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東京創業物語 Case Study #2

東京の街で起業した人たちに、その経緯や苦労話、これからの夢などを伺っていきます。

Case Study #2 ブランディングカンパニー「TUMMY」 あべなるみさん

日本ではかねてからワークライフバランス(仕事と生活の調和)の実現が目指されているが、制度の整備は遅れている。仕事と生活の調和を目指すなら、社会の枠組みから一歩踏み出し、自分で働く場所をつくったほうが早そうだ。会社を辞めて起業するにはリスクもあるが、自身の尺度をもって新しい働き方を選択する人も増えている。大手広告会社を退社して「TUMMY株式会社」を設立したあべなるみさんも、そのうちのひとりだ。二人の子どもの子育てをしながら、自分らしく働くライフスタイルを確立している。

あべさんは、もともと食と農に興味があり、大学は農学部に進んだ。学生時代には規格外の野菜を調理して提供するカフェを運営するサークルを創設。サークル活動を通して農家の生活にふれ、農を生業とする人たちの、暮らしと仕事のバランスをとって自分らしく生きる生き方に、強く共感した。「農や食の魅力を広く発信したい」という想いを抱くようになり、大学卒業後は大手広告代理店に入社した。しかし、このままこの会社で夢を叶えるのは難しいと感じるようになった。

 

そこであべさんは考えた。5年間は会社でしっかりブランディングについて学び、その後は起業して本来やりたかった農の魅力を発信する仕事をしようと。そして、入社5年目(2018年)に起業準備をするために退社。2019年に食と農に特化したブランディングカンパニー「TUMMY株式会社」を設立した。TUMMYとは、英語の幼児語で「お腹」という意味。「お腹からいのちに感動する暮らしをつくる」をビジョンに、自分自身を愛し心豊かに生きる人を増やすために、農を入り口として自分らしく仕事と暮らしを両立させる生き方の普及を目指している。

あべなるみさん(Abe Narumi)

1991年山口県生まれ。2014年京都大学農学部卒業。農の魅力を広く伝えることを夢みて株式会社博報堂に入社。大企業ブランディングに携わり、ブランディングの手法について学ぶ。2018年に退社後、スタートアップ支援事業を行うSHE株式会社に5カ月間在籍。2019年1月「TUMMY株式会社」を設立。2020年2月に第一子を出産。現在は二児の母となり、子育てをしながらオンラインを中心にワーク・ライフ・バランスのとれた働き方を実践。

起業しようと思った理由について、教えてください。

あべさん「起業したいと思ったのは、学生時代からの目標である『農業の魅力を伝えられる人になること』と、幼い頃からの夢である『ごきげんなおかあさんになること』を実現するためです。会社に勤めていた頃は帰りが深夜になることもあり、求められる仕事をこなしながら、自分のやりたい仕事や子育てをすることは難しいと思いました。本当にやりたい仕事と子育てを両立させるためには、会社をやめて、新たな働き方を模索する必要があったんです」

仕事と子育てを両立するための働き方の工夫とは?

あべさん「創業は2019年1月。第一子を出産したのが2020年2月で、ちょうどコロナ禍が始まる直前でした。子育てしながら仕事をするためには、オンライン中心にする必要があるので、クライアントに理解を得るために挨拶に回らないといけないなと思っていたところ、コロナの問題が起きたんです。その後は、オンラインで仕事をするのが当たり前の世の中になったので、とくに苦労なく、子育てしながら働ける形にシフトできました」

TUMMYの主な業務内容はなんですか?

あべさん「TUMMYの軸となっているのは『愛本主義』という理念です。農家の人の生き方から学んだ、『いのち』を真ん中にする生き方を『愛本主義』と名づけ、この理念に基づいて、ブランディング事業を展開しています。カタログギフト『aiyueyo』はTUMMYのフラッグシップ的な存在で、農家の方々がつくる愛がこもった食品や農家さんの生き方を伝えるツールになっています。TUMMYでは、『愛本主義』を実践した暮らし方を学ぶコーチングプログラム『ナエドコ』も運営しています。このプログラムで学んだ卒業生は、ワーキングネットワーク『チームaiyueyo』に所属し、それぞれのスキルを生かしながら協力して仕事を行い、自分らしさを生かして活動の幅を広げています。TUMMYの運営を支えているのは、『チー厶aiyueyo』の共感コミュニティです。横のつながりを生かしてプロジェクトを進めていく、いわゆるDAO組織(分散型自律組織)ですね」

TUMMYがブランディングや販売支援する、農家の商品たち。左上が、規格外の野菜を使った、Koike lab.の「もったいないOKASHI」シリーズの焼き菓子。右上は、紫海農園の「農家のアテ ナスのパテ」。カタログギフトaiyueyo giftには、チームaiyueyoが農家とともに広める商品が並ぶ。
『ナエドコ』というネーミングは、おもしろいですね。

