スタートアップ界隈の最新技術、動向などをテーマに、毎回違った視点で開催する「Startup Next」シリーズ。今回のイベントレポートでは、12/7に開催したシリーズ第3弾目の「VRの最新技術と将来性からビジネスチャンスを探る」をお届けします。
コロナ禍の影響を受け、ニーズがグッと高まるVR業界。この伸びしろの大きい業界を覗いてみましょう!
大森 貴之氏 (RouteX Inc. CEO / Startup Hub Tokyo 丸の内 起業コンシェルジュ)
海外渡航歴60カ国、学生時代にシリコンバレー、イスラエル、ロシア等でのインターンや調査を経験し、世界の「情報の非対称性」を無くすためRouteX Inc.を創業。海外のスタートアップ・エコシステムのリサーチを専門とし、世界中のスタートアップのビジネスモデルやテクノロジーの分析を行なっている。ロシアや旧ソ連地域が得意。シリコンバレーで毎年開催されるFacebookの最も重要なカンファレンス「F8」にて2019年度は日本人で唯一「F8 Hackathon」に参加。シリコンバレー発の世界最大のエンジニアとスタートアップのコミュニティFacebook Developer CirclesとAngelHackの日本側の運営代表を務めている。
<所属団体・資格等>
Facebook Developer Circles・AngelHack
そもそもVRとは?
VRという言葉はたびたび耳にするけれど、実際はどんなものだっけ?という方も多いはず。「AR」という技術もあるため、混同しないよう、まずは「VRとは何か?」をしっかりおさえましょう!
【VR】
デジタル情報で構成された空間に、自らが入る技術。
【AR】
現実空間に、デジタル情報を重ね合わせる技術。
History of VR
大森氏「VRのトレンドにはいくつか転換点があります。そのなかでも、いま現在でも影響を及ぼしているのが、2012年にPalmer Luckey氏がガレージでつくっていたVRデバイス〝Oculus Rift″をKickstarterにリリースしたことです。そこで240万ドルを集め、開発を進めていった経緯があります。そしてこの2年後、2014年にFacebookが20億ドルでOculusを買収。Palmer氏はたった2年で億万長者になり、VR業界も一気に伸びてきた歴史的経緯があります。またFacebookがOculusを買収した際、Mark Zuckerberg氏が『(VRは)次のインターネット上のプラットフォームになりうる』と発言。FacebookとしてはVRに注力し、VR業界を伸ばしていこうという戦略がありました。」
次のお話は、下記資料を参照するとイメージが湧きやすいです。
大森氏「たった2年でこれだけ大きく動いたVR業界ですが、〝スタートアップ″という切り口で見ていくと、Appleが創業したのは44年前ですし、AirbnbやUberの創業は、実は10年以上前。どれだけ急成長したスタートアップでも、グローバルに広がっていくのはだいたい10年くらいかかるといわれています。そう考えると、2012年に創業したOculusはまだ10年経っていないというのが現状です。」
ドラマSilicon Valleyでも皮肉られたVRのガッガリ感
みなさん、海外ドラマ「Silicon Valley*1」はご存知でしょうか?
このドラマでは、実際にシリコンバレーやスタートアップの業界で起こった有名な事件・ビジネスをパロディ化しています。
大森氏「Silicon Valleyは、スタートアップの歴史を知っていると『これはあのときのあれか!』と分かるので面白い。そんなSilicon Valleyで、VRがパロディ化されました。VR発表会シーンで、オーディエンスがVRを装着したところ、VRがバチバチと火花を散らし、トラブルになっている。これは、期待に反してVRは上手くいかなかったと皮肉られています。」
それでは、VRがリリースされた当初は、どのような課題があったのか?下記資料を参照してください。
VRが普及しなかった当時の製品とは?
【Phone-based VR】
・スマホを差し込んで利用する
・VRとしての体験は最低限
・1万円以下の低価格
【Tethered VR】
・PCとケーブルで接続して利用
・VRとしての体験は最高品質
・5万円以上の高価格
大森氏「Phone-based VRは、なんちゃってVRといったところでしょうか。みなさん『VRってこんなものか』とガッカリして離れていきました。一方Tethered VRは、これにプラスして高性能のゲーミングPCが必要になり、さらにそれをどうするかという専門知識がないと使えません。この時点で、一般人からするとかなり難しい。何十万もかけて用意したものの、コンテンツは不足していて、VR体験も微妙となると、もう誰も使わないと思います。前者は劣化版でVRと呼べないもの、後者は高価格かつ専門知識が必要なもの。基本的にはこの二択しかないというのが、VR業界の大きな課題でした。」
なぜいまVRなのか?
大森氏「2019年にOculus Questがリリースされ、VRが一気に普及するのではないかといわれています。Oculus Questの何がすごいかというと、技術革新としてStandalone VRが挙げられます。」
【Standalone VR】
・VRデバイス単体で利用可能
・VRとしての体験は必要十分
・5万円前後の中価格
大森氏「このStandalone VRには、新しく〝6DOF″というものが導入されています。〝DOF″とは、いわゆるVRでの可動範囲のこと。例えば3DOFの場合、ヘッドセットをつけて右を向くと、右が見られます。しかしその場で歩いたとしてもVR空間には反映されない。あくまで首の移動範囲だけがVR空間に認知されるというものでした。」(下記資料を参照)
大森氏「さて、6DOFを導入したOculus QuestのStandalone VRですが、前面にはカメラがついています。そのカメラが現実空間のデータを読み取り、『いまこの人はここにいるな。じゃあ、これくらいの距離を移動するとVR空間でこれくらい移動するだろう』と計算します。それがリアルタイムで反映するので、自分が広い部屋を移動するとVR空間も同じように移動できるというもの。この他にも、いままで出来なかった体の動き・手の動きがそのままVR空間に反映されるという技術革新も起こりました。」
VRには、どんなビジネスモデルがある?
