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~空き家から生まれる地域との絆~ 経験者が語る 空き家起業のリアルと可能性

「いつかは自分のお店を持ちたい。でも資金も物件探しも大変そう…」  そんな不安を抱える方に知っていただきたいのが、“空き家”起業という選択肢です。

2025年8月5日、Startup Hub Tokyo 丸の内で開催された「経験者が語る!空き家起業の可能性~空き家から生まれる地域との絆~」では、東京都の起業家による空き家活用事業の紹介と併せて、空き家を利用して助産院やカフェを開業した2人の起業家のトークセッションが行われました。

空き家活用だからこその苦労や、そこから得た学びなど、リアルな体験談をもとにした“起業のヒント”をイベントの様子とともにお届けします。

起業家を支える「起業家による空き家活用事業」とは

まず、イベントの導入として、東京都産業労働局商工部 創業支援課の森田氏より、「起業家による空き家活用事業」の概要が紹介されました。     

東京都は、空き家(戸建て住宅)を活用した事業プランを考える起業家を支援するため、「起業家による空き家活用事業」を実施しています。

この事業は、柔軟な発想を持つ起業家と空き物件の所有者をつなぎ、それぞれの支援を行う制度です。事業には大きく3つの取り組みがあり、
・空き家探しをサポートするコーディネーターの設置・補助
・起業家のビジネスプラン採択・補助(最大2年間、家賃の3分の2を補助)
・空き家所有者への税負担軽減(最大3年間、固定資産税・都市計画税を補助)
が行われています。

過去の採択事例には、今回ご登壇いただいた2人の事業のほか、障害福祉サービスが挙げられており、幅広いビジネスの支援制度であることがわかります。この制度によって、地域に根ざした新たな事業が次々と生まれているのです。

トークセッション:体験者が語る“空き家起業”のリアル

続くトークセッションでは、「起業家による空き家活用事業」を利用して起業された2人の登壇者に、事業を知ったきっかけから空き家起業だからこその苦労まで、リアルな経験を語っていただきました。

登壇者紹介

佐藤 亜紀子氏
(るるん助産院 代表)

1969年群馬県生まれ、三宅島育ち、府中市在住。1992年日本赤十字看護大学卒業後、武蔵野赤十字病院で看護師・助産師として30年間勤務。6,000件以上の出産に携わる中で、産前産後のケアの重要性を痛感。母親たちの不安に寄り添いたいという思いから、2023年西東京市に産後ケア・育児相談の「るるん助産院」を開院。「安心して育児をスタートし、子育てを楽しめる社会」を目指し活動。令和5年度「起業家による空き家活用事業」採択者。

岡田 麻衣子氏
(Dessert lab 代表)

大手百貨店や化粧品会社での勤務を経て、2019年錦糸町に「Dessert Lab」をオープン。コロナの影響を受けながらも、現在は1階部分をパティシエのお菓子のテイクアウト、2階部分をカフェとして営んでいる。令和元年度「起業家による空き家活用事業」採択者。

モデレーター

小泉 祐司
(Startup Hub Tokyo 丸の内 コミュニティマネージャー)

新卒で水戸市役所に約4年間勤務し、コワーキングスペース水戸Wagtailの運営や商店街振興等のまちづくりに携わる。2019年7月より転職し、行政コンサルタントとして自治体の行政計画策定に携わるとともに、中小企業の新規事業開発のプログラムを企画運営。2021年4月からはつくば市のインキュベーション施設つくばスタートアップパークでコミュニティマネージャーとして125本以上のスタートアップイベントを企画。

「起業家による空き家活用事業」に応募したきっかけ

最初のトークテーマは、「起業家による空き家活用事業に応募しようと思ったきっかけ」から。

助産院「るるん助産院」を開いた佐藤氏は、長年の看護師・助産師としての経験から、「もっと育児の不安に寄り添いたい」という想いが強くなり、産後ケアや育児相談をメインとした助産院の立ち上げを決意しました。当初は自己資金で物件探しをしていましたが、ある時、お世話になっていた不動産屋さんから「起業家による空き家活用事業」を紹介されたといいます。