あべさん「名前の由来は、農業の「苗床」です。植物は、種から発芽させるところがすごく難しいんです。だからいきなり路地に種をまくのではなく、ハウスの中で発芽しやすい条件を整えた「苗床」をつくって、そこに種をまいて芽吹かせます。人が自分らしく生きようとするときも、最初は殻を破るのが難しいじゃないですか。だから最初は、いろいろなサポートを受けながら、自分らしく生きるためにはどうしたらいかを考えられる場所が必要だと思ったんです」

「ナエドコ」で育った人たちが、その後、『チームaiyueyo』で一緒に活動していくという流れですね。

あべさん「『チームaiyueyo』は会社じゃないので、こちらからは与えるという姿勢ではありません。『自分で私はやりたいからやります』と宣言して動いていける人と仕事をしたいと思っていて、その宣言に近い案件がきたときに巻き込んで一緒に仕事をしています。みんなが、より自分らしく生きるために応援し合っていくような組織です。TUMMYでは、食と人の『いのち』を行き来しながら仕事をしているという感じですね」

農のブランディングというと農業支援をイメージしますが、そうではなく、都市に暮らす人たちに向けて、農家さんの暮らしの根幹にある「いのち」を中心に暮らす考え方を広めていきたい、ということですね。

あべさん「大学の授業などでも、農業の話になると、高齢化や自給率の低さなど課題のほうが注目されますが、実際に自分で農家の方とお会いしてみると、『いや、もう農家さんの暮らしの中には、豊かさが十分にある』と感じたんです。私は自分の感覚を大切に、農家さんが持っている豊かさを発信していきたいと思いました。なぜ農家さんが豊かで幸せそうなのかを、私なりに分析した結果、『暮らしと仕事が分断されてない』というライフスタイルが見えてきました。体をしっかり動かして働き、自分でつくったものをフレッシュな状態でおいしく食べ、食べたものが体になっていく。そこには、幸せがぎっしり詰まっていると感じました。私の仕事は、農家さんが持っている魅力を、都会に暮らす人たちに向けてわかりやすく翻訳することです。その翻訳作業がブランディングだと考えています。農家さんのつくった農産物や食品を通じて農家の人と接点ができ、農的な暮らし方の素晴らしさに気づく人たちが増えていけばいいなと思っています」

起業してからのご苦労はありますか?

あべさん「最初の頃は、自分のやっている仕事を、『農業のブランディング』としか言語化できなかったので、量産品をより高く売るための経済優先のご依頼も受けていました。でも、どうしてもモチベーションが上がらず、やはり『いのちを愛でる』というポイントが、私にとって仕事をする上で重要だということが、だんだん明確になってきました。私は、一緒に働く人に影響されるタイプで、考え方が合わない人と仕事をすると、疲弊してしまうんです。すると、本来目指したい『ごきげんなおかあさんでいること』ができなくなってしまいます。自分がもっとも大事にするところを犠牲にするような仕事をやっている場合じゃない。じゃあどんな仕事がしたいのだろうと考えていくうちに、『愛本主義』にたどり着いたんです」

理念を明確に発信することは重要ですね。

あべさん「そうですね。お客さまや一緒に働くスタッフも、まず最初に、いのちを愛でて分かち合う『愛本主義』の理念について話し、『私たちはこういう世の中を作りたいと思っています』と宣言した上で、共感してもらえたら一緒に仕事をすることにしています」

農や食を切り口にブランディングの仕事を展開してきたあべさんだが、今は、基本となる考え方さえ一致すれば、農に限らず、幅広い分野の仕事も引き受けている。起業から5年目に入った現在、「ナエドコ」の卒業生は114名(2023年2月現在)。それぞれの得意分野を発揮し、横のつながりを強化しながら『チームaiyueyo』で活動している。「まだまだ114人、小さな村みたいなもの」とあべさん。最終的に目指すところは、世界平和だという。

 

あべさん「野望は大きくて、世界中で、5人に1人の人が『愛本主義』で生きるようになったらいいなと思っています。今はまだ日本語でしか発信していませんが、今後は世界を視野に入れて発信していきたい。世界中には、同じ考え方を持つ人が、たくさんいると思っています。何をするにもお金を基準にしてしまうと、自己犠牲の方向に向かってしまいます。そうならないためには、まず自分を満たす生き方をして、自分の半径5メートルの人たちに幸せを広げていくことを基準に考えていく必要がある。資本主義が必要な時代もあったと思うけれど、今はもう十分にものがあふれています。これからは何においても、心の豊かさや、いのちの喜ぶ方を選択する時代になっていくでしょう。今後も、お金より大事にするものがあるというところを、発信し続けていきたいと思っています」

TUMMY

https://www.tummy-inc.com

 

【転載元】メトロポリターナトーキョー
https://metropolitana.tokyo/ja

 

 

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