起業が目前になった時、自分でも気づかないうちに「やってはいけないこと」をしていませんか?「起業したからには成功させたい」という思いや経験不足から、誰しも冷静さを欠いた行動を取ってしまいがちだとか……。
そこで、今回はStartup Hub Tokyo 丸の内でも多数のセミナー実績を持つ新井一氏を講師に迎え、前半は起業に大切な心構えなどを解説し、後半はやってはいけない8選をご紹介します。
起業成功の本質が理解できるだけでなく、ビジネスで結果を出すための重要ポイントが満載のセミナーレポートです。
講師
新井 一氏 (起業18フォーラム 代表)
1996年、会社員のまま起業。起業⽀援をスタートさせた2007年以降、10,000件を超える起業相談に応じ、全国で1,000回を超えるセミナー・講演をしてきた圧倒的な実績と成功事例を持ち、会社員のまま起業準備を始めたい⼈を⽀援するプロフェッショナル。
起業18フォーラム運営の他、経営・集客・マーケティングコンサルティング、海外取引先マッチング・輸出代⾏業・代理店業・輸⼊販売業も⾏う。
【主な著書】
会社で働きながら6カ月で起業する 1万人を教えてわかった成功の黄金ルール(ダイヤモンド社)
朝晩30分 好きなことで起業する(大和書房)他
起業は車の運転に似ている。無用な心配をせず、慣れるのが最初
「起業は自動車の運転に似ている」と新井氏は言います。
たとえば、車の免許もとらないうちから、“高速道路の真ん中でエンジンがとまったらどうしよう”など、不安が先だってしまう方がいますが、起業もそういう“ステージ”とずれた心配をしている方が多いそうです。
新井氏「起業のトラブルは、その時のステージにあったことしかおきません。心配しすぎるのは無用です。また、車はこすったりぶつけたりしますが、起業も同じで、トラブルになったり、人を傷つけてしまこともあります。慣れていないことをやるのですから、繰り返し練習して慣れるしかないと新井氏は言います。
「ぶつけないように、ていねいに、ゆっくりと」が、運転もビジネスも上手になるコツなのです。
新井氏「準備が進んでいないという方は、教科書ばかり読んでいるのかも? 道に出なければ、いつまでたっても運転に慣れません。ぜひ、小さな一歩を踏み出してほしい。このセミナーで、そのきっかけをつかんでくれたらうれしいです。」
自分の実力を発揮できる場所で頑張るという生き方
新井氏は、子どものころはいじめられっこで、バブル崩壊後は家族も事業に失敗し、経済的にも苦労したそうです。社会に出た後は営業職に就きましたが成績は振るわず、上司から注意されることも多かったとか。
一方、自分で立ち上げた仕事では“先生”と呼ばれ、経営者の人たちが会いにきて報酬を払ってくれるという経験をしてきました。
新井氏「僕という人間は何も変わっていないのに、話す相手や場所を変えるだけでこんなにも評価が変わるのかと思いました。そのため、自分の実力を発揮できる場所で頑張ることが、一番幸せな働き方なのだと思ったし、今もその持論は変わっていません。
働き方や生きていく方法は一つではありません。生き方の選択肢を増やしてほしいと思います。」
起業にマニュアルはない
新井氏は、「起業には、“こうすれば成功する”というマニュアルは存在しません。それどころか、成功や失敗そのもの自体も怪しいものです。」と言います。今、成功している人が突然だめになったり、その反対もしかりだからです。
新井氏「僕の感覚でいうと1勝9敗ぐらいでしょうか。あえて言われるとショックでしょうが、その1勝で9敗分の負けをプラスにして余りある価値が出るかもしれません。9敗で1,000万円損したけど、1勝で1億稼ぐみたいな感覚。
そして、この成功の確率を高めるための作業をひたすらやっていくのが起業という世界です。」
正解を求める人は起業向きではない
起業には、マニュアルがないのと同時に正解もないため、答えを他人に求める人は向かないかもしれません。答えは起業した人の資産や環境によっても変わるし、本気度や熱量などによっても違います。
新井氏「起業18フォーラム(「会社員のまま稼ぐ力を身に付ける」新しいタイプのコミュニティサロン。新井氏が代表を務める)で、事業者121人を対象に〈会社を辞めて独立した人で、サラリーマンに戻りたいか?〉というアンケート調査を実施しました(2022年10月1日~13日)。
結論からいうと、後悔した人は少数派で8割以上がサラリーマンを辞めてよかったという結果でした。理由のトップは人間関係のストレスでしたが、僕も人間関係には悩まされてきたので、なるほどと思いました。
一方、後悔している2割の理由は、収入の不安定さです。つまり、稼げさえすればすべてハッピーになる。僕が起業で稼げるようになってから会社を辞めるのもいい方法だと考えるのもそのためです。逆に、会社で人間関係のストレスがない人は、辞める必要はないかもしれませんね。」
やってはいけない8つのこととは?