佐藤氏
「もともと自分の中で“こういう助産院にしたい”というイメージがあり、いわゆる店舗ではなく、普通の一軒家を候補として探していたんです。自分の中の理想のイメージと、利用者であるお母さんやご家族に安心してもらえる場所という両方を満たす物件を考えた時、鉄筋コンクリートの建物よりも日常に近い、少し古めの空き家を活用してみようという結論に至りました」

一方、錦糸町でカフェ「Dessert lab」を営む岡田氏は、現在開業5年目。開業する3年前からカフェ起業に向けて本腰を入れ始め、準備を進めてきました。その中で出会ったのが、駅からほど近い場所にある一軒の空き家。当時、5年以上前からずっと空いていることがどうしても気にかかり、「いつかお店を持つならこの物件がいいな」と思っていたといいます。

岡田氏
「物件を借りられるようになってから大工さんや工務店の方にリフォームを相談したのですが、お客さんを入れて利用するなら、改装に1,000万以上かかると言われたんです。さすがに貯金だけでは足りないと思い、銀行以外に助けてくれる補助金や助成金はないのかとインターネットで調べたところ、『起業家による空き家活用事業』にたどり着きました」

不動産屋さんの紹介で「起業家による空き家活用事業」を知った佐藤氏と、必要に迫られて自力でたどり着いた岡田氏。応募までの流れは大きく異なりますが、それぞれの強い想いがうかがえるお話となりました。

理想の「空き家物件」に出会うまでの道のり

それぞれの想いから空き家の活用にたどり着いた2人ですが、実際に理想の物件と出会うまでに、どのような工夫や苦労があったのでしょうか。
佐藤氏の場合、助産院の開業には建築基準法だけでなく、消防法や医療法などの条件を満たした物件を見つけ出す必要がありました。実際に動き出したのは、半年後に開業すると決意した頃。当時の本業と並行して物件探しをスタートしたといいます。

佐藤氏
「助産院設立の条件はとても厳しいので、細かい要望や開業への熱い想いを事前に不動産屋さんに伝えたうえで、物件を探してもらいました。開業前は2週間に1回のペースで不動産屋さんに通って、内見に行っていましたね。途中で1件、素敵な物件を見つけたのですが、リフォームにかかる金額などを考えている間に、別の方に決まってしまったんです。『次こそは絶対すぐに決めよう!』と決意したタイミングで出会ったのが、今の物件でした」
物件を決めるまで、10件以上の内見に足を運んだという佐藤氏。お世話になった不動産屋さんも必要な法律をイチから勉強してくれたそうで、とても心強かったとお話しされていました。空き家だからこそ、すべての条件が揃う物件を見つけ出すのはなかなか簡単ではありません。佐藤氏は信頼できるパートナーと出会い、一緒に諦めずに行動したことが成功につながったと言えそうです。
岡田氏の場合は、理想の物件を見つけた後、不動産屋さんではなく法務局に足を運んだといいます。

岡田氏
「まずは誰が所有している物件なのかを調べようと思ったのですが、持ち主の住所を法務局で調べてもらったところ、なんと私と同じ住所が記載されていました。本当に驚きました。たまたま、私と同じマンションに住んでいる方だったのです」
偶然の一致も後押しとなり、契約の話を進めるために、近くの不動産屋さんに相談に行った岡田氏。不動産屋さんが大家さんに手紙を書いてくれたことで縁がつながり、物件の契約にたどり着きました。

岡田氏
「5年も空いている家だったので、断られる可能性も考えて他の物件も見て回っていたんですが、どうしても“一軒家の古い家”が良かったんです。昔から古道具や古い建物が好きで、古いものには二度と手に入らない価値があると考えています。物件が決まるまでは自転車で近所を走り回りながら、アンテナを張るようにしていました。街中には住んでいない家が結構多いので、古い家を使いたいと考えている方はそういう動きをしてみるのもいいと思います」