それでは実際にどんなビジネスモデルがあるのか?イベント当日に観たプロモーション動画のリンクを添えてご紹介していきます。
(社名をクリックするとイベント時に観たプロモーション動画に飛びます)
NextVR
→イベント体感系
大森氏「スポーツ観戦やライブ映像、また海中のダイビングの様子などを特殊カメラで撮影し、あたかもその場にいるような臨場感で色々なイベントが体験できます。NextVRは2009年に創業し、2020年の4月にAppleが買収。ここから何が読み取れるかというと、AppleがVR業界に入ってくるんじゃないかということ。」
FundamentalVR
→外科手術シミュレーション
大森氏「外科手術をVR上でシミュレーションできる教育ソフト。専門的領域のシミュレーションに活用できるのが特徴です。2012年に創業したイギリスのスタートアップです。」
IRISVR
→建築デザイン向けVR
大森氏「建築設計図をVR化して表示します。例えば、ビルが完成した際の陽の当たり方を日照時間毎に見られたり、完成予想図の素材を変更して見られたりできます。また、『ここの修正を加えておいてください』といった指示書をつけて他のスタッフに引き継ぐこともでき、これまで以上に完成前の完成度を高めることができます。ここは2014年に創業し、かなり昔からやっているスタートアップです。」
大森氏「ご紹介したスタートアップ3社の創業は2009、2012、2014年。かなり昔から取り組んでいる分野ですが、それでも普及にはまだまだ遠い。一般向けよりも専門領域に対して伸びてきているというのが、VR業界の現状になります。」
VRカンファレンス2020から最新トレンドを紹介!
Facebookがシリコンバレーで毎年開催している世界最大級のVRカンファレンス。ここに参加されている大森氏が、2020年度の様子をリポートしてくださいました。2019からのアップデート、最新のトレンド情報など、必見です!
大森氏「毎年開催されているカンファレンスですが、2020年度には2つの大きな変化がありました。1つめは、コロナの影響もありオンライン開催に。2つめは、〝Oculus Connect″というカンファレンス名称が〝Facebook Connect″に改称。なぜ改称されたかというと、Facebook社内にあるFacebook Reality Labsと合流したからです。今後VRだけでなくAR領域にも注力していくということで、カンファレンス名が〝Facebook Connect″にリブランドされました。
それでは、Facebook Reality Labsは、実際にどのような活動をしているのか?活動紹介の動画もあるのでコチラをご覧ください。
大森氏「要約すると、これまでVRに注力していたFacebookが、XR*2を次のプラットフォームにするべく開発チームをリブランドしたということです。」
さらに今年のFacebook Connectでは、Oculus Quest2の発表がありました。そのプロモーション動画はコチラをご覧ください。
大森氏「去年の2019年に発表されたOculus Questのバージョンアップ版が、今年のFacebook Connectで発表されました。どのようにバージョンアップされたかというと、主に下記4点です。」
1. 小型化(ストラップが改良)
2. 低価格化 64GB 49,800円→37,180円
3. 高解像度化(1,600×1,440→1,832×1,920)
4. 販売経路拡大(量販店で購入可能)
大森氏「安くて性能が良く、さらに販路拡大で一般の量販店でも購入可能に。この1~2年でVRの性能が上がり、値段も手頃かつ、身近で買いやすくなりました。これらのことから、VRが一気に普及していく目途が出来たのではないかと思います。」
また、今年のFacebook Connectでは、いくつかのゲームタイトルが発表されたそうです。
大森氏「VR向けのゲームは、いままでにも色々ありましたが、正直ミニゲーム的なものが多かったです。例えば、リズムに合わせて動いてみましょうとか、簡単なシューティングとか。今年の動きとしては、スターウォーズやウォーキング・デッドなど、いわゆるビックタイトルといわれるような有名スタジオがしっかりコミットし、入ってきたのがポイントです。」
さらに今年は、コロナの影響を意識し、急いで作ったのではないかというものも出てきたそうです。
(タイトルをクリックするとプロモーション動画に飛びます)
horizon
SNSとしてのFacebookの強みを最も活かせる分野でもある。2019年に発表され、今年からベータ版の提供がスタートしていた。
Venues
VR上でオンラインイベントに参加するためのサービス。ベータ版の提供をスタート。オンラインイベントの新しい形に。
では、toB向けのビジネスにはどういった活用をされているか?まずは下記プロモーション動画をご参照ください。
Oculus for Business
コチラ
これまで工場や人材研修等での活用方法が紹介されていたOculusのtoB向けプロジェクトが、オフィス内での活用方法によりフォーカスされる。
コチラ
リモートワークでの活用についてさらに強調される。コロナ禍で急速に普及するポテンシャルへ。
AR Glasses
2019年に開発中と発表されたAR Glassesが具体的なスペックまで公開される。2021年ローンチ予定と発表。
大森氏「ここまでが、Facebook Connect のアップデートの特徴でした。新しいUI/UXによりVRだけでなくXRという次の領域に進んできているのが、注目のポイントです。」
それでは「Startup Next #03」のイベントレポート締めくくりとして、最後に大森氏からの応援メッセージをお伝えします。
大森氏「グローバルのトレンドというのは、日本に入ってくるまでにはどうしても時間差があります。しかし情報をキャッチアップするのは、実はそんなに難しくありません。Google翻訳を使いながら英語で検索していただくと、今回のお話しのさらに先というのがご自身でも見えてくるのではないでしょうか。ぜひ引き続きVR業界のキャッチアップを続けていただけたらと思います。」
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