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「やりたい」だけではダメ! 起業を成功に導くリスク回避術と心構え

せっかく起業にこぎつけたとしても、数年のうちに成功する人と失敗する人に分かれてしまうのが厳しい現実です。ビジネスが上手くいくパターンは様々ですが、失敗するパターンにはたくさんの共通点が存在します。

そこで今回は、株式会社ベンチャーコンサルタントの代表取締役であり、ご自身も経営コンサルタントをされている寺田勝紀氏を講師に迎え、「起業で失敗する人・成功する人」をテーマに語ってもらいました。

起業のリスクを減らしたい方、失敗と成功のパターンから起業準備のヒントを学びたい方必見のセミナーをレポートします。

講師

寺田 勝紀氏
(株式会社ベンチャーコンサルタント 代表取締役/経営コンサルタント)
商品開発・販促・広告を専門分野とする経営コンサルタント。 「会社・お店・商品・そして人」のブラントを創って” 魅せる” 専門家。
26才で起業。有限会社ヴェックスを設立。空間、グラフィック、Webの3つの方向から「流行るお店創り」を提唱し、25年間で300件以上の小さなお店をプロデュース。出店企画、事業計画書作成、マーケティングプランの策定、グラフィックツールの企画、店舗設計を手がけた。アートディレクターとして関わった販促物や広告は3,000以上。現在もホームページやチラシのコンサルティング、デザイン制作に関わり結果を出し続けている。2005年よりコンサルティング活動を本格化。経済産業省後援事業や委託事業、大阪府の地域活性化事業、就職支援事業、商店街活性化事業などでアドバイザーを務めた。セミナー・研修活動は、販促、広告、マーケティング、起業、経営革新、事業計画の分野の依頼が多く、16年間連続で年間100本以上を受託。実践に基づいたわかりやすいセミナーは、全国各地の自治体、公的機関、大学、商工会議所などで好評。
●執筆・メディア掲載
月刊飲食店経営、DESIGNBOX 04、ネオジャパネスクデザイン、近代中小企業ほか。
日本政策金融公庫発行「起業家応援マガジン」で「売れる販促術!」を連載

はじめに

本題に入る前に、寺田氏は「起業は失敗する前提で考えましょう」という話を始めました。

起業して10年後まで生き残る確率は、国や公的機関など様々なところからデータが出ており、全体でみるとおおよそ1割から3割という数値が中心になっています。
つまり、成功する人よりも失敗する確率の方が高いことが数字でわかっているのです。

ビジネスの世界は年齢も性別も関係なく、「経営や起業には『絶対』はない」と寺田氏は言います。

寺田氏「何が良くて何が悪いのかはわからない。ただし、成功するパターンはいろいろあるが失敗するパターンは大体似ている」

ご自身も26歳でデザイン会社を起業し、40歳でコンサルタントに切り替えた経験を持つという寺田氏。
今回のセミナーは、寺田氏自身の経験を踏まえた「失敗するパターン」の話題を中心に進んでいきます。

次に寺田氏は、経営者の大切な考え方として、「お金儲けは経済の世界からの社会貢献である」という点を紹介します。

お金儲けのためにビジネスする人は、失敗する確率が高いそうです。
反対に、人に喜んでもらおうと思って作ったサービスが結果的に売れて儲かるパターンの人は目的と手段を取り違えていないので成功する確率が高いといいます。

世の中には教育、研究、家庭など様々な世界があり、「起業は『経済』の世界から社会貢献をすることだと意識しておくことが重要である」と寺田氏は語ります。

寺田氏「とにかく起業して経営しようと思ったら、経済の世界の一員として世のため人のために喜んでいただける商品・サービスを作ってしっかり儲けましょう」

さらに今の日本が円安になっているのは、「経済の力が弱いから」だと寺田氏は続けます。寺田氏自身はバブルがはじけた直後に起業をしているそうで、破産や倒産がたくさん起こった状況を見て「チャンスだ」と思ったとのこと。

寺田氏「事前質問で『経営者として成功する人とは?』とありましたが、『何が起きても前向きに考えられる人』は成功する確率が高いと思います」

「やりたい」だけでは通用しないビジネスの世界

ここまで起業に対する基本的な考え方や必要なことを語ってきた寺田氏。
本編に移るとまず、起業する初期段階で大切な以下の3点について説明しました。

■なぜ起業したいのかを明確にする
1つ目は、起業する理由を明確にすること。
困ったことが起きたときには初心に戻ることが大切だという寺田氏。スポーツ選手を例にとりながら、最初に思ったことを大事にしている人は成功する確率が高いと説明しました。

