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「私らしい起業」とは何か ~女性起業家支援の現場から見た成功のヒント~

近年、自分のペースや価値観、理想とする生き方を大切にしながら働くことを目指す女性起業家が増え、起業のかたちはますます多様化しています。SNSなどを通じて女性起業家の活躍を身近に感じられるようになった一方、起業支援の現場では「自分に合った起業を実現したいと思っても、何から始めればいいのか分からない」という声も多く聞かれます。

今回のイベントは、起業・経営支援の現場に携わってきた小沼梨沙氏と、数多くの起業家を取材してきた磯貝美紀氏をゲストに迎え、「私らしく起業する~女性起業家支援の現場から学ぶヒント~」をテーマに開催。女性起業家支援の現場だからこそ見えてきた自分らしい起業スタイルの見つけ方や、理想をかたちにしていくためのヒントについてお話しいただきました。

実際に活躍されているロールモデルの事例や起業支援の現場視点を交えながら、「私らしい起業」への一歩を踏み出す考え方についてレポートします。

登壇者紹介

小沼 梨沙氏
(合同会社ロータステーブル 代表社員)
医療系ベンチャー企業勤務等を経て2012年独立。合同会社ロータステーブル代表社員。業種・地域を問わず経営コンサルティングや人材育成を行っている。小売店、飲食店における店舗マネジメント支援、創業支援など、首都圏を中心に経営相談は年間約200件。セミナー・研修での登壇は年間50~60件。公的機関にて、経営アドバイザー業務、専門職大学院で客員教授を務める。中小企業診断士、MBA、管理栄養士。

磯貝 美紀氏
(フリー株式会社 『起業時代』 統括編集長)

NTT東日本、ベネッセコーポレーションにて、マーケティングや商品開発に従事。2022年よりフリー株式会社にて、起業応援メディア『起業時代』のブランド立ち上げを担当。編集長として100名超のスモールビジネス起業家に取材した知見を生かし、セミナーにも数多く登壇。高校・短大での起業プログラムの設計・授業実施や、大学のアントレプレナーシップ講座での登壇も。国家資格キャリアコンサルタント。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所研究員。

平井 朝子氏
(平井朝子事務所 代表)

不動産ディベロッパーおよび金融機関勤務を経て、不動産・教育分野のベンチャー設立に複数回参画。2019年より㈱ツクリエに入社し、東京都Startup Hub Tokyo 丸の内のコミュニティマネージャを皮切りに、岡山市・南相馬市など各地で起業家支援や中小企業支援、また中南米・アフリカ地域の海外スタートアップの日本参入支援に携わる。2024年より独立し、現在は起業・創業支援および起業家教育コーディネーターとして活動。イベントファシリテーター登壇多数。東京大学大学院修了(工学修士)。

「私らしい起業」とは何か

今回のトークセッションは、メインテーマである「私らしい起業」という言葉の定義からスタートしました。

年間200件以上の経営相談を受ける小沼氏は、創業相談に訪れる方の中には、「『私らしさ』とは何か」ということ自体に悩んでいる方も少なくないといいます。特に女性にその傾向が強い背景について、資料を交えながら次のように説明しました。

小沼氏
「女性のライフイベントの特徴として、20代までは学生から就職へと、比較的似たようなライフコースをたどる一方で、30~50代にかけては、結婚や出産、子育て、仕事など、非常に多様な選択肢が存在します。女性は妻や母といったさまざまな役割を担っているからこそ、自分自身を見失いがちになり、モヤモヤを抱えてしまうのです」

さらに小沼氏は、女性はホルモンバランスの変化や健康面の揺らぎ、仕事上の責任の増加といったタイミングが重なりやすい点にも触れ、迷いや不安を感じやすいのは決して特別なことではないと指摘します。国の男女共同参画白書*1も例に挙げながら、女性を取り巻く環境について、「選択肢が多いこと自体は、前向きに捉えてほしい」と語りました。

小沼氏
「今の時代は、自分の人生やアイデンティティを確立し、男女関係なく『納得して生きる』ことを国を挙げて後押ししています。女性も、これまでの生き方や働き方にとらわれず、『私らしさ』を追求するチャンスが整ってきているのです。私自身も、普段の相談の中で『やりたいことをどんどんやっていけばいい』とお伝えしています」

