東京都内には、起業を考えている方を応援、支援する「創業支援施設」がたくさんあります。ひとくちに「創業支援施設」といっても、それぞれの施設の雰囲気や支援の様子には特色があります。
今回は「企業が生み出す地域の未来」をテーマに「地域密着型」の創業支援に着目し、現在インキュベーションマネージャーとしてご活躍中の朝比奈信弘氏と永沢映氏をお迎えして、各施設の特徴や「地域密着型」の創業支援について紹介していただきました。
たくさんの質問が飛び交い、活気にあふれたイベント当日の様子をレポートします!
登壇者紹介
今回ご登壇いただいたのは、品川区にある「西大井創業支援センター PORT2401」の朝比奈信弘氏、北区にある「ネスト赤羽」の永沢映氏の2名です。
(西大井創業支援センター PORT2401 インキュベーションマネージャー)
1982年生まれ、神奈川県出身。中小企業診断士。
千葉大学大学院(デザイン専攻)卒業後、凸版印刷(現TOPPAN)株式会社にて編集・デザイン業務に7年従事。その後、公的支援機関にて新規事業開発、人材育成、官民連携の支援経験を経て独立。
2020年Scalar株式会社を共同創業。Forbes Japan 「新しい日本」をつくる次世代スタートアップ100選に選出。
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 ソーシャルビジネス研究会 副代表。(ネスト赤羽インキュベーションマネージャー/NPO法人コミュニティビジネスサポートセンター 代表理事)
1968年埼玉県生まれ。大学卒業後に環境ビジネスで起業。会社経営と並行してNPO法人でフリースクールの経営も行った。
経験を基に事業性と社会性の両立した経営の支援のため、コミュニティビジネスサポートセンターを設立し、現在は創業支援の中でも
特に社会起業家の育成をおこなっている。また国や自治体での政策づくりは総合計画、SDGs、産業振興プランなど多方面で行っている。
お二人はインキュベーションマネージャーとして、それぞれの拠点で起業を目指す方のサポートを行っています。まずはお二人の所属する施設についてご紹介いただきました。
西大井創業支援センター PORT2401
朝比奈氏が所属している「西大井創業支援センター PORT2401」は、品川区が運営する創業支援施設です。
1年以内に起業予定~概ね創業3年以内の方を対象に、「ソーシャルビジネス」「副業からの起業」「学生起業」をメインテーマに支援を行っています。
利用者のビジネス属性は「テクノロジー」や「ライフサービス」、「小売・開発」など多岐にわたりますが、地域に住んでいる方の利用が84%と大変高いことが特徴です。
朝比奈氏「施設で大事にしている雰囲気はアットホーム。中心にあるカウンターに利用者同士で集まり、雑談をしながら過ごすことも。一人というイメージの強い経営者だが、同じ経営者の仲間としてコーヒータイムなどを設けながら情報交換をしています」
その他にも地域に溶け込むために、地域のお祭りに施設として参加して入居者の商品を販売したり、場所を借りてテストマーケティングを行うポートマルシェなどの企画も行っています。
ネスト赤羽
永沢氏が所属している「ネスト赤羽」は、東京都北区が運営する創業支援施設です。
都内の公的なインキュベーション施設としては、トップ3に入るほど長い歴史をもつ施設で、永沢氏の関わった過去19年で150社以上がここから巣立っていったといいます。
利用者の約95%がITなどのサービス業に属していることが特徴で、施設を退去した後でも64%の利用者が地元の赤羽、北区に残って事業を続けている特色があります。
永沢氏「なるべく地元の信用金庫などの金融機関につないだり、地元の企業同士のコミュニティを作ったりといった工夫をしています。施設の会議室利用なども継続できるので、地元に残ったほうが、ネットワークもあって相談がしやすいということが地元に残る要因になっていると思います」
施設の開業当初はITベンチャーなどが中心だったそうですが、最近では50~60代のセカンドステージの方や女性が起業するケースが増えてきており、自分がやりたいことで人の役に立ったり、まちを豊かにしたりという視点を持つ傾向が見られると永沢氏は分析されていました。
トークセッションで「地域密着型」創業支援施設を深掘り!
