「良いモノを作れば売れる時代は終わった」と言われています。
人々の価値観は、モノを所有することから、必要な時に必要な分だけ消費するという考えに変化しつつあります。
そんな中、せっかく起業して商品を作ったけれど売れない、と落ち込む起業家の方もいるのではないでしょうか。
モノを売るための営業に悩む方のため、一般社団法人未来起業家交流会理事の茂木優弥氏が「200社回って契約ゼロだった」というGrande Cielo代表の森大空氏をゲストに迎え、経験談を話していただきました。
“明日の営業にワクワクする”ためのトークセミナーの様子をレポートします。
登壇者
茂木 優弥⽒(一般社団法人 未来起業家交流会 理事/アイセールス株式会社 マーケティング責任者)
2018年8月、47都道府県、全国同時開催の「未来起業家交流会」にて東北マネージャーを勤め、翌年に同社を登記。理事に就任。また、MA(マーケティング・オートメーション)「i:Sales」の開発/運用代行を行うアイセールス株式会社では、1,5万人が参加する、資金調達の効率化を図るサロン「億単・起業家 - LABO.」のコミュニティマネージャーとして自社のノウハウを活かし経営者をサポート。200人の有料会員を集める。その後、広報・PR、営業を経て、マーケティング部イベント責任者に従事。2022年2月から独立し、オンラインのイベント屋さんとして法人登記予定。
森 大空(ひろたか)⽒(Grande Cielo 代表)
1997年鹿児島県鹿屋市生まれ。2019年3月、福岡~東京間の0円・徒歩旅を達成。九州産業大学経営学部産業経営学科卒。在学中に出会ったリペア業から靴磨きという職業に出会い、出張靴磨きを始めることに。2020年から博多駅前で路上靴磨きを開始し、6月に福岡市六本松にて店舗Grande Cieloをオープン。モデルとしても活動しており、2021年9月にMr. JAPANでグランプリを受賞。
- 明日の営業にワクワクする
- Grande Cieloはどうやって開店できたのか?
- 一人目の顧客との出会いにまつわるエピソード
- 僕自身に興味を持ってもらうためにフックを用意
- 初期マーケティングの鉄則とは?
明日の営業にワクワクする
茂木氏が森氏に出会ったのは、あるイベントだったそうです。
イケメンで目をひいたので、茂木氏から声をかけたそうですが、経歴を知ってさらに興味を覚えたとか。
森氏「最初に僕という人間を紹介します。高校まではサッカー一筋で勉強はあまりしませんでした。なんとか大学に入学したのですが、将来の夢もはっきりとは無く、漠然と起業したいと思って経営塾に通い、マーケティングも勉強していました。
また、5,000円で日本縦断をしたり、自転車で0円九州縦断やヨーロッパ2週間放浪したりしていました。21歳の時に職人の道を行こうと決めて靴磨き屋を始めたというわけです」
茂木氏「今日は、その靴磨き屋について話をしてもらおうと思っています。ところでMr. JAPAN2021(外見だけではなく、「知性・感性・人間性・内面・自信」を兼ね備え、 表現力に富む男性を発掘するコンテスト)に選ばれたのですよね。おめでとうございます」
森氏「今は靴磨き屋以外にもいろいろな事をやっています。その一環としてエンタメ業で発信力を高めるためにコンテストに応募しました」
トークを開始してすぐ、森氏がエネルギッシュで行動力のある方だということが伝わってきました。そんな森氏は、営業という仕事をどう捉えているのでしょうか?
森氏「靴磨き屋になって、どうやって売るか考えた時、パッと思いついたのが飛び込み営業でした。そこでリストを作って飛び込み営業を開始しました」
茂木氏「飛び込み営業って、ほとんどの人はマイナスのイメージがあるけれど、どんな気持ちで営業を?」
森氏「僕は、最初から面白そうだという気持ちでした。なぜなら、ヒッチハイクに似ていると感じたからです。道路に出る時のワクワク感とか、どんな人が止まってくれるかな? どんな会話になるかな? など、さまざまなヒッチハイク体験と飛び込み営業が重なりました」という答えに驚く茂木氏。
茂木氏「過去に営業と似たような経験をしていて、それを自分の営業スタイルに活かしたということですね。今の時代は、森さんのような経験、営業には地味な努力も必要、ということを知らない人が多いのではと思っています。SNSにちょっと投稿したら“バズる”という時代ですから」
“良いものを作れば売れるという時代は終わった”と言う茂木氏。現在、営業で苦労している方に、森氏の話が響けばと思い、ゲストに呼んだそうです。
Grande Cieloはどうやって開店できたのか?