一方、これまで100名以上のスモールビジネス起業家を取材してきた磯貝氏は、起業家たちのリアルな姿を見てきた立場から、「私らしい起業」は最初から完成形があるものではないと語ります。

磯貝氏
「人生が切り替わるタイミングで悩みながらも、自分の中で優先順位を決め、小さく一歩を踏み出した人ほど、その後の道を自分なりに切り拓いている人が多いと感じます。例えば同じ業種でも、扱う商品やサービス、売り方や顧客の広げ方は人によって違います。事業がうまくいっている起業家ほど、少しずつ試行錯誤を重ねながらどんどん『自分なりの成功パターン』を作っている印象ですね」

こうした話から、「私らしい起業」とは、最初から明確な答えを決めることではなく、迷いを抱えながらも行動を重ね、自分に合った形を見つけていくプロセスそのものだということが見えてきました。

他にも磯貝氏は、行動し続けられる起業家の共通点として、「やらなければならないから」ではなく、「動かずにはいられない」ほどの強い想いがあることを挙げています。起業初期に「自分が本当にやりたいこと」を丁寧に掘り下げている人ほど行動量が多い傾向にあるとも話し、動き出す前に自分の想いや次のステップを具体化しておくことの重要性についても語ってくださいました。

当日は、「想いをどう掘り下げていくのか」という点についても具体的な話題が展開されました。

小沼氏からは、「ふんわりしたままでいいから誰かに話してみること」「イメージに近い写真を撮ってみること」といった、日常の中ですぐに取り組める方法が紹介され、参加者にとっても実践のイメージがしやすいアドバイスが示されました。

また磯貝氏からは、知識や経験といった〈コト資源〉、身の回りにある〈モノ資源〉、そして人とのつながりを表す〈ヒト資源〉という3つの起業資源を洗い出し、それらを掛け合わせて考えるという整理の視点が共有されました。

「私らしい起業」は、特別な才能や明確な答えがあって始めるものではなく、想いを言葉にし、手の届くところから少しずつ形にしていくプロセスの中で見えてくるもの──。2人の話からは、そんなメッセージが自然と伝わってくる時間となりました。

ロールモデルから学ぶ「私らしい起業」のかたち

「私らしい起業」のイメージが少しずつ見えてきたところで、ここからは実際に起業した先輩たちの事例をもとに、世代ごとに異なる起業のきっかけや背景、そしてロールモデルたちに共通する考え方について、話題が展開していきます。

これまでに様々な世代の女性の起業を取材してきた磯貝氏は、各世代の起業の傾向には、以下のような特徴がある、と語ります。

◆20〜30代:パッション起業
・もともとのキャリアから全く違う業種へジャンプして起業するケースが多い
・キャビンアテンダントからサウナカー事業を始めた事例など、パッションを原動力に新しい分野に挑戦していく起業が目立つ

◆30〜40代:ママライフ起業
・子育てや生活の変化をきっかけに起業するケース
・「子どもとの時間を大切にしたい」「子どものアレルギーや障害などで悩む方の課題を解決したい」といった想いが事業につながっている

◆40〜50代以上:卒ママ準備起業・セカンドキャリア起業
・子育てが落ち着いたタイミングで、自分のキャリアを見つめ直すケース
・介護など家族との関わりから、新たなサービスを生み出すケースも見られる

こうした事例からも、女性の起業は年齢そのものよりも、人生の分岐点や役割の変化と深く結びついていることが伺えます。

この解説を踏まえて、小沼氏は起業家に共通するマインドについて、次のように語ります。

小沼氏
「人生の中で『こんなはずじゃなかった』という行き止まりに直面したとき、それをマイナスに捉えるのではなく、『それならこっちに行ってみようかな』とマインドをチェンジできる人の方が起業に向いていると思います。私が支援した方も顧客開拓の壁に直面し悩んでいたのですが、ひとしきり落ち込んだ後は『でも悔しい。どうしても自分の想いを伝えたい。わかってくれる人は絶対にいる』というマインドに立ち戻って再び動き出しました。その方は結果としてお客様をつかむことに成功していたので、この点もうまくいく人の共通点と言えるのではないでしょうか」

