実際にTOKYO創業ステーションを活用して起業した「先輩起業家」をお招きし、起業までのリアルな活用方法やその想いを伺っている「先輩起業家の舞台裏」。
今回の「先輩起業家」には、ダンスや音楽などのエンタメを通じて社会課題の解決を目指している一般社団法人フェアリーエンターテイメント代表理事の吉川莉奈氏をお迎えしました。
福祉×エンタメという異業種の掛け合わせで起業した背景やTOKYO創業ステーションの具体的な活用方法など、吉川氏の情熱がたくさん詰まったイベントの様子をレポートします!
登壇者紹介
(一般社団法人フェアリーエンターテイメント 代表理事)
社会起業家兼エンターテイナー。元テーマパークダンサーの経験を活かし、ダンス企画・振付・MCを得意とする。一般社団法人フェアリーエンターテイメントを立ち上げ、障がいの有無に関わらず、ダンスや音楽を通じて多様性の推進や次世代の夢を応援。東京2020パラリンピック閉会式など国際イベントにも多数出演。自らも障がいのある2人の妹の「きょうだい児」としてYahoo!ニュースでも話題となる。地上波テレビ出演や企業との共創にも取り組む。
「福祉×エンタメ」で起業を目指したきっかけ
今回のイベントは、コミュニティマネージャーが吉川氏にインタビューする形式で進められました。まずは吉川氏が起業を志したきっかけから伺っていきます。
病気や障がいを持つ妹さんが2人いらっしゃる吉川氏は、「きょうだい児」として成長する中でさまざまな葛藤があったといいます。その中で吉川氏を救ってくれたのが、エンターテイメントの世界でした。吉川氏は多様な人々が分け隔てなく個性を活かして楽しめるエンターテイメントの世界に魅了され、テーマパークダンサーとしてキャリアをスタートします。
吉川氏「起業を志したきっかけには、主に母親が関係しています。妹に障がいがあるという家庭環境もあり、『障がいの有無に関わらず、共に楽しめる場所を作ってほしい。特にダンスや音楽を楽しめるところは限られているので、みんなが笑顔になれる場所を作ってほしい』と母に言われたことが、起業に向けて動き出すきっかけになりました」
起業を意識するようになった吉川氏は、「周囲の人に話を聞くこと」から動き始めます。
吉川氏「まずは妹や知り合いの障がいのある方、そのご家族にもお話を聞いてみたところ、『楽しめる場所がない』『夢を追いたいけど機会や環境がない』という意見が多く出てきました。話を聞く中で『エンターテイメントというツールと私の家庭環境を融合させていくのは、人生の使命だな』とふと感じることがあり、まずは個人事業主からこの活動をスタートしたのです」
起業を意識してすぐにニーズのヒアリングを始め、軸がある程度見えたら個人事業主として動き出すなど、起業に至るまでのエピソードは吉川氏の行動力の高さや熱い想いが強く伝わってくる内容でした。
TOKYO創業ステーションとの出会い・起業準備
吉川氏がTOKYO創業ステーションを利用し始めたきっかけは、Startup Hub Tokyo 丸の内の連続プログラム「THE FIRST PITCH」とのこと。
吉川氏「個人事業主として動き出した当初は、起業の『き』の字も知らない状態。そこで起業に対する知識を基本から学べる場所を検索してたどり着いたのが、『THE FIRST PITCH』だったんです」
「THE FIRST PITCH」は、起業のアイデアや種は持っているけれど、それを実際どのように事業化していけばいいのか迷っている方を対象とした起業家育成プログラムです。全6回の講座を通してビジネスを作り込み、最後に全員の前で発表するという内容になっています。その第一期生として受講した吉川氏は、ビジネスプランの作り方から金銭面まで、たくさんの講座を通して講師陣から丁寧に指導してもらったそうです。
全プログラムが終了してからはより通いやすいTOKYO創業ステーションTAMAの利用をメインとし、プランコンサルティングや専門相談、コンシェルジュ起業相談などのサービスを積極的に利用したといいます。
吉川氏「TOKYO創業ステーションTAMAでは、商業施設内のスペースを利用してテストマーケティングもやらせていただきました。自分の事業アイデアについて通りがかった一般の方にアンケートを依頼することができ、実際の『生の意見』を聞ける貴重な経験になりました」
吉川氏いわく、コンシェルジュ起業相談や専門相談を使うタイミングは「『やりたいな』というアイデアが一つでも浮かんだらとにかく積極的に利用してほしい」とのこと。約1年にわたる自身の起業準備の中でも、書類の書き方から提出方法、提出先に至るまで、わからないことがあればスポットで相談するようにしていたといいます。
吉川氏「税理士さんや社労士さんなど、たくさんの方に相談できる機会があるので、少しでも疑問が生まれたら予約して、相談するようにしていました。特に印象に残っているのは、プランコンサルティングの先生です。福祉に特化している方なのですが、自分が起業しているかのように熱心にアイデアをくださったり、さまざまなお話をしてくださったり、とても勉強になりました。講師の方の業種も幅広いので、自分のやりたいことに近いことをしている方に相談してみるのがおすすめです」
