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「自分の看板で稼ぐ生き方」は不安定そうだけど実は最強の安定

会社員から起業を目指すとき、どうしても気になるのが「安定して稼いでいけるのか」というポイントですよね。
せっかく起業しても利益が出ないのでは、日々の生活すらも厳しくなります。

そこで今回は、「無借金経営・起業後10期連続黒字」の実績を持つ株式会社Y-プロデュースの野竿達彦氏を講師に迎え、ご自身の経験をもとにした「会社員の時よりしっかり稼げる起業術」について語ってもらいました。

安定した会社員生活から一歩踏み出せない方、起業初期からきちんと稼いでいきたい方必見のセミナーの様子をレポートします。

講師

野竿 達彦氏(株式会社Y-プロデュース 代表取締役)
銀行で企業向けの融資を担当、求人広告の営業、商工会議所での経営支援業務を経て2007年横浜市創業支援・成長促進事業 横浜ベンチャーポート所長に就任。起業・ベンチャー支援スポットとしての業務をプロデュース。2009年起業家のシェアオフィス「横浜PRオフィス」を立ち上げる。2010年1月 創業 企業の圧倒的な強みコンサルティング、見せるだけで注文が入る広告ツールの制作、セミナー講師、公的な起業・経営支援の事業受託などを開始。東京・横浜・大阪で中小企業、ベンチャー経営者に対する面談1万回超・2万件を超える販促支援、横浜ビジネスグランプリ・東京都シニアビジネスグランプリ、荒川区、中野区などのビジネスプランコンテストのプロデュースも手掛ける。

独立と起業の違い

はじめに押さえておきたいこととして、独立と起業の違いについての説明がありました。

図を踏まえながら、「独立」と「起業」、「経営者」と「起業家(創業者)」といったキーワードを整理していきます。

野竿氏「起業とは『事業を作る』こと。仕事は①事業を作る②作業に落とし込む③作業する、の3つに分かれます。ざっくり分けると、①は起業家、②は部長、課長などの管理職、③はスタッフや社員の方が担当するものです」

起業家に必要なのは、「0から1を作り上げる力、ビジネスモデル=収益モデルを作り上げる力」だといいます。野竿氏からは「お金を稼げないモデルはビジネスモデルとは言わない」と、少し厳しいお言葉もありました。

起業をするとき、一番の問題になるのはやはり「売上があがるかどうか」です。
これは、野竿氏が用意した資料を見ても明らかです。

ここまでの話を踏まえて、野竿氏が起業時に必要なスキルとして挙げたのが「マーケティング力」でした。

経理や税務などの知識があっても、「稼ぐ力」がなくては事業の継続はできません。そこで重要となるのが、「マーケティング力」なのだそうです。

リサーチツールの作り方

次に、本日のメインである「稼ぐノウハウ」の前に、起業活動において重要な「リサーチツール」についても教えていただきました。

野竿氏いわく、「失敗する起業活動では、売れるかどうかわからないビジネスプランから作成している」といいます。

野竿氏「まずはリサーチツールを作りましょう。それから見込み客を見つけるつもりで、ターゲットにリサーチします。反応が悪ければビジネスモデルを作り直す、反応が良ければそのまま売ってしまって、それからビジネスプランを作っていきます」

売れないビジネスモデルのプランをいくら作っても、時間の無駄になります。まずは「リサーチ」を通してターゲットの反応を見ることが、起業の肝ということですね。

稼ぐノウハウを紹介

今回のメインとなる「稼ぐノウハウ」として、野竿氏は次の5つのポイントを挙げました。ひとつずつ見ていきましょう。

①強みについて考える

「あらゆる者が、強みによって報酬を手にする。弱みによってではない」というドラッカーの言葉を紹介し、起業後、真っ先にするべきことは「ビジネスの強みを明確にすること」と話す野竿氏。
強みがぼやけている場合は、競合分析をしてポジションマップを作ってみてほしいそうです。

次に野竿氏は、ドミノピザの例を取り上げつつ、「売り方」を強みにするという方法を解説します。

野竿氏「1960年代のピザ屋のデリバリーはいつ届くかわからないレベルでした。その時にドミノピザは、『熱々のピザを自宅まで30分以内にお届けします。間に合わなければお金は入りません』というキャンペーンを行いました。冷えたピザがいつ届くのかわからないという時代背景の中で、ドミノピザは一気にブレイクした。当時の若者が、本当に30分以内にピザを持ってこられるかをゲーム感覚で試していたという話もあります。時代によっては、『売り方』を強みにすることもできるのです」