ここで、森氏の創業ストーリーが紹介されました。なんと、起業のきっかけは海のゴミ拾いからだったそうです。
森氏「海でぼーっとする時間が好きで、その時、海が汚いことにきづき、勝手にゴミ拾いを始めました。2016年ぐらいですね。一人でやっていたのですが、次の日にはまたゴミが増えているし、マンパワーには限りがあると知りました。その同時期に、当時通っていた『早朝経営塾』での出会いをきっかけに、起業を考えるようになりました」
森氏は、当時、動画の制作会社が主催していた勉強塾でアシスタントをしていたそうです。その勉強塾では一流の起業家を取材した動画を見て、参加者同士でディスカッションするもので、いろいろ手伝う代わりに無償で参加させてもらったそうです。そして、ある家具の修理屋さんに出会いました。
森氏「古いソファを直しているのを見て『これで、ゴミを減らせるのでは?』と思いました。そこで、頼み込んで弟子入りさせてもらい、師匠の下請けとして起業したのが僕の起業スタートです」
茂木氏「すごい行動力ですね。靴磨き屋さんとして起業したのは、その後ですか?」
森氏「はい。“ウォール街の靴磨きの少年”の話を聞いたことで靴磨きに興味を持ち、独学で技術を学びました。その後、自分が店舗を持って靴磨きをするなら、このぐらいの金額をもらいたいなと設定しました。
そして、このお金を払えるのは年収がこれぐらいだからと…ペルソナを考えて、その人たちが働く福岡の起業をリストアップし、飛び込み営業をスタートしました」
リストは200社にも上り、飛び込み営業を開始したもののすべて断られるという辛い結果に終わったそうです。
森氏「正直、へこみました。で、僕なりに出した結論が靴磨きの文化は博多にはない、です(笑)。実際、1足も磨かせてもらえなかったことで、根本的にダメな原因があると気づけました」
茂木氏「へこたれたけど、同時に次の売り方を学んだという感じですね」
一人目の顧客との出会いにまつわるエピソード
そんな森氏ですが、いよいよ最初のお客さんと出会うことになります。
森氏「200社のリストはやめて、その日、目に飛び込んだ会社10社にだけ行くことに決めたのです。10社以上でも10社以下でもないようにすると、1日目で磨かせてもらえることになったのです」
最初のお客さんは、小さい不動産会社の社長だったそうです。「靴磨きなんて、面白いことをやってるね。いいよ」と、言ってくれたそうです。
茂木氏「なぜ、その社長はお客さんになってくれたのかな? 」
森氏「僕自身に興味を持ってくれたからだと思います。結局、モノを売るってそういうことなのだと思いました。オフィスが立派とか小さいとかは関係なく、自分自身を面白がってもらえるかどうかだと思います」
茂木氏「SNSが発達した時代に始めていたとしても、また飛び込み営業をしますか? 」
森氏「絶対にやりますね。靴磨きってお客様の持っている靴を預からないとできません。リアルじゃないと、対面じゃないとできませんから。飛び込み営業が苦にならないのは、“もうこの人たちと会うことはないんだ”という気持ちでやっているからです」
茂木氏「費用対効果とかは考えなかった? 」
森氏「当時は考えてなかったですね。起業したのは学生のころだったので、先輩がごはんに連れていってくれたし、個人で小さくやる仕事だからできたのかもしれません。僕は、ベンチャーの強みはそこだと思います。経費は後。まず売上を立てることを考えました」
森氏は、飛び込み営業がダメだったら、次に試す方法も考えていたそうです。200社に断られてもまだ試すことがいくつかあったため、あきらめようとは思わなかったそうです。
さて、現在、森氏はモデルの仕事もやっていますが、モデルの仕事ではInstagramなどSNSでの発信力を大切にしているそうです。
茂木氏「なるほど。オンラインとリアルを使い分けているのですね。僕も、リアルの価値が高まってきていると感じています。会議やミーティングもオンラインが増えていて、リアルを面倒がる人も多いと思いますが、そこはきちんとリアルのメリットをもう一度考え直してほしいですね」
