「起業する時は、まず事業計画の作成を」と、聞いたことはありませんか? この事業計画の作成は、起業時において課題のひとつと言えます。
そこで、今回はその必要性から作成のポイントまで、前編・後編にわたったセミナーの様子をまとめてレポートしました。
講師
鈴木 博之氏
シード・ビジネス・クリエーション代表
Startup Hub Tokyo 丸の内コンシェルジュ
東京都中小企業振興公社丸の内 プランコンサルタント
商社勤務を経て28歳で独立。26年間の会社経営で、イタリア食材輸入販売、飲食フランチャイズも含め16店のチェーン店化、損害保険代理店業務などを手がけた。その後コンサルティング会社に転じフランチャイズ本部構築支援、大手外食チェーンの組織改革に携わる。50歳を超えてからは、ミドル~シニアのセカンドキャリア支援に幅を広げ、株式会社パソナ パソナキャリアでは、6年間で300名を起業に繋げている。その後パソナのグループ会社として、社内ベンチャーで起業し、役員として、起業セミナーの動画配信やWebマーケティングのサービスを立ち上げ運営に携わった。
現在はStartup Hub Tokyo 丸の内コンシェルジュ、中小企業振興公社のプランコンサルタントや、飲食店開業・経営及びフランチャイズの本部構築支援、数社の顧問などに携わっている。
- 事業計画とは何?
- 事業計画を作る意味を知ろう
- 事業計画作成で、よくやる間違いとは?
- 事業計画作成までのステップ6W2H
- 事業計画を作るタイミング
- 事業計画(ビジネスプラン)はどう書けば良いの?
- 書き方でよく間違える9つの例
事業計画とは何?
鈴木氏「まず、事業計画とは何か? についてお話します。自分の頭の中にある状態のコンセプトや、収支がどうなるかといったものは、非常に曖昧で、また余計なこともあります。
自分の頭の中にある考えを具体的になにかに落とし込んでいくことで、足りない、あるいはおかしいという部分を明確にすることができます。」
事業計画を作る意味を知ろう
事業計画とは何かということがわかった上で、次に事業計画を作る意味について鈴木氏は以下を挙げて説明しました。
■フィジビリティスタデイ(可能性診断)
自分の事業が利益を生むか、事業性があるかなど可能性を診断することができます。
■事業のイメージの見える化
なんとなく頭の中にあるイメージを具体化できるため、テストマーケティングをやったり、その事業が社会で必要とされているか見極めたりできます。
■自分の事業のスケール感を知る
どうしても最初からスケールを大きくしようとする人が多いが、きちんと計画をたてることで身の丈にあったスケール感をつかむことができます。
■事業化戦略
いわゆる工程表です。半年後ぐらいまでに起業日を定め、それまでにやらなければいけないことを決めていきます。ホームページを依頼したり、業者を決めたり……ですね。やることはたくさんあるのに納期が遅れたりもするでしょう。だから工程表を机の前に貼っておくのがおすすめ。オープンにしておけば、自分で忘れていても家族が気づいてくれることもあります。
■収支計画の具体化
収支計画が大丈夫かということも判断できます。初年度は赤字でもしかたないですが2年目も赤字で、借入をしている場合は洗い直しが必要です。
■資金調達
事業計画の最大のメリットは資金調達に使えることです。日本政策金融公庫をはじめ、自治体の融資制度もおすすめです。自治体の場合、どこでもやっているわけではないので確認が必要です。
■助成金
いろいろな助成金を借りるのにも必要です。しかし、自己流のものでは難しいです。
東京都の場合、Planning Port でプランコンサルを受けると修了証をもらえて申請の要件をクリアすることができ、晴れて助成金に申請できるようになります。
事業計画作成で、よくやる間違いとは?