また、野竿氏は「人の強みと事業の強みを分けていただきたい」といいます。

野竿氏「人の強みを生かしたビジネスには士業やコンサルタントなどがあるが、本来の起業は事業の強みを活かしたビジネスのことです。人の強みを活かすビジネスから事業の強みを活かすビジネスに進化させる起業家は多いです。ここはポイントなので、覚えておいてください」

 

②売上の天井を把握しておく

次に野竿氏は「売上の天井を把握しておく」ことをポイントに挙げています。

野竿氏「売上・件数・利益を生み出すための労力をイメージしましょう。これは起業する前にイメージはできるので、ぜひやっていただきたいです。売上の天井が低い事業にいくら投資しても疲れるんですね」

フットサロンを例とし、メニューの単価、月の売上、年の売上、利益など具体的な数値を挙げながら、売上を増やすために1日どのくらい働く必要があるのかを見ていきます。

自分が倒れてしまっては、事業を続けることはできません。実際に経験してから気づくよりも、イメージの時点で把握することの大切さが理解できました。

疲弊しそうなビジネスの対策としては、客単価を上げる、メニューを追加する、事業を追加するといった方法が挙げられます。

野竿氏「スタートダッシュはいいですけれど、売上の天井を把握して、どんどん疲弊しないようなビジネスモデルに変えていく必要はあります。これはイメージしておいてください」


③「松竹梅」戦略

3つ目はより技術的な話として、「松竹梅」戦略が挙げられました。

メイン商品の価格帯を「松竹梅」の3つに分けると、真ん中を選んでしまう人が多いそう。そこで真ん中の「竹」を、利益率の高い商品にしておくのが、この戦略です。

野竿氏「客単価のUPと満足度UP、リピート率UPという考え方で、あえて『松』を落としどころにするという方法もあります。フック、メインを考えて、どこを落としどころにするのか決めていくといいでしょう」

④収益導線を考える

4つ目のポイントは、「収益導線を考える」ことです。
野竿氏「フック→メイン→ストックという考え方ですね。フックはつかみの商品、メインはしっかり稼げる商品、ストックは継続してお金が落ちる商品、サブスクなどはこれに当たります」

いきなりメインの商品だけ売っても売れないため、つかみとなるフックが必要になるとのこと。
実際に会計事務所の具体例を見ながら、戦略の立て方を考えていきます。
メインやストックで目指す数値や必要なフックの数値、そこから「今やること」を考えていくというKPIを使った逆算形式の考え方が、具体的な数値を踏まえて紹介されました。

⑤2ステップマーケティング

最後に紹介されたのは、「2ステップマーケティング」という手法です。
モノやサービスを直接売るのではなく、ステップを作って売るという手法であり、野竿氏も「とても重要な考え方なので、上手く使ってください」としています。

投資マンションの事例では、1ステップ目と2ステップ目の結果によって、その後の販促戦略が具体的になる過程が紹介されました。

いきなり起業するのは怖いという方向け・堅実に稼ぐノウハウを紹介

ここまで「稼ぐノウハウ」を紹介してきた野竿氏ですが、ここからは「堅実に稼ぐノウハウ」の話に移ります。

ところで、起業にはどのようなパターンがあるのでしょうか。野竿氏は以下のように区分しました。

①ハイリスク・ハイリターン型
国が力を入れているスタートアップに該当します。日本人に向いているかは疑問が残るパターン。

②ミドルリスク・ミドルリターン型
飲食店の開業などが該当します。コロナ禍のような不測の事態を想定しておく必要があるでしょう。

③ローリスク・ローリターン型
ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスが該当します。ただ、実際には食べていけないことが現実です。

④ローリスク・ミドルリターン型
いわゆるスモールビジネスが該当します。小さく始められて稼ぎ方がわかる方法です。

上記の中で、野竿氏が日本人に多い、安定志向が強く、同調圧力に弱い人に一番合う起業として勧めるのは④ローリスク・ミドルリターン型の起業とのこと。

ここで野竿氏は、「会社員の時にしっかりお金を貯めて行う起業は堅実な起業といえるか?」という質問を投げかけます。

 

野竿氏「『貯金があるから大丈夫』という考え方は本当に危険です。会社員時代に貯めた2,000万と独立してから貯めた2,000万は、全然違います。会社員の時に貯めた2,000万は、会社のブランド、名前で稼げたお金です。独立してからの2,000万は自分のブランド、自分の価値によって稼いだものなので、これは自信の源が全然違います」

堅実な起業のために野竿氏が提案するのは、「起業する前にワンクッション入れる」方法です。

野竿氏「『起業する→失敗に終わる』パターンでは、自分の看板で稼ぐノウハウを身につけないまま終わってしまうので、会社員に戻るしか道がありません。周りも『うまくいかなかったんだ』と認識します。