唯一無二の物件と出会えるのは、空き家活用の魅力の一つでもあります。計画的に条件を整理して探した佐藤氏と、偶然の出会いをきっかけに行動し続けた岡田氏。アプローチは異なりますが、「理想の空き家を諦めずに見つけ出す」という共通点が、2人の体験から浮かび上がりました。

「起業家による空き家活用事業」のエントリーから採択まで

たとえ理想の物件が見つかっても、「起業家による空き家活用事業」の支援を受けるためには多くの準備が必要です。ここからは、それぞれのエントリーから採択までの道のりを伺いました。
佐藤氏が採択された令和5年度の「起業家による空き家活用事業」は、最初の募集で採択されたのが1社のみ。その後の再募集の知らせを、お世話になっていた不動産屋さんから聞いたのがエントリーのきっかけでした。話を聞いた時にはすでに締め切りまで1か月を切っており、年末年始を返上して準備に取り組んだといいます。

佐藤氏
「膨大な審査書類を締め切りまでに仕上げるのは、素人の自分にはすごく大変でした。建築に関する書類はすべて不動産屋さんに協力してもらいましたが、事業計画や資金について『10年先も事業を続けていけること』を具体的に数字で示すことには、特に苦労しました。この辺りの作業は一人で考えていても埒が明かなかったので、地元の商工会の専門家にアドバイスをもらいつつ、事業への想いは自分の言葉で熱く語れるように準備を進めました」
再募集という限られたチャンスを逃さないために、頼れる人に積極的に協力を仰ぎ、短期間で申請をやり切った佐藤氏。一方の岡田氏は、頼れる人が周りにいなかったこともあり、半年近くかけて申請の準備を進めたといいます。

岡田氏
「初めてお店を出すという段階なのに、未経験の事業計画書を作成しなければならないというのがすごく大変でした。必要な備品の値段を調べて記載したら『見積書を持ってきてほしい』と言われ、業者さんには『見積書は個人には出せない』と言われ…。ひとつひとつ事情を説明しながら準備を進めていったのですが、PCが苦手だったことも重なって、かなり大きなハードルを感じていましたね」
事業計画書などの申請書類は、金額の書き方ひとつとっても細かいルールが設定されています。壁にぶつかるたびに自分でインターネットで調べて対応していったという岡田氏のエピソードからは、「どうしてもここでカフェを開きたい!」という強い想いがうかがえます。
アプローチの仕方は異なりますが、2人とも「理想の場を実現したい」という想いを原動力に、申請準備の大きな壁を乗り越えていらっしゃったのが印象的でした。

費用面の課題と開業後のトラブル対応

採択が決まり、ようやく事業をスタートさせた2人。しかし、事業が動き始めてからも“思わぬ出費”や“古い建物ならではのトラブル”が待ち受けていました。ここでは、空き家活用ならではの課題や、その対応について伺いました。
佐藤氏の場合、リフォームの必要がほとんどない状態で借りられたものの、実際に事業を始めたことで古い住宅ならではの問題が次々と見えてきたといいます。

佐藤氏
「部屋のしきりになっているのが基本的に障子と襖なので、2階で休んでいるお母さんに1階の赤ちゃんの泣き声が筒抜けだったり、夏は暑く冬は寒くが当たり前だったり…。契約条件上、原状復帰することを考えると大がかりなリフォームは難しいので、DIYで対応するコストがその都度掛かっている感じです。お湯が出ないなどのトラブルは、大家さんが対応してくださっています。あくまでも賃貸契約なので、何かする時は大家さんの許可を必ず取ることを意識していますね」
一方の岡田氏は「現状渡し」の契約だったそうで、登記簿にも載っていないような80年以上前の物件ということもあり、開業準備から運営まで常に予想外の出費がつきまとったそうです。