事業計画を作成することで、自分の頭の中にあったものが現実的になっていくわけですが、作成時に特に気を付けてほしい部分もあるそうです。
■思いつきをアイデアに替えていく必要性がある
たとえば、ストレスを緩和する健康食品の販売をしようと思いついたとします。思いつきをアイデアと思っている人がいますが違います。一歩進んで、商品は誰が作って、パッケージは誰がデザインして ……と、だいたいのことが見えてアイデアになります。具体的な施策や方法がある状態です。
私の場合、相談者がまだ思いつきの時点なら課題をすべて洗い出してもらう作業をします。これをすることで需要の有無を見極められるし開業までの道のりも明確になります。
■ビジネスモデルをしっかりと
ビジネスモデルとは、生産・開発から顧客に届けるまでの戦略的な仕組みがあり、かつ収益性のあるモデルができていることです。長年、相談の仕事をしている私が実感するのは、マーケティングが弱い人が多いことです。
ポスティングや営業などリアルマーケティングでやるのも良いですが、今やSNS全盛の時代ですから、これを利用しない手はありません。しかし残念なことにSNSの知見がない人が大半。
Startup Hub Tokyo 丸の内でもSNSマーケティングのセミナーやイベントを開催しているので、ぜひご参加の上、勉強してほしいと思います。さらに競合調査やボリュームゾーンなどもコンサルに相談しながら作っていくと立派なビジネスモデルができるのではないでしょうか。
■事業計画はわかりやすく
よく業界だけに通じる略語などを使う人がいますが、誰にでも理解できなければ意味がありません。「大学生が読んでもわかるような事業計画にしましょう。」と鈴木氏はよくアドバイスするそうです。
鈴木氏「いずれにしても、一人でやろうと思わず誰かに相談することが事業計画を完成させる近道です。思いつきやアイデアの段階でも遠慮なくコンシェルジュに相談をしてください。
コンシェルジュは起業家としての経験も豊富ですから、思いつきを素晴らしいアイデアに発展させられるようなリアルな話も聞けるかもしれません。ビジネスモデルの段階まで出来たら、プランコンサルタントへ相談してみましょう。」
▶コンシェルジュ/プランコンサルタント一覧
事業計画作成までのステップ6W2H
さて、事業計画作成の際に必須となるのは事業のコンセプトです。いわば事業の骨格のようなものです。これを作成するには6W2Hを使うと良いそうです。
「誰に」「何を」「どのように」といった視点でまとめていくと上手に整理できます。
■When:どのタイミングで実行するか
まず、商材がタイムリーかまだ早いのかを判断します。
■Where:どの市場を狙うのか
意外と間違っているのが市場の選定です。たとえば高級寿司店を下町に出しても的外れとなります。いくら気に入った物件でも魚がいない所に網を投げても魚は獲れません。間違った市場を狙わないように注意します。
■Who:誰が行うのか
一人でやるのか、社員やアルバイトを雇って任せるのかは早いうちに決めます。これは資金繰りなど全部に関わってくるからです。
■Whom:どの顧客を狙うのか
ターゲット決めも全体に関わることなので早いうちに。
■What:どんなサービスを提供するのか
たとえばヨガなど、競合他社が多いものは同じメニューだと大手に勝てません。差別化、優位性があるかどうかを見極めることが大切です。
■Why:なぜ事業を行うのか
創業動機です。自分の意志を曲げずにこの事業を行うための理由を考えてください。お金を儲けたいからだけでは、何かあった時に踏ん張れません。
■How:どのように実施するのか
商品の作成は誰に頼んで、パッケージは誰がデザインして、発送はどうやってするのかという一連の流れです。かつ、どのぐらいコストがかかるのか、それをどういう媒体で売っていくのかという仕掛けと仕組みを考えます。
■How much:どのくらいの資金が必要なのか
設備投資資金はいくら必要か? 足りないと分かったら、プランコンサルタントに相談して練り直すことも必要です。
事業計画を作るタイミング
6W2Hに沿って具体化することで、自分の事業がだいたい見えてきたと思います。次は作成するタイミングです。以下のタイミングで作成すると良いそうです。
■アイデアが具体的になってきた時
■事業内容を整理したいと思った時
頭の中にあるだけでは整理できません。整理したいと思ったら作ってください。
■本当に利益が出て事業化できるか判断したい時
自分だけではなかなか判断は難しいもの。そんな時はコンシェルジュに体系的に作成する方法を相談してみましょう。
■だいたいの起業日が決まった時
事業計画(ビジネスプラン)はどう書けば良いの?
