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「人・もの・お金」の3つの視点から紐解く、スタートアップの始め方と終わり方(Exit)とは

既存の産業が伸び悩む中、新たなビジネスモデルを開発する「スタートアップ」に注目が集まっています。

中でも今後大きな成長が見込まれているのがIT系です。ただ、スタートアップは、立ち上げ前後の考え方や行動が一般的な起業とはちょっと違います。

そこで今回は、不動産査定AIのサービスの を行なっている株式会社コラビットのCEO・浅海剛氏に「ITスタートアップの始め方と終わり方」というタイトルでレクチャーしていただきました。

元IT系のスタートアップCTOを務め、CEO・代表取締役として二度の起業を経験している浅海氏だからこそ語れる内容は、スタートアップに少しでも興味のある方のヒントになると思います。そんなセミナーの様子をレポートします。

 

講師

浅海 剛氏(株式会社コラビット CEO)

2005年から17年程、ITベンチャー界隈で活動/システムエンジニア/スモールビジネスの起業や、元ITスタートアップCTO、CEO・代表取締役として二度の起業を経験。現在までに3社の経営を行っている。さらに、ITスタートアップへの出資も。Yahoo! JAPANによる買収も経験。現在、JAFCOからの資金調達に成功し、新たなスタートアップを実施中。

スタートアップと起業の決定的な違いとは?

浅海氏「今、ポストコロナで起業する人が大幅に増えています。たとえば店舗型のパン屋を開いたりエンジニアが腕1本で勝負して個人事業主を法人化するのも立派な起業です。そういった起業の中で、特殊な形態なのがスタートアップです。
では、何が特殊なのでしょう? 今日はスタートアップのと特殊さにフォーカスして話をしていきたいと思います。」

スタートアップの業界は、ここ9年間で約12倍と、他の業界よりも急激に伸びているそうです。そんなスタートアップですが、他の起業と1番違うのは、「急激な成長を求められる」ということでしょう。
それ故に巨額な先行投資が必要になり、結果として株式による資金調達が欠かせないことになります。

浅海氏「資金調達が欠かせない反面、資金を出す人がいるのがスタートアップです。ですから、この資金を出す人のビジネスモデルを知っておくことがとても重要です。」

スタートアップに出資を行うのは、ベンチャー企業に出資する投資会社「ベンチャーキャピタル(Venture Capital:以下VC)」です。

VCは、出資者を集めてファンドを組成し、その集めたお金を元にスタートアップを探して投資をします。この投資判断をするのがVCの中にいるパートナーという存在です。

そして、パートナー達もファンドに自ら出資することを求められるので、スタートアップの次にリスクを負っていると言えます。

浅海氏「VCは、ある意味、命をかけて投資をします。そして、スタートアップの成長に合わせてリターンを得るというのがビジネスモデルです。多額の出資をし、その企業の価値が高まった時に売却して売却益を得るというイメージです。」


出資したVC等の投資家が資金回収をするため、スタートアップはいつかはExit(ビジネスに投じた資本の回収手段)を覚悟しなければならない、いつかは株を売らなければならない宿命なのです。

Exitの方法は上場か買収の2つ

Exitの方法は以下の2つあるそうです。

①株式市場へ上場し、株を売れる状態にする
②他の企業による買収(バイアウト)

浅海氏「どちらの道を歩んでも、創業した企業は自分自身のものではなくなります。上場するということは公の器となって、一般の投資家は誰でも株を買えば、所有者の一部になれることになります。」

ただし上場の場合、オーナーシップは失われますが株を保有することもできるし、経営陣として残ることを求められることが多いので上場後も経営者として関与することが多いと浅海氏は話します。

一方、買収は全株を売却するケースが多いので、完全に自分のものでなくなります。ただ、この場合もずっと事業に関わって事業への関与は残り続けることが多いそうです

浅海氏「僕もスタートアップをした時、Exitは覚悟していましたが、実際に直面すると重さが違いました。自分が人生を賭したサービスが他人のものになるのか…と。

あまりに辛くて、耐え切れずに北鎌倉のお寺にチームと一緒に座禅に行ったほどです。僕のような気持ちを抱く方は多いと思います。」

しかし、浅海氏はスタートアップにつきもののExitについて、「そのことばかり考える必要はない」とも言います。さらに「会社のオーナーでいることより、事業の成長を優先させると考えることが大切」とアドバイス。

「せっかく育てた会社を他人に奪われると嘆かず、世の中を良くするための事業として発展してほしいと思うことが大切」と浅海氏は言い切ります。

Exitを「できる」「できない」の分かれ道は?