森氏「誰かに感動してもらう、喜んでもらう、それを数値化したのがお金だと思います。たくさん感動を与えれば、たくさんお金がもらえる。そして、お互いの満足度が高いのがリアルなのではないでしょうか」
僕自身に興味を持ってもらうためにフックを用意
ここで、参加者から「店舗を持つまでの期間は計画にありましたか? 」という質問がありました。
森氏「なかったですね。ただ、頭の中では、こういう感じでやりたいというのはありました。だから、誰かに話してと言われたら、靴をお預かりして仕上がるまでの時間とか、内装のビジュアルの雰囲気とか、こと細かく話せました」
茂木氏「言葉にすることで、実現に近づくというのはありますからね。綿密な計画を立てる代わりに、圧倒的な行動量とイメージ力が森さんの武器なんですね。起業で成功するテクニックなどはありますか? 」
森氏「こいつ面白いなと思ってもらうことです。そのためには、自分に興味を持ってもらえるような自己アピールの言葉をひとつ持っておくと強いと思います」
森氏「僕の場合『靴磨き屋』ですって言ったら、相手は『えっ? 』ってなりますね。そこから、『それで食べて行けるの?』と会話がスタートします。さらに、モデルや役者もやっていますし、合同会社もやっていますと話すと、そこで興味を持って話を聞いてくれる場合が多いですね」
茂木氏「興味を持ってもらうためのフックを持っておくのですね。同感です。僕は“ウェビナーにしか興味なくて、会社辞めちゃいました”っていうと、やっぱり『えっ?』となって話を聞いてくれますね(笑)」
初期マーケティングの鉄則とは?
茂木氏「最後に、森さんの考える初期マーケティングで大事なことを教えてください」
森氏「1つ目はお客さんのもとに足を運ぶことです。リアルで会っている人は、ファンになってくれる確率も高いと思います。2つ目は、明確なターゲットを決めることです。誰に売るか、その人はどこにいるか。家がどこで、職場がどこで、交通機関は何を使ってと、細かく分析します」
200社に断られた森氏は、後に「福岡の人は車に乗って、会社に行く人がほとんど。営業でも、東京の人みたいに歩きません。ほとんど車移動です。だから、そもそも靴を磨く需要がなかったのです」と分析。
このことから、「商品に影響がある状況を全部書きだすようにしています」と言います。
さらに、「商品を買いそうなマーケットに、ただ商品を投下してもマスゲームになってしまい資本を持っているところには勝てません。だから、自分の商品を利用してくれるのは、どういうお客さんで、どういう生活をしているのかまで深く知ることが大切だと思います。お客さんへのアプローチは、いくらでも考えられると思います」
茂木氏「どんなことを書いていたのですか? 」
森氏「真ん中に靴磨きと書いて、まず類似産業(競合)を書きます。僕の場合は、エンタメ産業と位置づけているためNetflix (ネットフリックス) とか、YouTube やテレビを書きます。劇場も入りますね。
次のページは、自分の商品をどんな人が使うかを書きだします。男性だけでなく独身の女性も使うかもしれない。営業マンだと思っていたけど、工場の人も使うかもしれないなど、思いついたことをどんどん書いていきます」と森氏は説明しました。
最後に起業する人へのアドバイスを聞かれた森氏は「自分のやっていることにワクワクするといいですね。話す側がワクワクしないと聞いている人もワクワクしないし、話も進まないと思います」と答えました。
ちなみに靴磨きの仕事の話をする時、森氏はとてもワクワクするそうです。
森氏にとって仕事の動力源は「君、面白いな」と言ってもらうことだとか。
仕事をマネーゲームとして捉えず自己実現として捉えている森氏は、近くリアルの会員同士の交流会を企画しているそうです。
エンタメ業、俳優業、靴磨きで培った人脈をフル活用した新たなビジネスに、大いにワクワクしているそうです。
構成・文/馬渕智子
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