
昨今、学生による起業はかつてない盛り上がりを見せています。
経済産業省の最新調査によると、2024年度の大学発ベンチャー数は5,074社となり、過去最高を記録。キャンパス内で『起業』という選択肢を耳にすることも、決して珍しくない未来が近づいてきているのです。
しかし、いざ自分が挑戦するとなると話は別。
「ビジネスの知識なんて全くない」
「失敗したらどうしよう」
そんな不安から、興味はあってもあと一歩が踏み出せないという学生の皆さんも多いのではないでしょうか。
2025年11月22日、Startup Hub Tokyo 丸の内では、そんな迷える学生たちの背中を押すイベント『若手起業家の知識、経験がない中の挑戦~学生起業から始まったストーリー~』が開催されました。
登壇者は、次世代宇宙服を中心とした研究開発を推進する宇宙スタートアップAmateras Space株式会社代表取締役の蓮見大聖氏と、本のある公共空間・コミュニティとして、シェア型図書館を運営する合同会社妄想図書室代表の岡村未来氏。2人は分野は違えど、ともに学生時代に経験ゼロの状態から事業を立ち上げ、現在もそれぞれのフィールドで挑戦を続けている若手起業家です。
本レポートでは、彼らが直面してきたリアルな「壁」と、それを乗り越える中で紡がれてきた「等身大の言葉」を、イベントの熱気とともにお届けします。
登壇者紹介

(Amateras Space株式会社 代表取締役)

(合同会社妄想図書室 代表)
学生での起業に至った背景
鮮やかな宇宙服のレプリカ姿で登壇した蓮見氏と、柔らかな語り口が印象的な岡村氏。対照的な雰囲気の2人ですが、最初のトークテーマ『学生起業をした背景』からも、全く異なるアプローチで起業に至った経緯が見えてきました。
「人生をかけて何かを残したい」高校時代の原体験から、宇宙事業へ

大学を休学しながら、3社目の事業として宇宙ベンチャーを経営する蓮見氏。国内で唯一の宇宙服研究開発企業として、伝統工芸品である西陣織の技術を取り入れた宇宙服を万博で展示するなど華々しい活躍を見せています。しかし、その起業人生の原点には高校時代の壮絶な体験があったといいます。
蓮見氏
「もともとは起業に興味がない人生を送っていました。しかし、高校2年の時に頸椎を損傷し、一時的に全身まひになって生死をさまよう経験をしたんです。
体が動かない中で『死生観』について深く考えるようになり、自分の人生を掲げて何かをしたいと感じるようになりました。最初は政治家を目指したこともありましたが、『産業面から社会を変えていきたい』と考え、現在に至っています」
教師や看護師といった堅実な職業の家系に育ちながらも、資本主義社会の中での『自由』を求めて起業の道に足を踏み入れた蓮見氏。漫画の主人公を引き合いに出しながら、自分がどんな生き方に惹かれるのかという「理想像」についても語っており、『自由』というキーワードに対する想いの強さが垣間見えます。
畑の全く違う教育系の事業も経験したという蓮見氏ですが、なぜ現在の宇宙事業にたどり着いたのでしょうか。
蓮見氏
「まずシンプルに『自分が生きた証を残せるくらいのでかいことをやり遂げたい』という想いが前提としてありました。学生時代にアパレルも手掛けた経験もあり、怪我をしたことで関心を持った身体拡張技術と『かっこいいものを作りたい』という想い、そこに『今の自分から最も遠いところでできることは何か』という考えなどを掛け合わせていった結果、今の宇宙服事業にたどり着きました」
蓮見氏は「人類が多惑星の存在になろうとしている今しかできない事業。ようやく時代が追い付いてきたような感覚」だと壮大な事業テーマや夢について語りつつ、資本主義の中で「社会や人に貢献していくために何ができるのか」という視点にも言及しており、その幅広い視野が強く印象に残るお話でした。
「バイトがないなら仕事を作ればいい」困りごとから学生起業の道へ

一方、岡村氏の起業のきっかけは、より日常的な「困りごと」からだったといいます。
岡村氏