さて、Exitを覚悟しなければならないと話してきましたが、そもそもExitできるかどうかを判断するのはVCの役割です。そのため、スタートアップを考えている起業家は、VCに「このスタートアップは、Exitできそうだ」という情報を与えなくてはなりません。

では、VCは何を基準にしてExitの可否を判断するのでしょうか?

浅海氏「まず、Exitを見通せるような“大きな未来を語れること”が大切です。大きな未来というのは、つまり株価上昇につながること。これは次の3つにカテゴライズできます。」

【Exitで見られる判断基準】

1    起業家自身とそこに集ったチーム
まず起業家自身が未来を語れる力を持っているかが重要です。社会的インパクトのある事業を作るという決意とプランを語れることが大切です。これがないと仲間を集められなかったり資金調達ができなかったり、いろんな阻害の要因になります。すでに経営チームが集まっていたのなら、仲間や過去の実績も見ます。

ただ、多くのスタートアップは1回目なので実績というよりも、スタートアップをする分野でのその人の業務実績を見ます。

2    プロダクト・事業
プロダクトマーケットフィット(Product Market Fit)という言葉がありますが、これは、マーケットに適した商品やサービスを提供できている状態のことで、広告をしなくてもユーザーが勝手に口コミで集まってくるし、申し込みも勝手に入ります。この状態に近いかどうかも見ます。

たとえば口コミでちゃんとユーザーが増えているとか、ユーザーは少ないけど、使っている人にはめちゃくちゃ刺さっている等を見ていきます。また、売却できるような独自性の高い技術を持っているかどうか等も見ていきます。

3    市場
独自性があって、独自の技術も持っているけれど、日本の市場規模を考えると2億円ぐらいが売上限界となると厳しくなります。理想は、十分な市場規模を最終的に狙えるかがポイントです。

この“最終的”というのが大切で、最初はニッチな市場に見えても、その先に大きな市場へのアプローチが待っていた…みたいなのは非常に有望です。

Exitできない場合、どうなるのか?

全力で頑張ってもExitできるとは限りません。Exitできないとどうなるのでしょうか?

浅海氏「僕の黒歴史ともいえる経験談をひとつ紹介します。10年前に娘が生まれたのですが、あまりにも可愛くて「パパ用育児アプリ」を作りました。コンピュータのソフトウェア開発イベントのHTML5ハッカソンのプレゼンで優勝し、スタートアップの人気投票で2位を獲得しました。

面白そうと人も集まって、みんなで開発にこぎつけたところ、3社ほどのVCから声がかかりました。『いよいよ俺もスタートアップの仲間入りか!』と意気揚々とプレゼンに出向きました。」

ところが、プレゼン後にVCの人から「わかりました。で、その先、何がしたいのですか?」と聞かれた浅海氏。「えっ? 育児が楽しくなればいいなと…」と答えたそうです。すると VCの人も困って、「たとえばそのデータを活用した事業をするとか、アプリ内でパパ向けの育児用品を販売するとか、何かないですか?」と言われたところで自分の間違いに気づき、慌てて帰ったそうです。

まさに大きな未来が見えない状態だったわけですが、浅海氏にとっては恥ずかしい記憶として今も思い出すそうです。しかし、大きな未来を語ってもExitできないこともあります。

Exitできず、会社が停滞して次の打ち手もみつからない時は、以下の3つのケースがあります。

1    リビングデッド
次の資金調達ができないと倒産してしまいますが、目先のお金を稼ぐ手段を確保できれば生き残れます。つまり儲からないけど倒産もしない。事業は継続しますが、株主にとってはいわゆる塩漬けという状態です。

2    ピボット・業態変更
その会社が保有している技術があれば、その技術を基に別の業態を行うケースです。事業は変更しますが株主は残るので、次の業態次第で新たな可能性が生まれ、リビングデッドよりましな状態と言えます。

3    会社を畳む
経営者としては決断が一番難しいケースです。事業も終了するし、株主も全損します。

「僕の知り合いで起業した人はたくさんいますが、会社を畳んだ人は2人しかいません。しかも2人ともコロナの影響を受けてのこと。会社を畳む決断は本当に難しいものです。」と浅海氏も話していました。

スタートアップの最後は、これまで説明してきた5つのどれかに辿り着くことになります。

VCの優先割り当てとは?