このように、事業が続く起業家の背景には、華やかな経歴や特別な才能があることよりも、想いの強さや壁に直面した時の考え方に共通点があることが見えてきました。こうした女性起業家たちと数多く関わってきた磯貝氏は、「彼女たちは確かにキラキラして見えるけれど、いわゆる“キラキラ起業”とは少し違う」と表現します。

磯貝氏
「ご紹介した起業家の皆さんの経歴は、『有名企業に勤めていた』といったいわゆる世間一般的に言われるような、外見的に華やかなものばかりではなく、本当に人それぞれです。いろいろな経験を重ねながら、今にたどり着いている方ばかり。彼女たちがキラキラして見えるのは、自分の想いを原動力に、実際に行動し続けているからこそだと思っています。私たちは、そんなキラキラした笑顔を、勝手に『チャレンジャーズスマイル』と呼んでいます」

ロールモデルたちの多様な事例が紹介される一方、セッションの中では「『私らしい起業』に必要以上に縛られないことの大切さ」についても触れられました。

小沼氏は過去の経験から、たとえ自分が最初に思い描いたイメージ通りに進まなくても、求められることや目の前の機会に向き合ってみることで、結果的に自分らしい形へとつながっていくケースも少なくないといいます。

小沼氏
「相手から求められるということは、『必要とされている』ということですよね。事業を展開する場合、相手から必要とされることがお金になります。もしかすると、求めてくれる人は自分では気づいていない潜在的な能力を見つけてくれているのかもしれません。自分が思っている『私らしさ』だけが、起業の種ではありません。周りに求められることが『私らしさ』と少し違うと感じたとしても、一度はやってみるといいと思います」

磯貝氏も小沼氏の提案には賛同しており、教育者向けのECサイト運営から起業をスタートした方の例を挙げながら、「最初はECのみで起業した彼女も、今では書籍を出したり、講演会を開いたりという展開につながっている。根っこにある想いだけしっかりと決めておいて、そこから先、実際に挑戦することに関しては絞りすぎる必要はないのでは」と語ってくれました。

「私らしい起業」を叶えるためにやっておきたいこと

最後のセクションでは、「私らしい起業」を叶えるために必要な、より具体的なアクションを2人にお聞きしました。

小沼氏は、起業に欠かせないお金の話題を絡めつつ、最初の一歩におすすめのアクションとして「自分の商品やサービスをテストしてみること」を挙げました。

小沼氏
「女性の中には、『自分の商品やサービスに値段をつけるのが苦手』という方が多くいらっしゃいます。値段をつけるのが難しければ、ボランティアでもいいので、一度お客様向けにテストをしてみるのがおすすめです。相手の反応や意見を実際に受け取るだけでも、その先の発展に大きく影響します。試供品のようなイメージで、自分の商品やサービスをひとまず世の中に出してみることが大切だと思います」

他にも、起業を進めるにはさまざまな場面で「勇気」が必要になると小沼氏は語り、自身が起業を決意した時の経験にも触れながら、「えいや!」と一歩を踏み出すことの大切さについても語ってくださいました。

一方の磯貝氏は、先に話題に上がった「『私らしい起業』に縛られすぎないこと」について改めて言及し、「『私らしい』という枠」の危うさについてこう語ります。

磯貝氏
「最初にお話した起業資源にも関係しますが、自分の持っているものを掛け合わせた先で、思ってもいなかった起業アイデアにたどり着くことはよくあることです。起業を通して生まれる『私らしさ』は、自分の内側から湧き出るもので作っていけばいいものであって、今の自分に枠を作るものではないと思っています。『私らしさはこれだ!』と決めるところからスタートするのではなく、今持っているものを整理して、それを土台に『これから作る私らしさ』について考えていくといいのではないでしょうか」

小沼氏は他にも、自身が参加した創業セミナーで「起業するなら生活費を1年半分くらいは貯めておいてください」と言われた経験を共有し、起業を進めるうえで欠かせない「現実的な備え」についても触れました。事業計画書についても「最初から一人で完璧に書こうとすると、ハードルが高くなってしまう」とし、「書きやすいところから少しずつ形にし、専門家に相談しながら整えていく方が続けやすい」と実践的なアドバイスをくださいました。