岡田氏
「雨どいの破損や隙間風対応、害虫・害獣対応などもすべて自己負担です。今になって、契約時にある程度大家さん負担にしておけばよかったと感じているので、佐藤氏のお話が少しうらやましいですね。物件を借りた当初は飲みかけのお茶がそのまま置かれているような状態で、残置物の片づけだけでも100万円以上かかりました。内装や外装だけでなく、片付けにもお金がかかるという点も、これから空き家活用を考えていらっしゃる方には知っておいてほしいポイントですね」

空き家を活用するということは、古い建物を引き継ぐということ。想定外の費用や不具合はつきものですが、事前の状況確認と、大家さんや不動産業者との信頼関係があれば、乗り越えることができる――2人の経験からは、そんな学びが伝わってきました。

空き家起業の魅力と得られたもの

空き家活用には、さまざまな課題がある一方、空き家だからこその魅力もあります。

助産院を開いた佐藤氏は、開業時に「前に住んでいた方が周囲の方と良好な関係を築いていた」という話を聞き、ご近所に挨拶に伺った時のことを印象深く覚えているといいます。

佐藤氏
「『前に住んでいた方も喜ぶわね』と笑顔で迎えてくださったのがうれしかったです。赤ちゃんの声が毎日する場所なので心配していましたが、開業後も『元気がもらえる』『幸せな声がする』と声をかけていただき、この家と地域の歴史に支えられていると感じます」

岡田氏も、地域の人たちがカフェの存在を心から喜んでくれているとのこと。「もともと床屋や美容院として親しまれてきた建物を引き継いだこともあり、建物自体に思い出を持つ方が訪れてくれたり、そのまま残してある急な階段を見て『懐かしいね』と声をかけてくれたりする方もいらっしゃるんですよ」と、にこやかに話されているのが印象的でした。

近隣とのつながりをどう築いていくかは、その後の質疑応答でも、参加者から質問が出ました。「自分の事業を近隣住民に浸透させるための工夫は?」という問いに対して、2人からはそれぞれ「地域のイベントに積極的に参加したり、周辺のお店や施設、住んでいる方と積極的に関わったりすることが大切」という回答がありました。空き家は、単なるスペースではなく、地域に根ざした“場”としての価値を持っていると実感させられるやり取りでした。

歴史ある場所を夢のつまった居場所に

最後に2人から、これから空き家活用事業を考えている方向けにメッセージをいただきました。

佐藤氏
「空き家を活用することで、一つの空き家を減らせるだけでなく、地域に新たなつながりやコミュニケーションを生みだすことに貢献できているなと感じています。ご近所の方と楽しく交流する過程でコラボレーションできる企画を思いつくこともあり、“助産師”という仕事を知ってもらえる機会も増えました。大家さんや不動産屋さんと良い関係を築いておくと、思わぬところで助けてもらえることもあるので、そんな出会いを大切にしてください」

岡田氏
「空き家は、小さな傷一つにも大切な歴史がある、とても価値のある場所だと思うので、ぜひ一つでも多く受け継いで、活用していただきたいです。せっかく空いているスペースです。みなさんの活躍できる場所、新しいことのスタート地点として使ってもらい、ゴミがつまった場所ではなく、夢がつまった場所に変えていってください」

2人の言葉には、空き家を「地域の歴史を知る価値ある資産」として受け継いでいく覚悟が感じられました。
「自分のお店を持ちたい」「地域に根ざした活動がしたい」と考えている方にとって、「起業家による空き家活用事業」は大きな後押しになるはずです。
制度をうまく活用しつつ、物件選びや事業計画づくり、ネットワーク構築など、必要に応じて専門家のサポートを取り入れることで、実現への道のりは格段に近づきます。

Startup Hub Tokyoでは、起業準備を進めるための相談・イベントも随時開催しています。はじめの一歩を踏み出す場所として、ぜひ活用してくださいね。

 

構成・文/やまぐちきよみ

 

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