「私がまずフリーランスとして開業したのは、高専の5年生、19歳の時でした。実は、当時住んでいた場所が田舎すぎたせいで、アルバイトをしたくてもできる場所が見つからなかったんです。どうしたらいいのか途方に暮れ、いろいろと考えていくうちに『バイトがないなら、自分で仕事を作っちゃえばいいんだ』という発想に至りました。そこから起業やフリーランスという世界を意識し始めた形です」
ひょんなきっかけから、家族や友人、学校関係の知人にも起業やフリーランスの道を歩む人が全くいない状態で動き始めたという岡村氏。学生生活では人工光合成の研究で研究室にこもる日々だったといい、その面白さを知ってもらいたいという想いから、初めは発信に興味を持ち、ライティングから仕事をスタートします。仕事を通してさまざまな人に出会ったり、インターンに参加したりするなかで、自分の肌に合う仕事として、現在も続けている映像制作の世界にたどり着いたそうです。
「起業したい」という目的ありきではなく、「もっとこうなったらいいのに」という想いを行動に移していく過程で今の形になったという岡村氏。そのスタンスは、現在の私設図書館事業にも表れています。
岡村氏
「蓮見さんとは良い意味で真逆の考えで、私は『顔が見える世界からハッピーにしていきたい』という想いから現在の活動をしています。図書館づくりにたどり着いたのは、自分が全国を旅していた時。無意識のうちにいろいろな公共図書館に足を運んでいたのですが、なかでも札幌にある図書・情報館を訪れたときにあまりに居心地がよく、『自分でもこんな空間が作りたい!』と思ったのが事業のきっかけになりました」
幼いころから図書館を『居場所』としてとらえていたという岡村氏は、その原体験とモデルケースを掛け合わせる形で現在の事業形態にたどり着いたそうです。
岡村氏
「はじめは公共図書館を作りたいと思ったのですが、一般市民の自分にはさすがにハードルが高い。そこで民間で図書館を運営できる方法はないのかと考え、『図書館=居場所・コミュニティ』という捉え方ならできるという結論に至りました。地方ですでに実現しているモデルがあったので、現在はそちらを参考にしながら運営しています」
大きなビジョンから逆算して「宇宙」を選んだ蓮見氏と、身近な課題や「好き」を突き詰めて行動を積み重ねた岡村氏。入り口は違えど、2人とも自身の原体験に素直に従ったことが、揺るがない軸として現在の活動につながっている印象を受けました。
学生起業だからこそのメリット・デメリット
続いてのテーマは、『学生だからこそのデメリットをどのように乗り越えてきたのか』という話題。学生だからこそのメリットと併せて、2人の経験に基づく考えをお聞きしました。
岡村氏
「学生で活動をしているというだけでも、周りが注目してくださり、たくさん応援していただけたのはとてもありがたかったです。一方、社会のことをよくわかっていないので、名刺の渡し方ひとつをとっても、自分で情報を調べたり、試行錯誤を繰り返したりする必要があります。そのあたりの知識はインターンシップなどに参加しながら、苦労しつつ身につけていきました」
蓮見氏
「自分はディープテック領域なので、はっきり言ってしまえば、学生に何ができるんだという面はもちろんあります。事業開発が主軸なので、自分は人と資金をいかに引っ張ってこられるのかをメインとして動いています。ただ、できる・できないという点は、学生かどうかに限らず大事なことですよね。学生の場合、お金が入ったらすぐに使いたくなってしまう人もいるので、キャッシュフローの管理という点では難しいなと感じています。メリットは、学生で起業している人の母数が少ないので、周囲から認知してもらいやすいことですかね」
蓮見氏は「学生だから起業しないほうがいいということはないので、肩書に限らず、自分自身の意思決定次第だと思う」とも語っており、2人とも『学生である』という立場を大きな壁とは捉えていないことが伝わってくる、印象的なお話でした。
インターンシップとメンターが広げた視野
知識も経験もない状態からのスタートを経験した2人ですが、共通して出たキーワードに『インターンシップ』があります。リアルな現場に身を置いて学ぶだけでなく、そこで出会った大人たちの存在が、その後の意思決定や行動にも大きな影響を与えていったといいます。