では、失敗しないためにどうするのか。それは会社員をやめた後に自分ビジネスで稼ぐ。それから起業する、というようにワンクッション入れるのです。この方法であれば、起業が失敗したとしても自分ビジネスに戻るだけなので、会社員に戻らなくていいのです」

 

ここで、「自分ビジネス」と「起業」の違いを整理してみます。

野竿氏によれば、「自分ビジネス」は自分の得意を生かしたビジネスであり、「起業」は事業の強みを生かしたビジネスを指すとのこと。自分ビジネスで稼ぐメリットとしては、以下の4点を挙げました。

■自分の看板で稼げるという自信が安心を生む

■家族も安心する 応援を受けやすい

■会社員思考から脱却できる(確定申告、経費の使い方を知る)

■社長との人脈が増える(社長は会社員とは付き合わない)

では、自分ビジネスはどのように行っていけばいいのでしょうか。

野竿氏「まずは会社をやめて、業務委託契約を活用します。社長に対して『社員を雇わずに、その予算を私に使いませんか』と提案し、得意な業務をアピールしていくのです」

また、別の方法として、「自分ビジネスと起業を並行して進めていく」というやり方もあるといいます。
この場合は、「起業で稼げない金額は自分ビジネスで補っていく」と考え、売上のバランスを見ながら最終的に起業のみで稼いでいくことを目指していきます。

このように、起業には①通常の起業②自分ビジネスで予行演習③起業で稼げない分を自分ビジネスで補うという方法があります
野竿氏からは、「最初から1つに絞ってしまうのは堅実な方法とは言えない」とアドバイスがありました。

起業時に肝に銘じておくこと

最後に、起業する際に肝に銘じておくべきこととして、野竿氏は以下の11のポイントを挙げました。

①ビジネスモデルがわかりにくいものはダメ
ビジネスモデルを誰にでもわかるようにするのが社長の仕事です。専門的なビジネスだとしても、中学生でもわかるようにしましょう。

②貯金は崩さない 最低限の生活費は稼ぐ
貯金がいくらあっても目減りすればストレスになります。自分ビジネスをしながら、最低限の生活費は稼いでいきましょう。

③保険をかける
シミュレーションにお金はかかりません。ダメは想定内として、ダメだったらどうするのか、それでもダメならどうするのかを考えておきましょう。

④仕事力は起業を助ける
仕事力は起業でも強い武器になります。復習よりも予習を重視すること、メール・メッセージでの対応力、リーダーシップなどを意識しておきましょう。

⑤想いだけでは稼げない
想いがなくてもニーズがあれば購入してもらえるのが実情です。ユダヤ商法でも「売りたい」ではなく「売れる」ものを売ると言われています。

⑥ブランディングはあと
売れてからブランディングを考えるのが得策です。ブランディング先行で考えてもうまくいくことはほぼありません。

⑦契約は慎重に
Webサービス、サーバ・ドメイン、高額の起業スクール、レンタルオフィスなどの契約は慎重にしましょう。

⑧約束を守る人とだけ付き合う
リスケが多いなど、些細なことでも約束を守れない人とは付き合わないようにしましょう。あとで大変なことになります。

⑨人柄をチェックする
良いお客さまは良いお客さまを紹介してくれます。お客さまや提携先、外注先などお付き合いする人の人柄は確認しましょう。

⑩紹介案件を増やす
知らない先からの問い合わせより、安心感があり、関係性を作りやすい紹介案件の方がメリットは大きいです。

⑪赤字にしない 納税する
会社にお金を残すためには、利益を出して税金を納めるしかありません。会社にお金が残れば、投資にもなります。

野竿氏「『笑う門には福来る』ということで、商売繫盛に結びつく行動は笑顔とノリの良さ、ひとつ高めのテンションだと思います。怒りっぽい人、しかめっ面の人にお客さまは寄ってきません。笑顔でテンションを上げることが大事です。

また、好きなことより得意なことで起業すること好きと得意を合わせられる人はビジネスセンスが高いと思います。ビジネスになってきたら、得意なことがお金を生みます。

そして、「自分の看板で稼ぐ生き方」は不安定に見えますが、実は最強の安定です。自分のビジネス、自分の得意で稼げれば、本当にどこでも食べられます。

いつだってやる人はやるし、やらない人はやらないです。起業して上手くいかない人もいます。けれど、これまで「後悔した」という人には出会ったことはありません。後悔のない人生を送ってください」と締めくくりました。

 

構成・文/やまぐちきよみ

 

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