■事業計画書のサンプルを探そう
ネットで入手できる事業計画書のひな型を参考にすると良いそうです。おすすめは「東京中小企業振興公社」の事業計画書。
さらに「これまで何百という事業計画書を見てきましたが、TOKYO創業ステーションPlanning Port 丸の内・多摩にある事業計画書はとても良いです。」と鈴木氏。
TOKYO創業ステーション事業計画書ダウンロードページ
鈴木氏「事業内容の部分は、消費者の課題を解決することを意識して書いてください。たとえば、“ここにこんな店があったらいいのに”などです。それをどう解決していくのかという自分の思いを書いていきます。それと優位性やターゲット、市場、マーケティングもしっかりと書いてください。」
ここで、書く時の重要ポイントを以下のように挙げました。
■「誰が」「どこで」「誰に」「何を」「どのように」「いくらで」販売するのかを書く
■誰が読んでもわかるように書くことを心がける
■専門用語は説明を加える
■写真やグラフ、チャートなども利用する
■数字は必ず計算をし直す
■2期目、3期目の売り上げが、妥当な伸び率なのか
■販売計画、仕入れ・経費計画作成の重要性
書き方でよく間違える9つの例
せっかく事業計画を作成しても、書き方で間違ってしまう方も多いそうです。ついやってしまいがちな9つのパターンを説明しました。
1.迷走型
たくさん書きすぎて本筋が見えなくなるパターン。整理して書くことが必要です。
2.プレゼン型
タイトルを書いて2行ぐらいしかないパターン。会社員時代にプレゼンをよくしていた方に多いです。プレゼンの時は資料にゴチャゴチャ書かず、本人が言葉で説明するからでしょう。
3.尾ひれがつき過ぎている
本当に強調したい部分がわからないので、シンプルを心がけてください。
4.引用にURLを多用する
URL自体は良いのですが多用は避けるべきです。
5.業界専門用語や略語を多用する
用語には必ず説明をつけます。特にIT業界の方は略語が目立ちます。自分にとっては当たり前の略語も相手が理解できないと何にもなりません。
6.販売計画と仕入・経費計画の考え方
ネットに載せれば売れると思っている人がいますが、売れません。特別なベンチャー企業ならともかく、地に足がついた考えをしなくてはなりません。
7.資金調達の調達方法に助成金を入れてしまう
借りられない場合資金が足りなくなりますから、自己資金の中に助成金は入れないでください。
8.資金繰りの表の月別売上を単純に月数で割った金額を記載
たとえば月に800万円の売り上げがある店だとしても、起業したてで800万は売れません。最初の月が200万円しか売れなかったら、たとえ後に売れたとしても手元の資金が減少し運転資金が足りなくなってしまうことになりかねません。
9.数字の間違い、計算間違い、削除
数字を間違える人なんているの? と思うかもしれませんが非常に多いです。人件費が抜けていたり雑費の合計が間違っていたりするものです。
さて、ようやく完成した事業計画は開業前、開業後の指針になるし、融資を受ける時に大いに利用できます。
■日本政策金融公庫
積極的に貸してくれますからぜひ利用してください。
■自治体、金融機関、保証協会による制度融資
自治体によってやっているところとやっていないところがあります。自分が住んでいる自治体に制度融資があるかどうか確認が必要ですが、起業する方への大きな助けになると思います。
■女性・若者/シニア創業サポート事業
女性、または35歳未満から55歳以上の方であって、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方向けです。条件がある分、金利が安いのがメリットです。
■ベンチャーキャピタルなど
スタートアップの方やクラウドファンディングなどにも利用してください
セミナーを終えて鈴木氏は「事業計画への抵抗感が少しでも薄らいだ方が増えるとうれしいですね。そして、ぜひコンシェルジュやプランコンサルタントに相談に来てください。一緒に事業計画を作成できる日をお待ちしています。」とエールを贈ってくれました。
構成・文/馬渕智子
<おすすめ記事>
起業への第一歩はリスクの少ない副業から!
起業に失敗はつきもの。やりたいことをやらなかった後悔こそ、恐れてほしい。
コンシェルジュ相談では、起業にまつわる様々な課題をご相談者とディスカッションし、客観視点からアドバイスを行います。ぜひご利用ください!
\イベントをチェックしたい方はこちら/