蓮見氏
「初めは宇宙に全くかかわりのないところからのスタートだったので、イベントに参加して『雇ってください!』と声をかけるところから始めました。インターン先では社会を知ることはもちろん、『お金の動き方はどうなっているか』『経営者の思考はどうなっているのか』など、すでに動いている企業だからこそ見えてくる部分について、知見を増やしたいという想いで参加していましたね。インターンを通して『サステナブルな事業経営』という視点を持てたのは、とても大きな経験になりました」
具体的な目的意識をもちインターンシップに参加した蓮見氏とは対照的に、岡村氏は自身の「やってみたい」という好奇心や直感に従った結果としてインターンシップにたどり着いたそう。
岡村氏
「学生時代は研究に没頭し、家と学校の往復だけという生活をしていました。大学3年生になって急に就活の話題が出るようになり、改めて自分は社会のことを全然知らないなと感じ、インターンシップがあるならそこから始めてみようと考えたんです。地元を盛り上げたいという想いもあったので、インターン先は『地方活性』というキーワードからピンと来た企業を選びました。社員と同じレベルで仕事をさせていただける環境だったので、会社とはどういうものなのかというところから始まり、コミュニケーションの取り方など幅広く教えていただきました」
岡村氏はインターンシップ以外にコーチングを活用していた時期もあると語り、自身がハードワークをしすぎて倒れてしまったという経験についてもお話しくださいました。
岡村氏
「何かに向かって前進し続けることももちろん大切ですが、今は時々自分を振り返って、内省する時間を持つことも大切だと感じています。行動を起こすことに意識が向きすぎると、行動自体が目的になってしまい、本来の目的を見失ってしまうことも。コーチングのように第三者からフィードバックをもらうことで自分の考えが咀嚼できることもあるので、外部のメンターをうまく活用しながら進めていくのがおすすめです」
一方の蓮見氏も、学生の頃から周囲の大人を積極的に頼っているそう。
蓮見氏
「社会経験のなさから鬱になったり、感情的になってしまったり、または自分の意見がすべて正しいと思い込んでしまったり、そういう頑固すぎて空回りしている“もったいない”学生起業家を自分の周りでたくさん見てきました。だからこそ自分は今でも、迷った時には周りを頼るようにしています」
インターンシップは現場での学びを得られるだけでなく、信頼関係を築くきっかけにもなり、そこから出資や案件の獲得といった次のステップにつながる可能性も秘めています。
2人の実体験から、学生起業だからこそインターンシップや外部のメンターをどう活かすのかが、重要なポイントであることが見えてきました。
『学生』という肩書との向き合い方
イベントの後半では、『学生』という立場や、その枠を超えて事業を継続・拡大していくためのマインドセットに話題が及びました。
岡村氏は「もともと学生という看板を大きく掲げていたわけではないので、『学生』という肩書がなくなって困ったことはない」と話します。
岡村氏
「ただ『学生時代から取り組んでいた』という話をすると、アクティブな人、実行力のある人という認識を持ってもらえるので、そのあたりは良いところだと思います。そこから信頼につながったり、新しいプロジェクトに巻き込んでもらえたりする機会が増えたとは感じていますね」
一方の蓮見氏は、岡村氏の考えには基本的に同意しつつ、「あまり学生であることを言わなくてもいいのでは」というスタンスを示します。
蓮見氏
「最初から学生と言ってしまうと、どうしてもなめられてしまう部分はありますよね。それよりも、素晴らしいプレゼンをした後など、周りから聞かれたときに初めて『実は学生なんですよね』といった方が、“ギャップ萌え”してもらえるんじゃないかなと思っています。また、自分から『学生』と言ってしまうと、どこかで保険をかけているなと感じるんです。『学生だから仕方がない』というマインドになってしまうので、あえて退路を断つという意味でも言わないようにしています」
