのための構築する力が必要なのです。


磯部氏「もちろん、そのような力がないと起業できないというわけではありませんが、少なくてもそういう考え方が大事だと知ることは必須です。」

 

【こんな概念を学んだら強い!】

①アジャイル思考

失敗を恐れず、まずやってみて、リリースして、フィードバックして、軌道修正しながらさらにいいものを作り上げていくというものです。もともとシステム開発の思考方法ですが、起業はまさにこのアジャイル思考で試行錯誤しながら進めるといいと思います。

②リーンスタートアップ

課題を発見し、解決する新たなサービスをデザインし、構築していくというマネジメント手法です。Googleやインテル、Netflixといった世界の大企業が、どうやってサービスを立ち上げて、世界中で流行らせたのかをモデリングした手法です。

③UX(ユーザーエクスペリエンス)

顧客体験に基づいたユーザー体験をデザインする、という概念です。
今、紹介したものはIT産業の考え方じゃないの? と思うかもしれませんが、起業は、いわばサービスを構築することですから、この概念を知っておくことは非常に有効です。

知っておくべきキャッシュ(現金)の心得

経営者が陥りやすい思考を病に例えたところでも触れましたが、キャッシュ(現金)への心がまえは非常に重要です。


磯部氏「会社はキャッシュが尽きたら倒産すると心得てください。経営者の間では当たり前ですが、起業したばかりの人は知らない方もいます。
逆に、赤字でも現金があれば倒産しません。そのため、借りなくてもいい状態でも、現金がなくなる前に金融機関から借りてください。なくなってからでは金融機関は貸してくれません。そういう意味では、創業直後のほうが借入しやすいです。」


大事なのは、赤字かどうかより、運転資金に余裕があり、キャッシュ(現金)が尽きないうちに立て直せる見込みがあること。そして事業をしっかり回していることが重要です。前向きな赤字についても言及しました。

 

【前向きな赤字】

●広告宣伝費や人件費に投資して事業拡大をしているための赤字。(投資をやめれば利益が出るが成長も止まる)

●信用重視で人件費に投資しているための赤字。(利益重視で人件費を抑制すると信頼を失う)


磯部氏「信頼こそが事業を拡大していくのに、人件費を減らして信頼を重要視しないやり方は、僕は好きではありません。それなら金融機関からお金を借りて、それを投資して信頼を失わない体制を作るべきです。
さきほども言いましたが、借入は悪いことではありません。むしろ借入額が大きいということは信用がそれだけある表れです。」

起業家として生きる覚悟と精神

最後に、これまでの経験から学んだ起業家のマインドについて語ってくれました。
磯部氏「起業家が一番重要なのは、何回でもやり直せると腹をくくっているかどうかの一言に尽きるでしょう。」


磯部氏は、2020年5月に2か月の余命宣告を受けました。死を覚悟し、当時小学生だった息子さんに「ごめん、お父さん死ぬかもしれないんだけど、何をしたかった?」と聞いたところ、「お父さんとアスレチックに行きたかった」と言われたそうです。

当時、成功して蓄えは十分にあった磯部氏ですが、息子さんの言葉を聞いて「時間の使い方を間違えたな」と後悔したそうです。アスレチックに行くのに大金は要らないのです。


不思議なことに「もっと成功したかった」とか、「起こしたベンチャー企業を上場させればよかった」など社会的地位や金銭的な成功への後悔は1ミリもなかったそうです。

磯部氏「起業を勧めるセミナーで言うのも何ですが、人生はお金だけじゃないと心から思いました。奇跡的に生還し今でも起業はしますが、大切なものは失わないようにやりたいと思っています。」


また、『自分が気を使っていた人たちは、僕を助けられない。そんな人たちに僕の人生を振り回されたくない』とも思ったとか。遠慮しないこと、他人の評価を気にしないこと、会いたい人に会い、やりたいことをやってほしいと磯部氏は言います。

「それでも今、起業するという選択」への答えとは?

磯部氏は7年間で、がんが9回再発しました。右目はもう見えず、肺も半分喪失しています。常に死を意識するようになり、「死のトンネル」が見えるようになったそうです。

磯部氏「以前は、死のトンネルの中に吸い込まれている感覚があり、先のことを考えると憂鬱になっていました。ところが、ある時気がついたのです。例えば、このセミナーを多くの人が聞いていますけど、この中で 僕が1番トンネルに近いわけじゃない。僕はトンネルが見えるようになっただけで、僕より近い人がいるかもしれない。

つまり、人間は生まれた瞬間から死のトンネルに向かって歩いている、それが人生なんだと。でも、トンネルが見えると怖いですよね。じゃあどうするか。

“今”にフォーカスするようになりました。今日のテーマの答えにも通じます。『起業は今じゃなくては いけないのですか?』への答えは『いつかなんてないから』です。」

 

この後、参加者の皆さんからの事前質問に独自のアドバイスや的確な助言をしつつ、セミナーは終了しました。少し紹介すると「子ども3人と残業で忙しく、なかなか起業できずに悩んでいる」という質問には、「お子さんが3人いるので、リスクを最小限にしては? 残業がない会社に転職して、残業時間を副業に充てることから始めてみては ?」と回答していました。


 磯部氏「皆さんの質問を読んでいると、いかに失敗しないかとか、メリットやデメリットは何かというのが多かったのですが、起業で失敗しないなんてないです。
転ぶことで成長していく赤ちゃんと一緒です。どんどん転んで怪我をしてください! 致命傷にならない程度にですけど……。


いろいろ話してきましたが、根底にあるのは“気楽にやろうぜ!”ということ。この言葉をエールに変えて、本日のセミナーを終わりたいと思います。」と締めくくりました。

 

構成・文/馬渕智子

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