■10年後に実現したいビジョンを描く
次に挙げたのは、実現したいビジョンを描くこと。
寺田氏は、「起業して経営するということは夢を追いかけてはだめ」だといいます。

寺田氏「夢を追う人は失敗します。夢は叶えるもの。ビジネスというのは、叶えるのではなく達成するものです。ビジョンは達成すべき目的であり、5年後、10年後の近未来に向けた旗印なのです」

また、ビジョンは自分目線ではなく、「このビジネスが世の中に広がると社会はこうなります」という「社会的な目線」を取り入れるようにというアドバイスもありました。
ビジョンを明確に言語化しておくことがしっかりとした事業計画のベースになり、結果的に成功へとつながっていくのです。

■失敗するときの撤退ラインを決めておく
最後のポイントは、事前に撤退ラインを決めておくことだといいます。
今はお金が借りやすいということもあり、一番多い失敗例として「2回目、3回目と借金を重ねてしまった」というパターンがあるそうです。ご自身の経験も踏まえて、経営の勉強をしていない人が陥りやすいと注意を促します。

寺田氏「やめるラインを決めるのは、経営者にしかできないこと。今は会社を辞めてうまく閉じれば、3年くらいですぐに復活できるようになっています。撤退ラインを決めて、早くリスタートした方が復活も早いということは覚えておきましょう」

人生100年時代と言われる現代でも、中小企業の寿命は25年から27年と言われます。

人生の選択肢も大きく広がっているこの時代、「40代50代でこれが最後のチャンスと思っている方も、あと1回2回チャンスはあると捉えてしっかり取り組んでいただきたい」と寺田氏は語りました。

 

次に寺田氏は、「好きなこと」と「できること」、そして「人が認めること」の違いについても解説しました。

この3つが一致する分野で起業出来たらとても幸せですが、そんな恵まれた人はめったにいません。
特にビジネスでは「他人から認められるのか」を考えることが大切になります。起業で成功する確率が高いのも、この「他人から認められる」分野です。

「人から認められること」を見つけるために、寺田氏は「サンプリング」をするようにアドバイスしました。

寺田氏「お試しで1回、ちょっと人に使ってもらう。大企業でも地域限定などで実践して、ここでいけるかどうかを判断している。大企業でもやっているのに、個人の起業家がやらないのはおかしいですよね」

実際にあった失敗のパターン

次に寺田氏は、実際にあったさまざまな失敗パターンを紹介しながら、失敗する人の傾向について解説しました。

例えばご自身の体験談である「経営の勉強をしなかったデザイナー」の場合、「情報弱者」と「独りよがり」であったことを失敗の原因として挙げています。
起業して3年目で儲かったため、当時はお金のことをあまり勉強しなかったという寺田氏。順調に売り上げを伸ばしていく中、事業の幅を広げようとした矢先に不渡りを出してしまったそう。

寺田氏「お金のことを勉強していないと、お金で必ず損をします。そこは経営者としてしっかり押さえておかなくてはいけない一番大事なポイントだと僕は思っています」

他にも以下のような例を挙げながら、起業前後に気を付けたいポイントが具体的に紹介されました。

■事業計画がなかったネットショップ
■3か月で業種が変わったラーメン屋さん
■コロナで心が折れ廃業した観光ホテル
■本業以外に手を広げ過ぎた工務店
■広告をしない自信過剰の手作り雑貨店
■半年で決断できなかった定年後のカレー専門店
■高額コンサルティングを受けた講師業

失敗の原因分析とリスクを回避する方法

ここからは、紹介してきた失敗パターンを踏まえた「リスクを回避する方法」に話が移ります。
特に意識しておきたい3点をご紹介します。

■経営の勉強はどこでするのか
まず現代の経営で最も大切なことは、いわゆる情報弱者にならないよう正しい知識を身につけることです。
寺田氏は情報や知識の取得先として、以下の3つを推奨しています。

・公的機関主催の創業塾
・経営の専門家
・成功した実績のある先輩起業家

寺田氏「でも最後は自分の判断です。結局自己責任の世界なので、そこは間違えないようにしてほしいと思います」

特定のメンターやチューターを作ったり、その信者になったりする人は成功する確率は低いそうので、「誰に話を聞いてもらうのか」「盲目的になっていないか」は慎重に見極めるようにしましょう。


■独りよがりの経営にならないために

次に大切なことは、独りよがりの経営にならないという点です。
いくら「うちの商品はすごい」「うちのサービスはすごい」と言っても、購入してくれる人がいなければビジネスは成り立ちません。
また、お金の流れや競合との兼ね合いなど、きちんと調査し把握しておくことが安定した経営につながるという要素は数多くあります。