ここで浅海氏は「VCの優先割り当て」について説明しました。VCの出資を受ける時に『A種優先株式10%2倍優先』のように、優先という言葉がついた株を発行することになります。これは売却金額の2倍分の取り分をVCが先にとり、残りを分配する契約になることです。

一見、ずるいと思うかもしれませんが、実はリスクヘッジであってVCのためではありません。これによりVC側のリスクを下げることで出資しやすくなるし、スタートアップの評価額も上げやすくなります。また、スタートアップ側にとっても出資を受けやすくなるというメリットがあります。

浅海氏「ここで、2つの事例を紹介します。決算アプリのOrigamiは、100億円ぐらいを調達していて非常に期待されたスタートアップでした。ところが、市場をいっきに変えてしまう出来事がありました。ソフトバンクとヤフーが共同でスタートしたスマホ決済サービスのPayPayの登場です。

このため一瞬にして市場が決着してしまいスタートアップが生きていける状況ではなくなってしまいました。結局、最終的にOrigamiの買収金額は実質0円。買収なのにVC側は全損してしまったという事例です。

もうひとつは成功事例です。IoT通信のSORACOMという会社で、累計資金調達額は約37億円。公表はしていませんが日経クロステックの調べによると、KDDIに200億程で買収されました。しかも株式の過半はスタートアップ側が保有したため、全体の株の評価額としては400億円近くになり、非常に大きなリターンを得たという事例です。」

目指すものが違う上場と買収

上場と買収の説明をしてきましたが、両者は作るものがまったく違うと浅海氏は言います。上場は、組織・文化を作るためのもので、買収は、技術・プロダクトを磨くものだからです。

浅海氏「スタートアップは、強みをどんどん積みあげていく必要があります。まず、独自の技術を開発して、それによって評価の高いプロダクトを作れれば、この時点で買収される可能性が十分にあります。ただし、上場は全くできません。

その上に、効率的に販売する体制があって、高い収益を達成して、継続的に成長していく必要があります。さらに、計画通りに事業達成できていないと上場の基準に達しません。ただし、どちらもスタート時点で重要なのは人です。今までモノと金の話しでしたが、ここで人の話をします。」

なぜ人なのかというと、起業家の熱意や人柄に共感し、あるいは惚れて、仲間が集まってくるからです。

「特に初期メンバーは、お金を求めてないんですよね。“この起業家と一緒に冒険してみたい”という純粋な気持ちを持った仲間です。」と浅海氏は力説します。

スタートアップは最初のプロダクトのローンチがあまりにも大変なため、実は、この熱意を持った仲間がいないと乗り越えられないとも浅海氏は言います。それはVCも承知していて、「こういう人物ならいけそうだな」と、その人の資質をみて出資するところが大きいのです。すべての始まりは、起業家自身なのです。

便利なツールを駆使して熱い想いを表現しよう

それでは、起業家が自分の熱い想いを伝えるにはどうしたら良いのでしょうか。

浅海氏「僕はエンジニアだったので、プログラミングをして動くものを作りました。動くものがあると、やはり伝わりやすいのでおすすめです。裏技としては、実際は何も動いていなくても動いているものがあるようなランニングページを作るという手もあります。」

今は、プログラミングの知識がなくても必要なアプリを作成できる「ノーコード開発」もあるそうです。たとえばランニングページを作りたいならペライチとか、ECサイトの作成ならBASEとか、今は山ほどいろいろなツールがあって、一般社団法人NoCoders Japan協会が『ノーコード・カオスマップ』というのを発表しています。

この中ではまりそうなものを研究して選んで、組み合わせて、最初のプロトタイプを乗り切ってください。

出典:一般社団法人NoCoders Japan協会. All Rights Reserved.
https://no-coders-japan.org/nocode-chaosmap

最後に浅海氏は「ここまで、さんざんスタートアップの覚悟みたいなのを伝えてきましたが、僕は買収される覚悟もなくVCに門前払いされる経験もしています。

みなさんも、あまり恐れずに一歩を踏み出していけたらいいと思います。」とエールを送りました。

 

構成・文/馬渕智子

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