磯貝氏もこれに賛同し、事業計画書を役所への単なる提出書類ではなく、「自分の思いや考えを整理し、詰め込む場所として向き合うと楽しめる」と語っており、苦手な分野を乗り越える考え方のコツを伝授してくださいました。

今回のイベントはこれから起業する女性に向けた内容でしたが、実際に事業がうまくいった後についても話題は広がり、「成功している起業家たちはどんな世界で生きているのか」という問いも投げかけられました。

小沼氏は、「事業が広がるにつれて、人との関係性が大きく変わっていく」と語ります。

小沼氏
「起業した方は、人との出会いが大きく変わったとおっしゃる方が多いです。創業時の人脈とは異なる分野の方々と出会う機会が増えることで、自身の人間的な成長も実感しているという声をよくお聞きします。事業自体の厚みが増すことで信頼も大きくなり、さまざまな方から声をかけてもらう経験を重ねる過程で、『自分とは何か』という根幹がより明確になったという方もいらっしゃいました」

この話を受けて磯貝氏は、特に女性起業家が陥りやすい思考についても言及しました。

磯貝氏
「女性は、家庭でも仕事でも『私が頑張らなきゃ』と考え、自分の役割すべてを1人で抱え込んでしまう方が多いように思います。でも実際のところ、すべてを1人でやる必要はありません。周りを上手に頼り、仲間を増やしていく意識を持った方が、結果的に長く事業が続いていくと感じています」

「私らしい起業」とは、自分1人で完璧にやり切ることではなく、人とつながりながら、その時々で役割や関わり方を変えていくこと。2人の言葉からは、そんなしなやかな起業のかたちが浮かび上がってきました。

小さな経験を重ねながら、次の一歩へ

イベントの終盤には、参加者から寄せられた質問に、2人が直接回答する時間が設けられました。特に多くの人が抱える「時間のやりくり」に関する質問には小沼氏が回答しており、「まずは自分の可処分時間を明確にし、完璧を目指さず、小さくてもいいからできることから始めていけばいい」という、さまざまな役割を背負っている女性に寄り添った目線でアドバイスされているのが印象的でした。

小沼氏
「『私らしい起業』を叶えるためには、小さい失敗を早めに経験した方がいいと思っています。『実践したらどうなるか』という不安は当然あると思いますが、やってみないとわからないことも多い。経験を重ねることで、『これは嫌だな』『これは合っているな』という発見にもつながっていくので、動きながら『私らしさ』の型を見つけていただきたいです」

磯貝氏
「私たちはどうしても過去の経験から、『自分はこんな感じだろう』という枠を勝手に作ってしまい、本来の可能性を自分から閉ざしている部分があります。今までの経験は枠ではなく、これから先に進んでいくためのステップであると考えていただければ、想像しているよりももっと遠く、高く進んでいけると思っています。行きたい先を思い描きながら、そこまで行くために今の自分ができることを考える。それを繰り返し続けていけば、きっと新しいところにたどり着けると思います」

これから「私らしい起業」の道を歩もうとする参加者へ向けて、2人からのエールが送られ本イベントは終了となりました。

今回のイベントで印象的だったのは、「私らしさ」は最初から完成しているのではなく、実際に行動し、選択を繰り返していくプロセスの中で磨かれていくものだというお話です。

「私にできるのか」「この道で正解なのか」と悩むのは、一歩を踏み出したからこそ生まれるポジティブな感覚です。さまざまな役割を背負っている女性だからこそ、自分1人で完璧を目指すのではなく、周囲をうまく頼りながら、『私らしい起業』を叶えていくことが大切なのです。

Startup Hub Tokyoでは、事業計画書の作成といった専門的な支援にとどまらず、まだ明確なアイデアがなくても、日常の中にある小さな「起業の種」を見つけ、育てていく場として活用いただけます。今回の記事を通して、「私にもできるかもしれない」と少しでも感じていただけたなら、ぜひその気持ちを大切に、最初の一歩を踏み出してみてください。

 

構成・文/やまぐちきよみ

 

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