今でもコンシェルジュ起業相談を引き続き利用しているそうで、このイベントの後にも予約をしているお話もあり、起業された後も積極的に活用されているのが印象的でした。
起業前の自分に伝えたいこと
続いて「起業前の自分やこれから起業する方に伝えたいこと」について伺うと、吉川氏からは「ただ1つ、とにかく動くのみ!」という力強いお言葉が返ってきました。
吉川氏「頭の中で思っていることを公言したり、役所まで資料をもって足を運んだり。実際にアクションを起こしていかないと、アイデアを頭の中にだけ置いておくのはもったいない。1分1秒を無駄にしないで、今すぐ動くことが第一かなと思います。色々な方の意見やアイデアをもらって勉強になることもあるし、たとえ門前払いされたとしても相手に覚えてもらうだけで大きな一歩につながっているんです」
行動プランが複数ある場合は「すぐできること、今の自分で最小限の資金や労力でできることからとにかく始める」という吉川氏。そのスピード感を重視した行動力は、行政や民間企業との共創パートナー提携にもつながっています。
吉川氏「行政の場合は、自治体の公募型事業を調べて応募するところから始め、そこから職員の方とつながっていきました。ビジネスは人と人とのつながりが特に大切。紹介で輪が広がっていくことも多いので、自分がやりたいことについて簡潔に熱量をもって伝えられる言葉を事前に考えておくと良いと思います。民間企業の共創パートナーも、発信を重ねていく中でご紹介いただきました」
法人化してからは特に人脈作りに力を入れるようになり、知り合いからの紹介を受けたり、積極的に足を運んだりしながら、ネットワークづくりを進めているといいます。電子書籍の出版も控えているそうで、直接の紹介だけでなく、まだつながりがない方にも事業を知ってもらおうという熱量が感じられました。
起業して苦労したこと・マネタイズに対する考え
次に起業して苦労したことについて伺うと、「書類関係」を挙げられた吉川氏。設立時よりも社会保険などの労務関係書類が大変とのことで、今は勉強しながら自分で作成しているといいます。
吉川氏「自分が代表であるからこそ、ある程度は知っておく必要があると思っています。学びの時間を自分のコンテンツ作りに充てたいという想いもあるので、少し時間がたってからはプロに任せる道も考えています」
書類以外の苦労した面として、ボランティアの概念が強い福祉事業のマネタイズについて尋ねると、吉川氏からは「しっかり自分のサービスに自信をもってマネタイズするようにしている」との回答が。
吉川氏「ボランティアだと、だいたい数か月しか持続しないと言われています。事業が持続しないと社会問題の解決にならない。それでは意味がないと思っているので、自分たちのサービスの付加価値を相手にきちんと伝えることで、しっかりマネタイズできるように意識しています」
福祉施設など「利用したいけど予算がない」というお客さまの場合には、自治体と連携したり、共創パートナーの企業にサポートをいただきながら対応しているという吉川氏。
吉川氏「最近『稼ぐことによって、自分の先にいる障がいを持ったアーティストやその親、きょうだい児たちが笑顔になっているんだから、たとえ自分がたくさんお金が欲しいわけじゃなくても、稼ぎたいわけじゃない、と言わない方が良いよ』という話をしていただく機会があり、印象に残っています。経済を回すことによって継続して社会課題が解決できることをしっかり伝えられるようにしよう、と考えるきっかけになりました」
吉川氏いわく、「継続して事業をしていくためには、自分がやりたいこと、ワクワクできることを選ぶことが大切」とのこと。起業するうえで代表者である自分自身が事業を嫌になってしまったら、関わっている周りの人も困ってしまいます。何かを組み合わせるなら「自分が一番楽しめて持続できるもの」を選ぶ。その意識こそが、自分もスタッフもお客さまも大切にできる経営につながっていくのだとお話しされていました。
起業するために必要なこと
吉川氏には最後に、「起業するために必要なこと」をお聞きしました。
吉川氏「パッション、情熱じゃないですかね。いろんな人から意見を聞いても自分の軸をブラさず、自信をもって行動していくことが必要なんじゃないかなと。一線で活躍されている社長さんも熱い方が多いですよね。一緒に仕事をしたくなるような自分、応援したくなるような自分になることが大切かなと思います」
「パッションを持てるものを見つけるには、まずは好きなことをビジネスにしてみること」という吉川氏。「動きながら学びながら試行錯誤していく中で、いつか腑に落ちる瞬間が来るはず」と自身の体験も踏まえて語ってくださいました。
吉川氏からは、「アイデアを無駄にしないように、ぜひ一歩を踏み出してほしい。一緒に活動できることを楽しみにしています!」との熱いメッセージを最後にいただき、今回のイベントは終了となりました。
構成・文/やまぐちきよみ
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