ここからは、1問1答式のトークセッションで「地域密着型」の創業支援を深掘りしていきます。
質問した内容は以下の7点。
- どのような利用者や質問が多い?
- SNSなど、人とのコミュニケーションに力を入れたほうが成功しやすい?
- 「地域の未来」につながる新しい取り組みや「地域密着型」起業についての考えは?
- 共感」というキーワードについて
- 採用難と雇用の未来について
- 地元の人に受け入れてもらうコツや心構え
- 地域になじみすぎて外からの視点が薄れるケースは?
参加者からのコメントも踏まえながら、回答していただきました。
Q. どのような利用者や質問が多い?
朝比奈氏「地域で起業を志す方は、Startup Hub Tokyo 丸の内にいらっしゃる方よりもフェーズが少し進んでいるような印象が個人的にはあります。自分は『コミュニティ』『地域』で起業するというひとつの解を持った方が、『どのように地域と関わっていくのか』を実際に模索しにきているという時間軸の方が多いかなと思います」
永沢氏「起業して地域にコミットしようとする場合、Face to Faceで人間関係を作ること、地域のマーケットやニーズ、課題をきちんと知って分析できることが大切。自分のやりたいことだけやっていても空回りしてしまいます。人との関係を通じて、地域に足を運んで、地域のデータや情報を見ながら、マーケットを肌感覚で感じる。地域で起業するために最低限必要なことですかね」
朝比奈氏「同じ東京都の中にあっても、地域性はかなり異なります。地域に応じた特色のあるアイデアや考えを持ち寄って、支援者も含めて色々な人とFace to Faceで関わりながら起業のフェーズを進めていただくのが良いと思います」
永沢氏「地域でうまくやっていこうとすると、すべての人とうまく関わろうとしてやり過ぎてしまう人もいる。合わない人には労力を使いすぎないなど、ある程度の割り切りも大切です」
朝比奈氏「ビジネスはある意味土俵のようなもの。ルールとマナーがあり、その中で適度な距離感を保ちながらコミュニケーションしていくのがビジネスなので、『ビジネス的な距離感』を意識しておくといいですね」
Q.SNSなど、人とのコミュニケーションに力を入れたほうが成功しやすい?
朝比奈氏「SNSの良いところは、名刺1枚ではわからない相手の人となりを深掘りでき、信頼につながりやすいこと。自分の信頼性を高めるひとつの行為としてとらえると、ローカルなビジネスであってもSNSはおすすめです」
永沢氏「Face to Faceは狭く深い関係、SNSは広く浅い関係を築くもの。それぞれに向いているビジネスとそうではないビジネスがあります。事業の内容やスタイルによってバランスを取りながら、それぞれのウエイトの置き方を使い分けていただいたほうが良いと思います」
Q.「地域の未来」につながる新しい取り組みや「地域密着型」起業についての考えは?