寺田氏「決算書は数字で冷静に出てくる。それを自分の経営者としての評価だとして受け入れることが大事です」


■コンサルティングはたくさんの意見を聞くと失敗する
最後にコンサルティングの上手な使い方についてもアドバイスがありました。
さまざまなコンサルを受け、「あれもこれも聞いてから判断する力は起業初期にはない」と寺田氏は語ります。

おすすめは、いろんな人にちょっとずつ相談して、「この人いけるな」という人と一定期間お付き合いする方法。「やっぱり合わないな」と思ったら乗り換えればいいので、まずは銀行や商工会議所など無料の相談窓口を上手く活用しながら、出来るだけお金をかけないようにすることが大切ということでした。

ゼロから創る!経営者としての心構え

続いて、経営者の精神的な部分、心構えについてもお話がありました。
経営者は常にメリットとデメリットを意識し、ある種の覚悟を決めておく必要があると寺田氏は言います。

寺田氏「評価はすべてお客様です。いくらすごい商品でも売れなくては意味がないので、常にアンケートと改良を忘れないでほしいです」

ご自身の事業も例に取りつつ、「投げ銭の大道芸人のつもりでお客さまの評価がすべてだと考える」という話をされていたことが印象的でした。

ここでは、壁を乗り越える3つの方法についてもアドバイスがありました。

まずは、すべてを集中して一点突破する方法。
辞めるつもりの覚悟でやってみることで、突破できる可能性が広がります。

次に、徐々に積み重ねて乗り越える方法。
一気に乗り越えることは難しくても、いったん下がって少しずつスキルや経験を重ねることで乗り越えられる壁もあります。

もう一つは、違う道を探すという方法です。
視野を広げ横から迂回する道なども選択肢に入れてみると、正攻法では突破できない壁を乗り越えられるかもしれません。
それでもダメならいったん引くという覚悟を持つことも、経営者には必要だと寺田氏は語りました。

その他、
■知識や資格より経験と実績
■分析はしても反省はするな
■苦手なことをするな
など、経営者として重要な心構えと覚悟について、わかりやすい事例を交えた解説が続きました。

寺田氏「まずはとにかくやってみましょう。不安な人は小さく始めてみる。飲食店の成功の秘訣は何ですかと聞かれたら、僕は『飲食店でバイトすることです』とおすすめしています。経験は何よりも大事です。経営の1番の勉強は『経営すること』ですね」

今どきの起業と「アントレプレナーシップ」

「とにかくやってみる」という視点は、今どきの起業と「アントレプレナーシップ」に着目した説明でも繰り返されます。

「アントレプレナーシップ」とは、何もないところから価値を生み出すことを指しています。寺田氏は大航海時代に生まれた言葉がもとになっていることを引き合いに出し、「失敗を恐れずにチャレンジすることが大事」と語ります。

最近は2週間あれば起業の手続きが出来たり、お金も借りやすくなったり、誰でも簡単に起業できる時代になりました。
失敗した場合でも、再チャレンジするハードルは以前より低くなっています。
今は「とにかくスタートしてみる」ことが大切な時代へと変わってきているのです。

起業準備は3つの輪を使って自分の棚卸をしよう

セミナーの締めくくりとして、寺田氏は起業準備を何から始めていいのかわからない人に向け、自分の棚卸をするおすすめの方法を紹介しました。

まず1つ目は、「経営資源を書き出してみる」こと。
経営資源は、「ヒト・モノ・ウツワ・カネ・情報・経験」を指しており、人脈や売る商品、店舗をどうするかなどを正しく把握することで、自分の現在地を知ることができるそうです。

2つ目は「小さい頃やっていたことを書き出してみる」こと。

寺田氏「三つ子の魂百までとよく言いますね。小さい頃やっていたことを『動詞』で書いてみましょう。書いてみると今でもそれやっているよねというものが出てきます。意外と天職が見つかるかもしれません」

最後は、「家族、友人、先輩、仲間、専門家と話をして見つけてもらう」こと。
よく「自分探しの旅」と言われますが、自分で自分を見つけられる人はそれほど多くありません。周りの人を上手く頼って話をして、その中で自分を見つけてもらうのが自分を見つける近道になるのです。

その後の質疑応答では、具体的な事業の相談やアルバイトの採用、共同経営についてなど、幅広い質問を取り上げ、それぞれにわかりやすく簡潔に回答して、今回のセミナーは終了となりました。


構成・文/やまぐちきよみ

 

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