新井氏「ここまでは、起業時の心構えのような話をしてきましたが、改めて起業時にやってはいけない8つのことを挙げてみます。」
①いきなり本業を辞めてしまう
起業したばかりの時は、未経験の新卒社員と同じでわからないことだらけです。就職なら、仕事を与えられるし教育もしてもらえます。起業の場合は、自分で戦略を立てたり、競合他社と戦ったりしなくてはいけません。
余談ですが、この競合他社は専門を絞りこむことで味方にすることもできます。たとえばSNS関連の起業をしたとして、“SNSのコンサルタントです”と名乗るのではなく、“Twitterコンサルタントです”と特化するのです。
すると競合しないInstagramのコンサルタントと仲間になれるチャンスが生まれます。このようなことを、自分で考えてやっていく覚悟が必要です。
②ローンと借金を残したまま独立
家賃や税金など、貯金が減っていくスピードは想像以上と思ってください。しかも収入は入ってくるまでに時間がかかります。その中で住宅ローンやオートローンを返すのは厳しいです。負債はできる限り切り離しておくことを肝に銘じてください。
③家賃および固定費の見直しをせず独立
固定費は可能な限り削減しておきましょう。たとえば通勤しないことを前提として交通費を節約したり、地方や支援の手厚い自治体へ引っ越ししたりするなども考えてみるといいかもしれません。
新井氏「僕の経験では、無駄な固定費がかかっている方が多いです。携帯プランや保険、カードの年会費など、細かく見直してください。せこいと思うかもしれませんが、起業はお金がなくなったらゲームオーバー。『見栄をはるな』ということです。」
④新規顧客が集客できない状態で独立
ビジネスはリピーターで成り立つのですが、そこに新規顧客が加わって厚みが出ると安定してきます。リピーターを大切にするのは原則ですが、安心してしまうのは禁物。リピーターもいつか必ず離れていきます。
新井氏「長年おつきあいしてきた顧客との契約も終わる日が必ずやってきます。その時、びっくりしてパニックになってしまう経験は、僕にもあります。集客不振は主たる廃業理由のひとつです。
会社を続けていくためには、新しい顧客を探す、あるいは育てることを日々のルーチーンとすること。そういう作業が組み込まれていることが大切です。」
⑤会社の人脈に頼って辞めてしまう
会社員時代にどんなに豊富な人脈があっても、数年もせず薄まっていくと思ってください。その人脈の影響力は、あなたが与える側にいたからこそあったもの。会社員時代の遺産などあっという間に失せると思っていたほうがいいです。
⑥自分優先
自分がお金持ちになりたい、自由に働きたい、家族を幸せにしたいと起業する人は多いですが、これでは誰もついてきません。そのため、表向きだけでもいいので、“こういう世の中にしたい”や、“人や社会のために〇〇がしたい”などを起業の理由にすることです。
新井氏「起業は自分でするものだと思っていませんか? でも、自分でできることは、100あるうちの1つか2つです。応援してくれる人がいることが起業成功の近道です。」
⑦名刺配り
起業初心者、いわば見習いの名刺は、どんなに配ってもゴミ箱直行です。ただし名刺を作ることは大切。理由は、自分のチェックリストになるからです。名刺を持とうとすると、メールアドレスはどうしようとか、住所は自宅でいいのかなど、いろんなことが進むからです。
新井氏「記憶に残るような個性的な名刺を持つことも大切。たとえば裏面に自己PRを書いたりするのもいいですね。以前、社労士の方で“首を切る側の社労士”という実にエッジをきかせた人がいて、記憶に残りました。何も伝わらない名刺は意味がありません。」
⑧「〇〇する力」がない状態で独立
8番目のやってはいけないことは「〇〇する力がない状態で独立」というものでした。
新井氏は、受講者に「〇〇に何か言葉を書き込んでください」と投げかけました。受講者からは、「決断」、「相談」、「想像力」などの言葉が挙げられました。
新井氏「今、書き込んだ言葉が、みなさんが起業するにあたって求めているものだと思います。そこを克服してこその起業です。」
最後に、起業時にはあなたの思考を再インストールする必要がありますと新井氏。ただし、これはサラリーマン思考から起業家思考へのアップデートではないそうです。
新井氏「再インストールとは、バグやさまざまな要因で動きが悪くなったデバイスを以前の工場出荷時の状態に戻す作業のことです。みなさんが、もし情報を収集しすぎて何がなんだかわからなくなっているなら、一度、現在の状況をリセットしてください。
結局、ビジネスの基本、安く買って高く売るとか、人に知ってもらうなど、シンプルで当たり前のことを愚直にやっていくことこそが、成功への近道なのですから。」
構成・文/馬渕智子
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