朝比奈氏「ビジネスの中心にある『ペイン=課題』は、昔よりも見つけにくくなっています。ローカルには、ローカルでなければ見つけられない根深系課題が眠っている。根深い課題は、その地域に属しているほど共感しやすく、仲間を見つけるスピードも速くなる。1つの課題に共感し、仲間を集めて取り組んでいくと、他の地域への展開もみえてくる。この中心課題をつかみに行くのが、ローカルビジネスの楽しさであり、大事なところですね」
永沢氏「30年前のビジネスポイントはプロダクトアウトだったが、最近はマーケットインが主流になっています。わがまちにはこれがなくて困っている、そこに気づくことがマーケットをどう探るかにつながっていきます。地域における起業では、マーケットインをベースに置き、付加価値を高めるように組み立てることが大事な視点になってくるのではないかと思います」
Q.「共感」というキーワードについて
朝比奈氏「『共感力』は、ソーシャルビジネスにおけるひとつの強み。特に創業期やお金を稼ぎにくいフェーズの場合は、共感力が人を動かす源泉になる。共感を生み出すものは言葉ですが、言葉を伝えるためには非言語の部分、Face to Faceだからこそ伝わるものがあります。人集めの部分でも、ソーシャルビジネスの強みを遺憾なく発揮していただいたほうが良いと思います」
永沢氏「『これをやりたい』という想いさえあれば、数字やマーケットなどわからない部分も明確にして発信すると、想いに共感する仲間や協力者がサポートとして集まることもあります。共感の得方は多種多様にあるので、自信のない方でも見せ方によって共感を生むことは可能です」
トークセッションでは、参加者からのコメントや事前質問にも複数回答していただきました。いくつかご紹介します。
Q.採用難と雇用の未来について
朝比奈氏「今後は『雇用する』、『雇用しない』という白か黒かだけでなく、『白でも黒でもない緩やかな繋がり方』を持つことが大切だと思います。子育てなどで制限がある方に合わせた仕事を作れるか。人に合わせたピースをいかに作れるかが経営者に問われているのだと、私は前向きにとらえています」
永沢氏「私が起業した約30年前には20数名の社員がいたが、いま同じ仕事をすれば5人もいらない現実がある。業務の効率は大きく変わってきている一方、雇用では気を遣う部分が増えて大変な時代になってきています。正規雇用だけでなく、パート・アルバイトや委託契約、パートナー契約なども含めて、雇用を幅広に捉える視点を持つといいと思います」
Q.地元の人に受け入れてもらうコツや心構え
永沢氏「すべての人と仲良くする必要はないが、ポイントとなる人とはうまく関係性を作る努力をしていいと思います。堅苦しく関係性を作るよりは、ラフな形で共通点を見つけるという視点も大切です」
朝比奈氏「年代や性別が離れるほど、お互いの共通項は見つけにくくなる。共通項を探す努力を事前にしておく、みずから自己開示をしていくことで、相手にも受け入れてもらいやすくなると思います」
Q.地域になじみすぎて外からの視点が薄れるケースは?
永沢氏「地域に入り込みすぎると、役割や雑用を任されすぎてしまうこともある。ビジネスとしてメリハリをつけ、距離感を持つことは大切。相手に巻き込まれない線引きを意識しておくことは大事かなと思います」
朝比奈氏「なじみすぎることをポジティブに捉えてもいいと思います。外からの視点が薄まるという危惧があるのなら、新しい外部の人を巻き込むことで盛り上げるという解決方法もある。『人を巻き込む』Face to Faceの原則に沿っていくと意識すればいいのではないかと私は思います」
これからの「地域の未来」
さいごに、「地域の未来」についてそれぞれコメントをいただきました。
朝比奈氏「これから楽しくなるのは、地域だと思っています。何もない地域をフロンティアとしてみなせば、周りと比較されることはありません。ローカルや地域に可能性を感じられる人は、絶対にそっちに行った方が良いと思います。楽しんでローカルビジネスにチャレンジする人が増えると、日本全体にとってもポジティブ。一人でも多くの方に挑戦していただければいいなと思います」
永沢氏「地域で起業するときは、まずは必要とされていることを把握し、そこで見つけた課題に自分がやりたいことをかけ算をすると、ビジネスをきちんと整理することができます。また自分が出来ること、足りないことも整理して、苦手な部分は周りの力も借りながら全体を組み立てる。さらに事業を続けていくためには『楽しいと思うこと』も必要。これらの要素をかけ算すると、創業に向けたイメージが整理しやすくなります。創業につながりやすい流れとして、参考にしてみてください」
さいごに
今回は、「地域密着型」の創業支援をメインテーマとした「TOKYO起業支援ナビ」のレポートをお届けしました!
ローカルビジネスには、ローカルだからこその面白さや奥深さがあり、それぞれの地域ならではの特色があります。 ビジネスに対する想いや解決したい課題に合わせて、自分にぴったりの創業支援施設を見つけてくださいね。
構成・文/やまぐちきよみ
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