『学生であること』は、使い方次第で強みにもなれば、足かせにもなり得ますが、2人に共通していたのは「立場に甘えず、自分自身で責任を引き受ける」という姿勢でした。その覚悟があったからこそ、学生という枠を超えた先でも事業を進め続けることができているのだと感じました。
事業を育て続けるために大切なこと
事業を立ち上げることと、それを継続し、育てていくことは、全く別のフェーズの挑戦です。学生起業というスタートラインを越えたその先で、2人はどのような視点を大切にしてきたのでしょうか。
蓮見氏
「創業時は実績も信頼もないので、エンジニアなどのチーム編成を進めるうえで、経験のある先輩方をいかに巻き込めるかが重要でした。人を集めるためには、とにかく旗を揚げ続けることが大切。人柄や誠実さももちろんみられる部分なので、若者だからこそ、経験値の高い方々にいかにかわいがってもらえるかという点も意識していますね」
岡村氏
「私も『宣言すること』はとても重要だと思います。起業すること自体が、自分が信じているものや大切にしたいものを『宣言すること』ですよね。私自身も『図書館を作りたい』という想いを持った時から数えると、これまで約200人に、自分の考えを伝え続けてきました。その中で想いに共感してくれる人と出会い、実際に図書館を運営している方や、本が好きな方を紹介してもらうことにもつながっています。現在も、そうしてつながった人たちと一緒にイベントを立ち上げており、地道ではありますが、「宣言する」「発信し続ける」「仲間を集める」という姿勢が、やはり大切なのではないかと感じています」
2人の言葉から浮かび上がってきたのは、特別なノウハウよりも、想いを言葉にし、人とつながり続ける姿勢の大切さでした。学生かどうかに関わらず、事業を育てていくうえで必要な本質が垣間見られるセッションとなりました。
さいごに
このほかにも、事業を進めるうえでの発信の工夫や参加するコミュニティの見極め方など、幅広いテーマについてお話しいただき、今回のイベントは幕を閉じました。
さいごに、これから起業を考えている学生に向けて、2人からメッセージをいただきました。
蓮見氏
「起業という選択肢は、個人的に一番自由な船出だと思っています。人生はとても短いので、人生をかけて、覚悟を持って、みなさんの思うビジョン、ミッションを叶えるために突き進んでいってください。楽しく、鬱病などにならないようにやっていただきたいので(笑)、痛い目を見ないためにもStartup Hub Tokyoをうまく活用することがおすすめです。私もがんばるので、一緒にがんばりましょう」
岡村氏
「蓮見さんからも覚悟のお話がありましたが、覚悟を持つのはとても難しいですよね。私が覚悟を決めるきっかけになったのは、ある言葉をいただいたこと。ひとつは『岡村さんは決めたら動けるんだから、あとは決めるだけだね』と言われたとき。過去の自分に対する信頼や自信にもつながって、勇気が出たことを覚えています。もうひとつは『君がわがままに生きなかったら、誰がわがままに生きるんだ』という話をされたこと。自分の人生を、自分のあるがままに生きられるのは自分だけなんだと改めて感じ、勇気を出すきっかけになったので、私たちの話から何かしらのエッセンスを持ち帰ってもらえたら嬉しいです」
学生だからといって、「知識がないから」「経験がないから」と起業を諦める必要はありません。その「ない」状態こそが、周りから多くのことを学び、吸収し、応援されるためのきっかけになるかもしれないのです。
Startup Hub Tokyoでは、岡村氏が起業前に活用していた専門家による創業相談をはじめ、起業に向けたさまざまな相談やイベントを随時開催しています。
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構成・文/やまぐちきよみ
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